68.気合いも入ったぞ!


 クラス中がぱたぱた、ガタガタと席に着く中、俺も急げ急げと座ったら、九さんとじゃれておられた無門さんがひょっこり来られた。
 着席した俺の横でもじもじなさっておられるお姿…まるでわんこさんが「お散歩行きたいんだけどナー」ってソワソワしているようで、とってもお可愛らしい…
 想わず目を細めながら、ゆっくり静かに声をかけた。
 「どうなさいました?無門さん」
 「はると…。おれ、………。」

 あらまぁ、まだお散歩の時間じゃないでしょう?ごはんもおやつもまだですよ、いいコでもうちょっと辛抱していてね?と、よしよししたくなる…いかんいかん!無門さまの愛らしさに幻想を見ている場合じゃありませんよ!俺ったら!
 憧れのwithわんこさんライフまで、後10年は我慢!我慢!(作者注※陽大の将来設計の中に犬と暮らす予定あり)
 「どうしました?」
 にっこり笑いかけながら、はっと気づいた。
 どうしたもこうしたも、無門さんの席がないからこうして立っておられるのでは?!

 俺ったら!と想っている間に、あれ、急に席がぎゅうぎゅうになった…?
 「おれ。はると、いっしょ。が、いい。いっしょ、席、居る。」
 まあ!
 慌てて身体を半分スライドさせながら、実に満足そうな無門さんを見つめた。
 「ええと…席のこと、業田先生にお伺いしましょうか」
 「いい。これ、いい。これが、いい。」
 この頃にはもう、クラスの皆さんはすっかりそれぞれの席で落ち着いていらっしゃって、こちらを注視なさっておられた。

 ふわー、どうしま「あ―――!!!はるとっ、いけないんだぞっ、そういうのっ…!!!止めろよ、そういうコドモっぽい真似!!そーすけに迷惑かかんじゃんっ!!ホントはるとは軽卒だな―――!!!」しょう………
 がたん、ドガン、ばたんという凄まじい音が最後まで聞こえない内に、九さんが突風の如し勢いでやって来られた。
 「ほらっ!!立てよっ!!そーすけは此所がいーんだってさっ!!はるとはどっか別の所に座りゃーいーじゃんっ!!」
 「わ、九さ、…いっ…」

 痛いっ…!
 勢いよく腕を引っ張られて、その力の強さに想わず声を上げてしまった。
 前陽大、男として不覚!
 ああ、でも九さん、右手は俺の利き手で…料理ができなくなったら困るんです! 
 「わ、わかりました、ちょっと待っ、」
 「早くしろよなっ!!!」
 ぐいーっと引かれて、つんのめりそうになって、腕を庇いたいが為に咄嗟に踏み出した足に、変な重心がかかってぎくっとした。

 走れなくなるのも困ります…!
 俺の生き甲斐、タイムセールに行けなくなったら…!
 ガタン、ガタンっと、あちらこちらで席を立つ音が聞こえた。
 「ちょっと九穂…!!お母さんに気安く触るんじゃないよっ!!痛い目見たくないならその手離せっ!!」
 あわわ、合原さん!
 人相と口調が変わり過ぎていらっしゃいます!

 「穂、ちゃんと状況見て物言えよ…無門が望んでそこに座ってんだからさーお前が口出す事じゃねーだろ?」
 あわわ、大介さん!
 笑っていらっしゃるのに、いつもの爽やかさはどちらへお忘れですか!
 「………みのる………はると、手、早く、離せ。」
 あわわ、無門さん?!
 可愛いわんこさんが、今はライオンさんへレベルアップ?!

 「………」
 え…美山さんまで立っていらっしゃる…?
 唇を噛み締め、眉間に深い皺を刻んでいる…
 「「「「「お母さん…!」」」」」
 あわわ、遂にクラスの皆さんまで!
 「はいはーい!そーこーまーでー!!」
 ガンガンガンっと、教室前方から盛大な音が聞こえ、張り詰めた空気が一気に弾け、急激な静けさが舞い降りた。

 そこには…般若がいらした!
 凄まじい音の出所は、顔色ひとつ変えず拳で黒板を殴りつけていた、業田先生からだった!

 「お前らなぁ…俺様の存在をスルーしてモメてんじゃねーよー…?とっくにHR始まってるっつの、他クラスはとっくに話し合い突入してるっての…それをお前らはクソくだらねー青春群像劇に見せかけた内容ペラッペラのよちよち歩きガキ並お遊戯で潰す気かー…?っざっけんじゃねーぞー…?!」
 ひ、ひええー!!
 あまりのおどろおどろしい雰囲気に、どなたさまも微動だにできず、ごくりっと喉が鳴る音がそこかしこで響いた。
 九さんもびっくりなさったのだろう、腕を解放してくださっていた。

 「体育祭ナメてんのか、ああ゛ん?!てめーらだけの問題じゃねーんだぞ?!2年にはアノ不敗を誇る柾が居る、柾がこのザマ見たら何つーだろーなぁ…?流石の俺様も恐ろしくて言えないっつーの…まして話が纏まってねーなんて事になってみやがれ、てめーら全員2年3年から半殺しにされっぞ?!
 タダでさえ今年のAチームはパなく強豪揃いだ…てめーらも重々わかってんだろーが!!良いか、今年のAチームはな、優勝して当たり前…!!優勝しなかったら地球滅亡!!それぐれーの心構えで居ねーと、他チームに寝首かかれんぞ!!タマ(命)奪られたくなかったらクソくだらねー言い合いしてねーで本気で気合い入れやがれ、ヤロー共!!わかったな…?!」

 「「「「「押忍…!!すみませんでした!!」」」」」

 ご、業田先生…!!
 体育祭に懸ける熱い意気ごみ、十分伝わりましたが…
 このノリって、大喧嘩前のノリノリ武士道と同じです!!



 2011-09-30 23:41筆


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