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「さぁて…」
「「さぁてとうっ」」
むむぅ?!
冷蔵庫を覗きこむのを一時中断し、パタリと扉を閉めた。
「「???おじやは…?」」
きょとーんとしつつ、ちょっぴり不安そうに首を傾げる2人を振り返り、コホンと咳払い。
「あのねぇ…すぐできるから、いちいち人の真似してないで、向こうで待ってなさい。お手伝いは今日はいいから。ほら、マリ●カートで遊んでなさいな」
一成の部屋まで帰って来るなり、手洗いうがいをバッチリ済ませ、キッチンへ飛びこんだ。
そうしたらついて来たお手伝いしたがりさんたち、やんわり追い払おうとしたら。
「「……やだ。です…」」
やだ?
なぜ?!
「どうして?そんなにお腹ペコペコなの?すぐできるから、2人でいい子に待てるでしょ。あちこち動き回って疲れてるだろうから、ゆっくりしてなさい。それに、おいしいおいしい点心の差し入れしてもらったし…お礼の前のささやかなお礼、ということで、俺1人で十分だよ〜」
「「……やだ。です…」」
まぁ、困ったこと。
どうしようもお手伝いしてもらいようがないのだけれど。
うーんと唸ったら、両面から抱きつかれた。
「今日ははるとと殆ど一緒に居られなかったから」
「あんな極悪エロ魔神に屈辱のはるる独占タイム2回目だったから」
「「一緒にいる。です」」
まぁ、しょうがないこと。
「仁も一成も〜俺より先輩だったくせに、いつからこんなに甘えたになったの!この春までは、会えない時間のほうが多かったのに〜」
やれやれと、2人の頭を交互に撫でたら、ぼそぼそっと低い呟きが聞こえた。
「「………十八はライバル多過ぎだから………いえ、そう、つまり、甘えたい時期なんデスヨ!」」
「まぁまぁ、高校2年生ってそういう多感な時期なのかねぇ…しょうがない人たちだなぁ。わかったから、ちょっと離れて。見ていてもいいけれど、ただし!」
「「はい!」」
「ここはお台所、料理をする場所です。取り扱い要注意の器具が多いこと、食べものを扱う場所だということ、今まで散々言って来たのだから、2人共わかっているでしょう?今日は特にお手伝いしてもらうことがないし、離れた場所で静かに見ていること。いいですか?わかりましたね?お約束が守れないのなら即刻追い出します」
「「約束できます!口チャック!」」
「よろしい!では、料理を始めます」
ペコリと一礼し合って、仁と一成はキッチンの片隅へ、俺は深呼吸数回して気持ちを整えてから、再び冷蔵庫へ向かった。
おぉ!
まるで狙ったように、食材の半端な残りがちょこちょこあるじゃないですか。
明日はお休みだし、パンと卵とベーコンと…作りおきのブロッコリーのポタージュスープもあったかな、それで簡単に朝ごはんにして、すぐに買い出しに行けばいいから…うん、この際、残りはぜーんぶおじやに入れてしまいましょう!
先ずはお鍋に自家製かつおと昆布の出汁とお水を入れて、その中に半端に残ってた手羽元2本も入れて、火にかけてっと。
その間に、キャベツのかけら、人参のしっぽ辺り、玉ねぎ半分は、火が通りやすいように細かく、薄く切っておきましょうね。
しめじ半株はほぐして、豆腐1/3丁は水切りしておこう。
む、生姜の半端なカケラもありますなぁ、これも細かく刻んで、お鍋に入れちゃおう。
冷凍ごはんを、レンジでチンしたら、ザルにあけて軽く水洗いして。
そうこうしている内に煮立って来たお鍋、鶏から出た灰汁をぱっぱと取ったら、醤油とみりんを少々入れて、野菜を投入!
う〜む、このスープだけでもおいしそうじゃないですか。
生姜とお出汁の香りがいいですなぁ…アロマですなぁ…
おっと、この間に卵を溶いておいて、冷凍してある小口切りのネギを用意!
