67.全員揃ったぞ!
なんだか厄介な御方がチームにいらっしゃるようだけれど。
それはそれとして、どうやら十八学園における体育祭とは、本格的に気合いを入れて挑まねばならない一大イベントのようだ。
厄介な御方の武勇伝はとにかく、チーム優勝を狙いたいのは男子たるもの当然のこと!
なんたって我がA組は、新歓で学年1位をかっさらった誉れ高き学級ですからね。
俺も貢献できるように頑張るぞうー!
今日から放課後は武士道とランニングだー!
「オー!」
想わず拳を振り上げたら、合原さんも大介さんも、あちこちで盛り上がっておられたクラスの皆さんも、一瞬きょとんとなさった後、「「「「「オ…?オー!」」」」」と合わせてくださった。
顔から火が出るかと想った…けれども、ノリのいい皆さんに感謝です…。
その時、タイミングよく後ろの扉がソロソロと開いて、皆さんで手を上げたまま振り返ったら。
「無門さん…!」
「「「「「無門様…!」」」」」
ついさっき知ったばかりの、無門さんも同じクラスだったという現実が、本物になって現れた。
気合いから一転、想わず頬が綻んだのだけれど、何故か、扉はもう1度閉められた。
あれれ?
「無門様…やっぱり緊張なさって居られるんだ…」
合原さんが切なそうに呟き、大介さんが息を吐いた。
「つか、皆で拳振り上げて盛り上がってたから余計じゃね?」
あらら!大変!
慌てて後ろの扉へ近寄り、そろりそろりと開いてみたら、おろおろと戸惑ったご様子の無門さんがいらっしゃった。
「無門さん、おはようございます」
驚かさないように声をかけたら、はっとした様子でこちらを見下ろされた…しかし、ほんとうに背が高いですねぇ…
高身長組の皆さんに対しては、その身長を分けてくださったらいいのにと嫉妬が絶えないけれど、無門さんはご苦労が多そうだ。
今も背を屈めている姿勢が苦しそうで、逆に恐縮です。
長い前髪で表情が窺えないのも、いつもの無門さんだなぁ…
同じく前髪(?)で目が隠れている、もふぁっとしたわんこさんみたいだなぁって、いつもほのぼのしちゃうんだよねぇ。
「俺、同じクラスだって知らなくって…さっき教えて頂いてびっくりしたんですよー。すみません、そうとは知らずにお弁当シフトでお世話になっております。改めてよろしくお願いしますね。無門さんが同じクラスで嬉しいですー」
ゆっくり言葉を紡いだところ、無門さんはふるふる震えたかと想うと、がばあっとこちらに抱きついて来られた。
「はると…っ!」
おおっとっとっと!
むむー、実に不本意ながら、俺ごときでは無門さんを支えられません。
口惜しい!
我が身の修行不足が否めないながら、口惜しい!
武士道にはランニングだけではなく、筋肉トレーニングにも付き合ってもらおう。
固く決意しながらも、そのままクラスへなだれこむ形になった。
クラスの皆さんがおおきくどよめいたのを感じながらも、ぎゅうぎゅうにひっついて来られる無門さんが、すこしでも安心してくださるようにと、ぽんぽんと背中を軽く撫でてみた…若干、背伸びで、ね…っく、口惜しい!
「「「「「無門様のミラクルスマイル…!」」」」」
「まさか、ご登校初日で拝見出来るとは…!」
「うっそ、俺らの優勝、コレで確実なんじゃん…?」
「これが生徒会7不思議の1つ…ミラクルスマイルを目撃した者はどんな願いも叶うと言う…これが学園伝説のスマイル!」
「僕、その7不思議は後3つで達成だな…卒業までにクリア出来るかな…」
「そもそも無門様と空間を同じくする事こそミラクル!」
「無門様があんなにお母さんに懐いて…!見よ同胞よ、まるで垂れ下がった耳とちぎれんばかりに振られた尻尾が見える様ではないか…?!」
「…でもさー」
「…うん…」
「…ねぇ…」
(((((いいなー…お母さんのだっことよしよし…)))))
「はると…おれ、おれ…。今日、ヤ。けど、来た。緊張、する、けど…。」
「はい。お忙しい中、初めてクラスでお会いできて嬉しいです。無門さんが頑張ってくださったお陰ですね」
「おれ、おれ…。はると、会いたい、から。」
「光栄ですー無門さん、体育祭一緒に頑張りましょうね!オー!」
「オ?オー…!」
「「「「「オー!」」」」」
今度はちいさく拳を振り上げてみたら、無門さんも合わせてくださった。
それにクラスの皆さんも被ってくださって、なんだか楽しい空気いっぱい!
ううーん、ほんとうにワクワクして来たー!
盛り上がっている内に、予鈴が鳴った。
予鈴と共に、後ろの扉からは久しぶりにお姿を見る…美山さんと九さんが、前の扉からは一舎さんが入って来られた。
もしかして一大イベントともなると、欠席することは許されないのだろうか。
成績に響いたりとか、厳しい決まりとかあったりするのかなぁ…
御3方さま共、体調は大丈夫なのだろうか。
どうかご無理なさらないようにと、心の内で願った。
「あー!!そーすけ!?」
「みのる。」
九さんは無門さんを見つけて、大喜びされていらっしゃるから、このご様子だと元気なのかな。
「はいはーい、俺のクソ可愛いガキんちょ共ー楽しい楽しい体育祭の始まりだよー!オラ、とっとと席に着きやがれー」
すこしほっとしたところで本鈴が鳴り、いつもより不敵な笑みをたたえた業田先生が入って来られた。
さて、俺は何に出場させて頂けるかなあ…
いっぱい走りたいぞー!
2011-09-29 23:52筆[ 405/761 ][*prev] [next#]
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