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ずっと、そうだった。
誰も笑ってない時ほど、こーちゃんは笑う。
誰もがヘラヘラしてる時ほど、こーちゃんは怒る。
こんなふうに、誰もが疲れてる時ほど、ひとりで元気。
いつも、隙がない。
誰にも、隙を見せない。
そんなこーちゃんが、はるとと一緒に組むなんて。
おれは、怖い。
はるとに、イジワルしてたこーちゃん。
わざとみたいに、チームの前で、冷たく苛めてた。
許せない。
はると、これ以上、目立たないほうがいいのに。
学園でいちばん目立つ、こーちゃんと組んだら。
ますます悪目立ち。
こーちゃんだって、わかってるはず。
それなのに、どうして。
こーちゃんの親衛隊だって、A組、いっぱいいるのに。
すごく、怖い。
「そーすけ、帰ろーぜー」
「そーすけ、メシ食おー」
ゆーとみーに、腕を引っ張られた。
気づいたら、おれたち以外、もう誰もいなかった。
りっちゃんも帰ったみたいだ。
ひとりきり、こーちゃんだけ席を立たず、黙って書類に目を通してる。
その姿は、あまりに、ピシっとしていて。
心配するところ、ひとつもなくて。
何を考えているのか、なんにもわからない。
いつだって、わからなくって。
「…こーちゃん。」
「ん?宗佑、まだ居たのか。ゆーとみーと早く帰りなー」
それは、おれたちが邪魔、っていうこと…?
こーちゃんのダテ眼鏡の奥、なんにも見えない。
いつだって、わからないまま。
「こーちゃん。」
「んー?」
そんな、エリートみたいに。
書類を繰る、おっきな手。
どうして。
たった1才しか、違わないのに。
いつもあったかく見える手が、冷たく、遠くて。
さっき、あの、時々見せる、やさしい瞳で。
遠くにある何かを見るように、やさしい、やさしい、あったかい瞳で。
メールしていたの、誰かなんて。
ぜったい、教えてくれない、こーちゃんは。
学園の人間には、向けない、あんな瞳。
外の世界で、こーちゃんだけの世界で、何があるかなんて。
おれたちは、全員、ぜったいに誰も知ること、できない。
許されないんだから。
「………はると、取らないで。ぜったい。駄目、だから。」
だって、こーちゃんは、この学園のものは、何ひとつ要らないでしょ。
――…おれが、ちゃんと、聞いていたら。
この時も、そんなことじゃなくて。
もっと、ちゃんと。
「大丈夫?」「何か手伝えない?」って。
ううん、違う、もっと、ほんとうのこと。
「心配してる」「手伝いたい」って。
いつもちゃんと、こーちゃんのこと、見ていてあげられたら。
ゴーちゃんみたいに、気遣ってあげられたら。
おれは、だって、気づいていたのに。
ちらっと、想っていたのに、それを全部見ないフリをした。
こーちゃんだったら、大丈夫なんだって、勝手に………
おれが、ちゃんと、聞いていたら。
哀しいこと、全部、起こらなかった…?
ずっと先の、でもすぐやって来る未来、ずいぶん寒くなってから、おれは、今日のことを想い出す。
2011-10-17 23:44筆[ 417/761 ][*prev] [next#]
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