お野菜に火が通ったら、しめじとごはんを入れて、ぐつぐつ煮こむ。
しめじがくたっとなる前に、水切りしておいた豆腐をほぐし入れて、更にひと煮立ち。
頃合いを見て、卵をまんべんなく溶き入れながら、素早く蓋!
素早く火を止める!
「あ!お手伝いあったよ!」
余熱で卵をふんわりさせている合間に、2人に声をかけたら、キッチンの片隅でちいさくなりながら、うっとりとお鍋を見守っていた2人がびくっと肩を震わせた。
そんなに驚かなくてもいいのになぁって、おかしくなって笑った。
「ごめんね、急に声かけて。テーブルの用意と食器を出してもらってもいい?」
「「イエッサー!」」
ぴゅーっと飛んで行った2人を見送ってから、蓋を開けたら、ほんわかおいしそうなおじやの出来上がり。
ネギを散らして、ますます彩りよく、我ながらおいしそうな出来映え!
片栗粉でとろみをつけてもよかったなぁ…ま、もうじき初夏だしいっか。
ん、おじやには冷たい副菜が欠かせませんね。
出汁を取った後の昆布を甘く煮込んだのと、大根ときゅうりの浅漬けでいいかな。
「「うまそ〜…」」
テーブルに並んだお夜食に、2人共、目を丸くしている。
「大袈裟だなぁ!冷蔵庫スッキリおじやなのに」
「「冷蔵庫スッキリおじや…!すげぇ…パねぇ…」」
ええ、ええ、お陰さまで冷蔵庫の中、明日の朝ごはん終了と共にすっからか〜んですとも!
たくさん食べる子がいると、助かっちゃうなぁ。
「さぁ、あったかい内に召し上がれー!熱いから、ゆっくり食べるんですよ?」
お椀によそって渡したら、お行儀のいい2人はきちんと正座して、パンっと手を合わせた。
「「いただきます!」」
う〜ん、見事な食べっぷり。
2人共ほんとうにおいしそうに食べてくれるから、すっごく嬉しい。
作り甲斐あるんだよねぇ。
おいしいおいしいって言ってくれて、お箸の勢いが止まらない様子を見ていると、ほんとうに満たされる。
「はいはい、慌てないのー!ちゃんと半分こしなさい。ふぅ、俺はお茶でも入れて来ようかな」
「「お茶もお片付けも出来る。お風呂入って来たら?」」
あら、まあ、何と孝行なお言葉、確かに寝る時間はとっくに過ぎているのだけれど。
「そぉ?2人でちゃんと仲良くできる?」
「「できる、できる」」
「…繰り返して言うところが怪しいんだけどなぁ…」
「「できます、お任せ下さい」」
まあ、基本的には仲良しの仁と一成だものね。
じゃあお願いねと言いおいて、お風呂へ向かった。
「「………」」
「…つか、一成、極悪人〜」
「何が〜?仲良くしないとはるるに怒られるんだよ、お兄ちゃん!」
「誰がてめぇのお兄ちゃんだっつの…同年だろうが」
「はるる曰く、武士道では仁が長男、俺が次男なんだってさ〜まさかはるるに逆らう気〜?」
「まさか!俺がはるとに反抗するワケねーし!…じゃなくて、一成てめぇ、よくペラペラでまかせ言えるよなぁ?マジ感心したし」
「はぁ〜?俺が?でまかせ?常に真実しか話しませんけど〜?」
「っは、よく言う…赤狼を憎んでないとか、はるとだけじゃなくて他にも迷惑掛かるとか、ほとぼり覚めるまでとか、全部嘘だろうが」
「何の事かわかんな〜い!おっと、俺のお椀に鶏手羽2本〜ゲットゲット〜」
「てめ…!!マジで怖い奴〜!!ま、せいぜいはるとの前で化けの皮が剥がれん様にするんだな」
「あっは、仁、ソッチこそ笑わさないでよね〜てめぇこそ虚飾の『良い兄貴』面がバレない様にしろっての〜」
2011-09-23 23:47筆[ 401/761 ][*prev] [next#]
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