72.ツカミはOK?


 にこやかに談笑しながら入室され、前に立たれた先生方は業田先生は勿論のこと、どなたさまも美丈夫!格好いい大人!といった雰囲気だった。
 それは先生方だけじゃない、1年A組の皆さんも整った容貌の方ばかりだけれども、諸先輩方は更に輪をかけ、成長期を通り越し大人へまっしぐら期へ入っておられるから、1年生より磨きがかかっていると言うか。
 つまり、キラっキラ!!
 いつもの教室が、3倍の人の数で溢れ返って、教室内のキラキラ度が3倍増しじゃ収まらない、300万倍増し!

 広くゆったりと作られた室内、圧迫感などまるでない高い天井設計の為、窮屈さは感じないけれども。
 何せ、キラっキラ!!
 比較することではないけれども、中でも一際キンキラキラキラでピカピカ光る一等星は、無門さんと、柾先輩なのが、またすごい。
 柾先輩なんて、いつになく静かな空気を纏っていらっしゃるというのに…やはりアイドルさまというのは、存在するだけで自然に他者を圧するものなのですな。

 こんなことを学んでもどうしようもない気がするけれども、勉強になりますなぁ。
 それにしても、目がチカチカするったらない。
 お話し合いが終わって寮に戻ったら、ホットタオルで目を休ませないといけませんねぇ…くわばらくわばら。
 くうっ、それにしても大多数の御方が高身長だとは、何て忌々し…っ…いえ、素直に言うなら羨ましい…!キー!!
 ここにいらっしゃる高身長の皆さま(先生方も含めて)が、俺に5ミリずつでも身長を分けてくださったならば…頭の中で算盤を弾いて概算を出した。


 「くくく…おおよそ少なく見積もっても一気に25センチ上の世界へ…ふくくくくくっ…陽大+25センチ…!夢が広がりますなぁ…ふくく…」


 白状しましょう。
 俺は、夢中だったのです。
 あまりのキラキラ空間、キラキラオーラ多発に、すこし当てられてしまったというのもあるかも知れません。
 「業田先生、1年生の前陽大君が変です」
 はっ?!と気づいた時には、教室中が静まり返り、どなたさまも俺を注視なさっておられた。

 え、え、え?!
 俺、まさか、やっちゃってますか?!
 うろたえていたら、シラーっと手を挙げて業田先生に申告なさった張本人、柾先輩と目が合ってしまった。
 なんですかその、心底愉快で堪らない!といった表情は…!!
 次の瞬間、先輩方からも先生方からも、どわっと大爆笑が沸き起こって。
 今すぐ卒倒したいですさせてください神さまと、切なる願いでいっぱいになった。

 「「「「「5ミリずつ身長分けろって…!」」」」」
 「「「「「先生からも分けろって…!」」」」」
 どわぁー!!
 俺はどこからおおきなひとり言をペラペラと…!!
 神さま、俺の力で成長期さまを味方につけるべく努力致しますから、どうか今すぐ時間を戻してくださいませんかー!!
 全身から火が出るぐらい、赤くなっているのが自分でもわかった。

 「「「「「お母さん…大丈夫?」」」」」
 うう…!!
 こんな時にクラスの皆さんの優しさは、傷口に塩をすりこむがごとく!!
 「「「「「お母さんを笑うな!」」」」」
 「「「「「そうだ、そうだ!」」」」」
 ああっ、庇われるのがこんなに辛いとは!!
 「「「「「お母さんは本気なんだ!」」」」」
 「「「「「毎日朝夕そこの柱でこっそり身長測定してるぐらいなんだから!」」」」」

 のわぁ、何故皆さんそれをご存知で!!
 そして、一生懸命庇ってくださる皆さんのお言葉に、ますます笑い崩れ落ちる先輩方、俺が悪いと言えどもどこまで鬼畜なんですか!


 「はるとのことを笑うな―――っ!!!!!」


 あ、あれ…今度は、耳がキーンって鳴ってる…
 そして、教室内がシーンって…
 ふと前を見れば、九さんが俺の盾になってくれていた。

 九さん…?

 「お前ら、ちょっと自分が背ぇ高いからってチョーシづいてんじゃねーぞっ!!いつも見下されてるコッチの気も知らないでっ!!逆の立場だったらどんな気持ちになると思うっ?!男が背ぇ低いとかカワイイとか華奢だとか言われて嬉しいワケないじゃんっ!!!!!好きでこんな風になったんじゃねーのに、背ぇとか伸びる様にガンバってんのに、努力してもどーにもならない事なんていっぱいあるんだぞっ!!何にも知らないクセに簡単に笑うなっ!!はるとだって真剣なんだっ、夢があっていーじゃん!!わかったら、背ぇ高いヤツ全員はるとに謝って、ちゃんと5ミリずつ身長やれっ!!!!!」

 な、なんと!!
 九さん、なんて男らしく勇気ある発言を!!
 ぽ〜っとなっていたら、おおーっと歓声が上がって、パチパチパチっと拍手が鳴り響いた…学年関係なく、背が低めの皆さまからの熱い拍手だった。
 合原さんも力強く拍手していらっしゃるではありませんか。
 皆さん…!!
 俺たち「成長期さんを捕まえ隊」(※陽大たった今命名)の気持ちが、学年の垣根を超えて、がっちりひとつに合わさったのを実感した瞬間だった。

 驚きでいっぱいになっている教室内、いち早く動かれたのは柾先輩だった。
 「ま、身長は分けてやれねえし…俺らも馬鹿にしてる訳じゃねえけど、揶揄の形になって悪かった」
 「「「「「ごめんね」」」」」
 あわわ!
 「い、いえ…あの…俺こそこのような大事な局面で1人盛り上がってしまい…そのっ、甚大なる時間のロス、ご迷惑を、」

 「はると、も、みのる、も、いい子。」
 無門さんが凛とした声を発されて俺を遮った。
 「みんな、仲良し。体育祭、がんばる。みんな、で。お話、しましょ。ね?」
 こてんっと小首を傾げて、にっこり笑った無門さんのお陰で、教室内はたちまちぽわぽわっとあったかい空気に満たされたのでありました。



 2011-10-07 23:51筆


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