75.一体となって
俺の聞き間違い?
そうだ、きっと聞き間違いだ!
うんうんと自分を納得させていたら、カカカっと黒板に書き出された「生徒会長・出場種目」の一覧に、再びぎょっとなったのでした。
う、嘘!
リレーはとにかく、嘘だ!
障害物2人3脚はハードな目玉種目の1つだけに、殆どの生徒さんが敬遠され、強豪さん方もリレーに集中する為、実は点を稼ぎ易いんだって…
クラスの皆さんが太鼓判を押してくださったから、元々興味もあったし、俺も安心して出場の意思を固めさせて頂いたのですが!
いや、待てよ!
そもそもこの競技は学年混合、各チームから2人だけ選抜される。
と言うことは、我がAチームにおける3年生さんが出場希望なさっておられたら、俺は遠慮なく辞退が可能!
大丈夫だよね?!
高校生活最後の体育祭…3年生さん方は張り切っておられるはず!
どうか、希望なさっていてください!
「はー…柾が障害物2人3脚とはねー…」
「「「「「意外性を狙いました!」」」」」
んなっ…!
業田先生のため息に、柾先輩の御友人さま方が揃ってバチっとウィンク、グッジョブと言わんばかりに親指を立てていらっしゃる!
「この生徒会長サマがーまさか今になって障害物に出るたーどっこのチームも想わないっしょー」
「油断しちゃってるだろーねー、他チーム!」
「歴代コスプレ競技の中でも1番面白くなりそーでしょー」
「この競技ってー意外にカワイコちゃんが出場するからー」
「そーゆー意味でも楽しめそーだしー?」
なんと柾先輩の意思ではないのか…御友人さま方、なんという企みを想いついてくださっちゃったのですか!
っく…出場したかったのに〜…!!
ちょっと楽しみにしてたのに〜…!!
しかし致し方あるまい、御友人さま方がお望みになっているカワイコちゃんさん?とやらにも全く該当しないばかりか、面白い芸当など何1つできない俺には、辞退の道しか残されていない。
「まーな…予想外だわな、誰もが。じゃ、リレーより先にコレ決めとくか。柾以外、1年3年でこの競技に出場予定のヤツー手ぇ挙げろー」
それにしても、障害物2人3脚でコスプレって…
ただでさえハードそうな競技が、もんのすごく大変な事態になりそうだねぇ。
我がAチームから柾先輩と組まれる御方も、他チームの方々もお気の毒さま、お疲れさまでございます。
俺はせめて精一杯応援させて頂きますから!
などと想いながら、すっかり辞退者の部外者気分で、のんびりと手を挙げた。
ら。
らら。
あらら…?
「「「「「え…お母さんで決定…?」」」」」
ほへっ?
しぃいいいんとかつてなく静まり返った教室内、一心に皆さまの視線を浴びているのは、俺の、注目浴び慣れていない可哀想な右腕。
だけで。
現実が信じられなくて、受け止められなくて、ひたすら不躾な程にキョロキョロ、何度も何度も教室中を見渡したのだけれど。
上がっているのは、俺の右腕、1本っきりで。
3年生さんも2年生さんも、ぽかーんとしていらっしゃって。
クラスの皆さんも、目をまんまるになさっておられて。
業田先生だけが、うひゃうひゃ笑って、「決定競技/障害物コスプレ2人3脚→柾、前」とカカカっと黒板に書かれた。
「先ず1種目決定ー!」
バカな…!!
そんなバカな!!
「むむ…っ、むむむ無理です、無理ですっ…!!俺など、ポっと出の新参者が学校のアイドルさまと同種目に出場だなんて、何て恐ろしい…!!有り得てはならぬ現実ですっ!!誠に恐縮ながら体育祭のことをまったく何もわかってないズブの素人ですので、俺には荷が重過ぎます!!会長さまにご迷惑をかけるばかりか、チーム優勝の足手まといにっ…!
と言うかそもそも、皆さまが現在目にしていらっしゃるように、俺のこの面構え、このスタイルでコスプレだなどと笑止千万…!無論、親から頂いた大切な身体ですがっ、自分の容姿の不甲斐なさは先刻承知の上、何とか努力しながら歩もうと精進の真っ直中でありますから、こんな未熟な身の上を衆目に晒すだなどと恐ろしいこと…そんな視界の暴力を振る舞うことになるのは、それを見せられる皆さまもお辛いことでしょうが、どなたさまより俺自身が堪え難い責め苦でございますっ!!
どうか、適任者さまはたくさんいらっしゃることとお察し致します、雑用でも何でも進んで協力致しますから、皆さまの心労負担になるコスプレ競技ばかりはご勘弁願いませんでしょうか!どうかどうか皆々さま、今1度ご一考ご検討の程よろしくお願い致しますっ…!!」
がばーっと地に額がつく勢いで一礼し、そもそも柾先輩だってお嫌でしょうに、なんとか巧いこと仰ってくださらないものかと願ったのだけれど。
「へぇ…?前陽大君は、この俺様と組める栄誉を無惨にも蹴り飛ばすんだぁ…?」
なんだ、この人!!
何故このように美貌が際立つ笑顔ながら、悪どく禍々しい気配をたたえておられるのか。
完全に面白がっている様子を間近に、俺はぐらぐらと頭が揺れるのを感じた。
いや、実際に揺れていた。
柾先輩の手がいつの間にか頭上にあって、ゆらゆら揺さぶられているから。
なんなんですか、この人!!
どなたさまがどう見たってこの状態、いじめっ子といじめられっ子の図ですよね?!
背の高さを利用して、俺を見下すだけ見下している、真意が見えない瞳に、この人ほんとうに謎だらけの怖い人だって。
背筋が寒くなった。
「前君って何様〜?俺に逆らうってぇ、よっぽどな立場っつー事だよー?哀しいナー、俺、障害物2人3脚なんて出るの初めてだしー、楽しみにしてたんだよねー。それを前君は想いっきり拒否ってくれちゃってさぁーマジで誰様?てめえが俺様より上に立って断るとか、それこそ有り得ないんですけどー?
…あ、わかったわかった!余りに栄誉過ぎてビビっちゃった系?それならわかるぜ、そりゃそうだよな、遠慮しちゃうよねー?相手がこの俺様だからねー何もそんなキョドんなくてもー前君って足速くてすばしっこいからこそ、この競技に選ばれてんだよな?そうだろ?そうなんだろ?あ?
じゃ、問題なし!但し俺様の引き立て役になんならまだしも、俺様の足引っ張ってんじゃねーぞ!2位以下とか俺無理だからー今までトップしか味わった事ねーのよ、何せ俺だから?肝に命じててネ!
センセー、前君が是非とも俺と組んで勝ち取りに行きたいってー!」
は…あ?!
ゆらゆら揺さぶられている内に、極悪に笑い続けている柾先輩の独演が終わって。
何が何だかわからないまま、まばらな拍手が聞こえ、障害物2人3脚への出場が決まってしまったのでありました。
2011-10-14 23:59筆[ 413/761 ][*prev] [next#]
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