70.じゃ、コスプレから決めようか
委員さんが決まった!
いよいよ出場競技についての検討が始まるぞと、気合い新たに意気ごんでいたら。
業田先生が黒板に、おおきく勇ましい文字を綴られた。
『生徒会出場競技対策!』
なんですと?!
「さてとー…じゃ、無門。早速だが、生徒会メンバーの出場競技について、知っている限りの情報を提供してくれ!」
なんですと?!
「はい。」
あら、無門さん、そんなことを言われたら困ってしまうのではと想いきや。
慣れたご様子であっさり頷き、テキパキ立ち上がって、先生の元へ去っていかれた。
うう〜む…?
首を捻っていたら、横からくいくいっと袖を引っ張られた。
「なー、はると…生徒会のヤツらだけ、特別扱いなのかよ…?オレ、そんなの許せない…アイツらがかわいそーじゃん…」
おやおや、九さんのこんなちいさなお声、初めて聞いた…なんだかしゅーんと落ちこんでおられて、こちらの胸まできゅんとなってしまう。
いつも元気いっぱいな御方がションボリさんだったら、心配になってしまう。
九さんったら、周りのことばっかり考えて、ほんとうに優しくて正義感いっぱいの御方なんだなぁ…
その時、はたと想い出した。
「九さん、俺もさっき小耳に挟んだばかりですが…こちらの体育祭では、生徒会の皆さんが出場なさる競技は、何故かコスチュームプレイ必須になるのだとか…」
「こすちゅーむぷれい…って、コスプレっ…?!」
「はいーよくわからないですよねぇ…」
「???うん…」
「その辺りの対策も含めて、これから検討する、ということなのかも知れませんねぇ…例えば、走るのが得意でも変装することで急に記録が落ちるとか、逆に変装するのが得意だとか、人にはいろんな得手不得手があるものですし。十八学園さんにおける変装の意は、学校行事と言えど本格的な気配がしますしねぇ…」
「ふ、ふうん…変装…な、なんか変なのー!」
「ね、おかしいですよねぇ。でも、鑑賞させて頂く分にはなかなか楽しいかも知れませんよー。何はともあれ、一緒に成り行きを見守ってみましょうねぇ」
「うんっ」
ふふー、九さんとこんなに言葉のキャッチボールしたの、初めてですねぇ。
嬉しいなぁ。
…美山さんの鋭い視線と言うか、オーラをビシバシ感じるものの…ここは気にしないでおきましょう…だってゆっくりお話してみたかったし、折角のチャンスなんだものー!
非常に恐縮ですが、敢えて図太い陽大を貫き通させて頂きます。
九さんを独占してしまってごめんなさい、美山さん。
2人でのんびり、小声でお話している内に、黒板には無門さんのお可愛らしいクセ字が並んでいた。
「ゴーちゃん。書いた。」
と言われた無門さんに、先生はニンマリご満悦。
「よしよし。はい、皆注目ー!」
ええと、なになに?
『こーちゃん→500Mリレー(アンカー?)・1000Mリレー(アンカー?)・学年混合リレー(アンカー!)・100M個人・騎馬戦
りっちゃん→50M個人・100M個人・学年混合リレー(アンカー)・2人3脚・騎馬戦
ひさし→借り物競走・2人3脚・学年混合リレー(アンカー)・玉入れ・綱引き
ゆーみー→500Mリレー・借り物競走・学年混合リレー(アンカー)・玉入れ・綱引き』
「「「「「やっぱり…」」」」」
クラスの皆さんの想いは同じらしい。
「学年混合はガチですネ。生徒会の皆様アンカーで、大盛り上がりってトコロですカネー」
「名物行事ですものね」
うんうんと一舎さんたち実行委員さんも深々と頷いていらっしゃる。
そうなんだぁ。
じゃあ、興味はあったものの、俺は変装など到底無理ですから、学年混合リレーは避けたいところですねぇ。
「無門、今年も生徒会は1人5種目参加が目安か?」
「たぶん。ゴーちゃん、もう、座る。い?」
先生の問いかけに、無門さんはおざなりに頷き、こちらへ戻って来られた。
「じゃ、検討して行くかなー。先ず、学年混合リレーのコスプレは確実だ。これは伝統行事とも言えるからな。個人リレー、数10人規模の団体戦のコスプレは除外されるからーそれを除けてっと…問題は、借り物競走なんだよなーコイツらが借り物個人に出るのか、借り物団体に出るのか…2人3脚も障害物2人3脚走なのか、一般2人3脚なのか…判断が難しい所だが」
業田先生がウンウン唸りつつ、実行委員さんたちと短いやりとりを交わしながら、『今年のコスプレ競技予想』なるものを黒板に書き上げた。
『・学年混合リレー
・騎馬戦
・一般2人3脚
・500Mリレー
・1000Mリレー
・借り物競走団体』
うぇ?!
こんなにたくさんの競技が、コスチュームプレイで実施されてしまうのですか?!
俺は呑気に、てっきり1競技、多くて2、3競技ぐらいのものかと想っていました。
しかも…これって、まだ予想の段階で。
実際には、生徒会の皆さまがどれだけの競技に参加されるか、まるで未知数。
減るかも知れないし、増えるかも知れないっていうことだ。
「は、はると…こんな体育祭って…」
「九さん…、ねぇ…」
俺と九さんの想いは恐らく同じ筈だ。
こんなの、おかしくない?!
「よし!じゃ、何か異議がある者は手を挙げて!」
更におかしなことに、業田先生がそう仰った途端、ほとんど全員のクラスの皆さんが挙手なさった!
どなたさまも至って真剣なお顔である!
「はい!僕の得た情報に因ると、昨年、日景館様は騎馬戦で惜しくも敗退なさった為、今年は出場為さらないのではないかと…無門さまの情報を否定したくはないのですが…」
「はい!俺の先輩に因ると、騎馬戦に於いてコスプレを全うする事は難しく危険な為、そもそも生徒会が参加しようがしまいが、コスプレ不可が検討されている節があるそうです!」
「はい!いずれにせよ、副会長様は雪辱に燃えていらっしゃる事と想われます!もしや出場為さらないのでは…という憶測自体、副会長様御本人が流されているデマも有り得るのではないでしょうか」
ひょえー、何たる真剣な意見の戦いの場なのでしょう!
「はい!昨年、柾様はコスプレ回避の為、混合リレー以外は個人戦を網羅為さって居られたそうですが、相当お疲れになった模様です!今年は個人戦は観るのもお嫌といった心境になって居られる可能性があります!」
「はい!七々原ツインズは面倒くさがりさんなので、個人団体関係なく、もしかしたら体育祭の最初から最後までコスプレを貫き通すかも知れません!ですから、ツインズのご出場競技についての検討は不要かと!」
「はい!天谷様は逆に、こういったお祭り事が大好きな御方ですから、敢えてご出場競技全てコスプレ可の種目を狙われるのでは…1番のダークホースだと予想されます!」
その後も、次々と様々な意見が飛び交い、九さんと俺は呆気に取られたまんま、目を白黒しているしかありませんでした。
(九さんの分厚い眼鏡の奥は見えないけれども、きっと間違いないでしょう)
2011-10-04 23:30筆[ 408/761 ][*prev] [next#]
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