78.大きくて小さなワンコの遠吠え(4)
やっと、終わった。
体、ギシギシの、ミシミシ。
疲れた。
「「「「「………お疲れ様でしたー…」」」」」
ううん。
おれだけじゃない。
お疲れさま、は、ここにいる人間、全員。
生徒会(ひさしはいつの間にか逃げた)も、風紀も、武士道も、実行委員も、先生も、疲れてる。
ずーっと座りっぱなし。
ずーっとお話しっぱなし。
疲れてないのは、ひさしと。
「お疲れ様でした!」
こーちゃん、だけ。
ひとりだけ、ハキハキしてる。
全員、うんざりしたり、笑顔が消えてたり、青ざめてたり、ほとんど寝かけてたり、げっそり、ぐったりなのに。
大人の先生達も、くたくたの顔、隠せていないのに。
どうして、こーちゃんだけ。
「柾、マジでお前だけで大丈夫か。何も今日中に仕上げなくても」
生徒会顧問で、おれのクラスの先生、ゴーちゃん。
こーちゃんに近寄って、ぼそぼそ、コソコソ。
よく聞こえなかった、その声に、こーちゃんはにっこり。
「俺を誰だと想ってんの?大丈夫だし。さっさと片付けてえだけー御心配なく!キリついたらいつも通り帰るからさ、俺にお任せ下さい、業田先生?」
それぞれ、挨拶し合って、帰って行く。
ため息吐いたり、背伸びしたり、体力ある人ばっかりなのに、疲れきっている。
どうして、こーちゃんだけ。
ごはんもまだなのに、そんなに笑って、背筋をピンと伸ばしているの。
どうしていつも、こーちゃんだけ元気なの。
余裕があるの。
おれには、わからない。
ずっと、わからないまま。
こーちゃんの、ことなんて。
誰にも、わからない、わからないままだと想う。
手を抜いてるから?
ラクしているから?
てきとーに逃げているから?
誰かに押しつけているから?
その分、授業サボってるから?
年齢ごまかしている?
本当は人間じゃない?
いろんな、ウワサがある。
幼等部の頃から、ずっと、こーちゃんは注目されて。
きゃーきゃー、言われて。
でも、実は、良いウワサのほうが少ない。
悪いウワサ、ばっかりで。
たくさん妬まれて、ひがまれて。
おれたち、他の生徒会メンバーの比じゃない。
先輩、同級生、後輩の中でも、いっぱい、危ない目に遭って来た。
表でも、裏でも。
側で見て来たおれたちが、知らない内に、終わっていたことも多い。
でも。
いちばん、知らないのは、こーちゃん本人のこと。
きゃーきゃーの中で、いっぱい悪口、叫ばれてるのに。
あることないこと、好き勝手、言われているのに。
こーちゃんは、全然、ほんとうのことも嘘のことも、なんにも気にしない。
いつも、堂々としてる。
おれがこーちゃんだったら、って考えたら、いつも怖くなるのに。
ぜったい、すぐ辞めてる。
生徒会長も、学園自体も、すぐに辞めて下界へ戻ってる。
どんなに自信があっても、どんな家柄でも、ぜったい、無理。
普通に無理、でもこーちゃんは、平気で受け流している。
今までの生徒会長が、家柄を利用したり、SPとか周囲に置いて、自分を守っていたようなこと。
こーちゃんは、ぜったい、しない。
ひとりで、シャンと立ってる。
おれたちの前でも、弱音どころか、グチだって言わない。
「ダルい」とか「眠い」はよく言うけど、それだけ、だ。
シャンと立って、自由に、笑ったり不機嫌だったり、ノビノビしてる。
誰のことも、良い悪いって、想ってないみたいに。
誰のことも、味方、敵って、想ってないみたいに。
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