65.さて、前夜祭が終われば…
新入生歓迎会が終わった。
と想っていたら、もう6月になった。
早いなぁ…
時間が経つスピードが日毎に増す、そんなふうに感じる。
とは言うものの、十八学園に入学して、まだ2ヵ月なんだよねぇ。
毎日が濃密な時間で構成されていて、あっという間に過ぎ去るのだけれど。
あまりにたくさんのことが起こったからだろうか…秘密をいくつか知っているからだろうか…、もうずいぶん長い間、ここで生活しているような気がする。
きっとそれは、よく知っている武士道やひーちゃんがいること、クラスの皆さんや諸先輩方が親切に接してくださっているからなのだろう。
いろいろなことがあるけれど、ここにいらっしゃる皆さんは、温かいお心の持ち主さんばかりだ。
皆さんに甘えて、すっかり腰を落ち着けていないで、気の緩みや惰性でこれ以上の騒動を招き寄せないように、しっかり気をつけなくては。
そう、新歓が終わって土日を挟んだ週明けは、とっても大変だった。
美山さんが九さんのお部屋へ移動なさったことが、校内新聞で暴かれてしまった。
そして、新歓において一成が美山さんに課した「お願いごと」。
その1件に関わることだろう、名前を明かさなかった一成の「大事な子」は、美山さんと同室だった俺に間違いないと、推測されていた。
すこしでも事情をご存知の御方ならば、誰もがそう想うだろう。
武士道と俺は仲良しだし、よくいっしょにいる姿を目撃されているから。
問題は、渦中の美山さんと九さんが、体調不良を理由にしばらく欠席なさったことで、様々な憶測が飛び、学校内は騒然となってしまった。
折しも部屋替え実行したばかり、一体、御2人はどうなっているのかと。
現在も御2人揃ってお休みがちで、1日出席なさっている姿をなかなかお見かけしない。
とても、心配だ………
心配だけれど、またも騒動の直中(ただなか)にいる俺は、今はほんとうに動くべきじゃないと皆さま…3大勢力さんや富田先輩…から言われ、どうすることもできず日々を過ごしている。
へたに出歩くと危険だからと、お弁当シフトは当面お休み中。
『誰かを心配している余裕はない筈だ。陽大は陽大の日常を守れ』と、皆さまを代表して柾先輩からメールで告げられた。
反抗したいような、わけもなく哀しいような、さまざまな想いに囚われたものの、結局、俺に今できることは何もない。
大人しく勉学に励み、静かに学校生活を送ることにした。
そんな俺に、クラスの皆さんは普段通りに明るく接してくださった。
休憩時間にはどなたか話しかけてくださったり、お昼休みをいっしょに過ごしてくださったり、移動教室は左右前後を囲って歩いてくださったり…勉強でわからないところも、皆さん一丸となって教えてくださった。
クラスの皆さんだけじゃない、放課後は必ず武士道が迎えに来てくれた。
1人になったら危ないと、仁や一成に予定が入っていない時は、特別寮へ招いてくれた。
2人がいない時は、今や1人部屋となった俺の部屋へ、複数で遊びに来てくれた…時には、クラスメイトさんや3大勢力さん(流石にトップの方々はいらっしゃらない)も混じって、にぎやかなお泊まり会となることも多かった。
そういうふうに、俺が気落ちしないように、気を遣わないようにと、皆さんで守ってくださっている。
俺はただただ、笑顔で挨拶を心がけ、すこしでもおいしくなるように気持ちをこめて、料理を作ることしかできない。
それでいいよ、って。
認めてもらえることはしあわせで、とても、怖かった。
とにかく事態が落ち着くまで…
気をしっかり保って、学生らしい生活を。
何度か十八さんに、退学願いを言い出そうかと想ったのだけれど。
とにかく、もうすこし、事態が落ち着くまで………。
「「「「「お母さん、おはようっ!」」」」」
いつも通りに登校した朝、学校の空気が急にまた変わったことを感じた。
「おはよう…どうしたの、皆。なんだか楽しそう!」
そういや、今朝いっしょに登校してくれた、トンチンカンよしこちゃんたちも、どことなくソワソワ浮き足立っていたっけ。
いつより明るく元気な皆さんにつられて、俺もなんだかワクワクした。
一体何があるのだろう。
今日の予定で、特に変わったものはなかったと想うのだけれど。
首を傾げると、クラスの皆さんはにこにこ。
「「「「「いよいよ体育祭だよ!」」」」」
2011-09-25 23:46筆[ 403/761 ][*prev] [next#]
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