69.実行委員も決まったぜ!
「はぁい!では〜体育祭実行委員を決めたいと想いまぁす!」
で、こうなりました。
無門さんは俺の左隣に、九さんは俺の右隣に、先生の采配で落ち着かれた。
この様子を苦々しく見つめておられる、美山さんの視線が痛いです…決して目が合うことはないけれど。
打って変わってにっこにこと笑顔の絶えない業田先生は、パンパンっと軽快に手を打たれた。
「実行委員はー、中等部から実績のある一舎を推したいのですがー、一舎も皆も、何か意見あるかなー?」
「「「「「異議なし!」」」」」
その途端、満場一致でパチパチと拍手が鳴った。
拍手していないのは、俺と九さんと、何にも興味のなさそうな美山さん(お疲れさまなのだろうか、とても気怠そう…)だけだ。
一舎さん、中等部の頃から委員を経験なさっておられるのかあ。
お身体が弱いことも関係しているのかな…
経験なさっておられるのは心強いし、ご本人さまに異議がないのならと一舎さんを見やれば、すっくと立ち上がられたところだった。
「推薦ありがとうゴザイマスー。あんまり目立ちたくナイのデスガー、ま、予定調和デスネ。頑張りマース」
穏やかな表情にほっとした。
ほんとうに慣れていらっしゃるのだろう、そのまま教室の前へしっかりとした足取りで進まれ、これからの話し合いの進行も先生と一緒に為さるようだ。
「頼むぜ、一舎。お前の腹黒い計略なくしてチーム優勝は成り立たねー」
「失礼ナー、業田センセー。僕はチームの勝利に僅かながら貢献シタイと言うか、萌えを目の当たりにシタイと言うか…嗚呼、体育祭…!!ビバ、体育祭…!!」
「へーへー、萌えは置いといてー、後1人選出しないとな。誰か、」
「ちょっと待てよっ!!」
うおっ?
いきなり右横から暴風が発生したものだから、想わず目を見張った。
「こんなのヒドいっ!!ヒロが身体弱いからって、皆で面倒な役押しつけてっ…!!センセーまで寄ってたかって、こんなのイジメじゃんかっ!!!お前ら全員卑怯だっ!!!ヒロが何も言えないからって…!!オレはこんな理不尽な事、許さないんだからなっ!!ヒロがかわいそうだっ!!」
み、耳が…
これぞデジャブだろうか。
九さんの熱い語りは、キーンと余韻を残して、静まり返った教室内に響いた。
わわわ…しかもこの沈黙は、なんだか殺伐としている…?
おろおろと辺りを見渡して、教卓の前にいる一舎さんに視線を移して、ヒヤリとした。
庇われているご本人さまが、それは面白そうに薄く微笑っていらっしゃる…?!
目をこすって見直したら、もうそんな表情はどこにもなくて、軽く目を見張った一舎さんがいらっしゃった。
俺の気の所為、だよね…
なんだか不安は残ったものの、一先ず、肩で息をしている九さんに向き直った。
「九さん…」
「はるともっ!!はるとも、ヒロに面倒くさい役、押しつけるつもりなんだろっ?!そんなのイケないんだぞ!!他人にやらせるんじゃなくって、自分で進んで引き受けなくっちゃダメだっ!!」
取りつく島もなく、必死になってお顔を赤くする九さんに、俺はにっこり笑いかけた。
一瞬ぽかんとなさった九さんは、すぐにまた頬を真っ赤にして、おおきな声を上げた。
「何だよ…!!こんな時に、ヘラヘラ笑って…!!オレは真剣なんだぞっ!!!!!」
「はい。九さんが真剣に一舎さんのことを心配なさっておられるの、よく伝わって来ます」
そっと手を取って、九さんに座るように促した。
「九さんは人のことをとても大切に想える御方なんですね。何も言えないんじゃないかと、他者に代わって立ち上がる勇気があるって、とても素晴らしいことだと想います。なかなかできることじゃありません。でも、すこぅしだけ、1歩引いて見ませんか。業田先生が提案なさった時、教室の中はどんな空気だったでしょう。どなたか野次られたり、卑屈に笑ったりしていらっしゃったら、とても問題があると想います。どうでしょう、想い出してみてください」
「う………だって、オレっ…!!ヒロは弱いから…文句言えないから…」
「俺も入学したばかりですから、学校のことや行事のこと、恥ずかしながらまだまだ把握しておりません。けれど、こんなに皆さん一丸となって、ひとつのイベントに打ちこむって、他ではなかなかないんじゃないかなぁって。
確かに、どの世界でも何かの委員や役に就くことは、責任がかかってとても大変だとお察ししますが…ここではちゃんと、適材適所が生かされているように感じます。一舎さんが今、進んで前に出ていらっしゃったことでも、業田先生との会話も、不自然なところがなかったように想います」
やわらかく言葉を繋いで、伝わるように、目線を合わせた。
「皆さん、ほんとうにチーム優勝目指していらっしゃいますからね!俺たちを代表して、前に立ってくださる実行委員さんたちに協力しながら、この春から参入した俺たちも一緒に頑張りましょうね!九さんも元気いっぱいで足がお早いですしー、ふふふ、楽しみですねー」
九さんから返って来る言葉はなかったけれど。
こくんっと、おおきく頷かれた様子が、とっても愛らしくって口元が綻んでしまった。
「………みのる、やさしい。いいこ。でも、すこぅし、しー。ね。体育祭、だいじょうぶ。ね。」
おお、無門さんも優しいお言葉をかけてくださっている。
再び九さんがこくこくんっと頷かれた時、俺は御2人に集中していたから気づかなかったのだけれど、教室内が「「「「「無門さまが他人に関心を…!」」」」」とざわめいていたようだ。
「流石、お母さんだなー」
パンパンっと、また手を打つ音が聞こえて、慌てて姿勢を正したら、ニヤニヤと笑う先生がいらっしゃった。
からかわないで欲しいのですが…俺、またやっちゃってますか…?
先生は特に言及なさることなく、先へお話を進めた。
「んじゃ、全員納得した所でー委員をとっとと選出しちまわないとなー」
その言葉が終わるか終わらないかの内に、隣のクラスから「「「「「おおおーっ!」」」」」という、それはおおきなどよめきが聞こえた。
なにごとですか?!
はっと全体の空気が硬くなったのを、一舎さんが緩く一笑に付された。
「騙されたらイケませんヨー。意味もなく騒いでコチラを動揺させる作戦デス。よくあるパターン。Aチームは最有力優勝候補なんデー、隣のBチームは戦々恐々とシテるんデスネーガキだナ。でも、そんなBチームの歪んだ愛情も萌えぇ…腐腐腐…A×BかB×Aか…?!腐腐腐…!!エー、ともあれどのチームもさっさと進行してる筈デス。急ぎマショ」
なんとまぁ…
この話し合いの段階から、心理作戦が始まっているのですね。
既に戦いの火蓋が切り落とされている!
「そうだな、一舎の言う通りだ。ヤロー共急ぐぞ!!」
「「「「「押忍!」」」」」
かくして、一舎さん以外の実行委員さんもちゃっちゃと選出されたのでありました。
2011-10-01 11:29筆[ 407/761 ][*prev] [next#]
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