62.真実と虚偽の交差点


 デザートまで余さず頂き、大満足の極楽気分!
 ふぃ〜…食べた食べた…
 あぁ〜おいしかったなぁあ…
 全部全部、おいしかったなぁあ…
 青菜のしゃっきり炒めも、コクのある八宝菜も、ぷりっぷりの海老饅頭も、具だくさんで多種多様な蒸し餃子、焼売たちも、とろとろほわほわの肉団子スープも、山菜や揚げ野菜をトッピングして頂くふんわりとろ〜りのおかゆも、サクサク熱々の胡麻団子も、とぅるるん杏仁も、香気が全身を行き渡るようなかぐわしいジャスミンティーも…

 ああ、でも何よりも1番は、小龍包…!!
 小龍包おぉぉぉ…!!
 とぅるりんをおっとっととパクーってしたら、じゅわわわぁん!で、アッチアチのはっふはふ、ほっふほふしながらパックリごっくーん!
 おいしかったなぁあ…!!
 うっとり、頬を抱えていたら。
 「陽大、余韻に浸ってるとこ悪ぃけど。お迎え来たぞ」
 「「お待たせ〜」」
 

 というわけで。

 柾先輩に丁重にお礼を申し上げ(必ずや俺のできる範囲でご恩返しを!なるべく遠い距離から!と心に誓いながら)、時間をずらして帰ると仰った先輩に、おやすみなさいとお疲れさまですを告げて、プレミアのドラさんたちを腕に抱え、隠れ家さんを辞去して。
 森の中を駆け抜け、寮へ向かう道を辿りながら帰宅中。
 その間、一切無言。
 誰も、一言もしゃべらない。
 居心地の悪い空気ではない、けれど。
 話さなければいけないことがある、誰が口火を切るか、無言の内に譲り合ってるような、そんな状態。
 
 仁も、一成も、私服に着替えている。
 お風呂も入った後かもしれない。
 なんだかこざっぱりした雰囲気だ。
 立食パーティーは出席したのかな…
 この子たち、ちゃんとごはん食べたんだろうか。
 そう考えた時、絶妙のタイミングで、約1名のお腹が盛大に「ぐぎゅるるるぅうう〜」と鳴った。
 それは、夜の世界の静寂を破るに相応しい、ちょっとした騒音だったようで。
 虫たちは音楽を奏でるのを一瞬止め、鳥や小動物たちは驚いたのだろう、慌ただしく動く足音や草葉を揺らして通り過ぎて行く音、羽音が忙しなく聞こえた。

 「………ぷっ」
 俺も想わず、笑ってしまいました。
 「も〜仁〜何なの、このタイミングで〜」
 「悪ぃ悪ぃ…マジ腹減ってんだわ。やっぱビーフカツも食えば良かった」
 「ふふっ、動物たちもびっくりしたみたいだよ。2人共、あんまり食べてないの?」
 「「だって…はると(はるる)のメシじゃないと食う気しね〜し…」」
 まぁ、この子たちったら!
 それは作り手としてとっても嬉しい言葉だけれども、心配でもありますよ、俺は。
 俺がいない時でも、ちゃんと3度3度の食事は摂らなくちゃ…折角のイケメンっぷりが台無しでしょうが。

 と、いつもならクドクドとお説教タイムに突入するところなんだけど。
 「しょうがない人たちだねぇ…よしよし、帰ったら特製おじやを作ってみせようではありませんか」
 「「わぁ、特製おじや!やったぁ〜」」
 「その代わり!」
 「「はい!」」
 「食べたらまたすぐ歯磨きして、軽く運動してから寝るんですよ!」
 「「はぁい!食器は俺らが洗う〜」」
 「うん、ありがとう!じゃ、とっとと帰ろうね〜」
 「「ね〜おじや!おじや!」」

 さぁて、一成さんチの冷蔵庫には何があったかなぁと、俺の左右で喜ぶ2人を交互に見つめながら思案していたら。
 一成と、目が合った。
 どきっと、した。
 自然に逸らしたかったけど、ここまで確実に視線がぶつかっている以上、逸らせるわけもなく。
 ………俺は、それで一成を傷つけてしまったこともあるから………
 動揺しているの、絶対にバレちゃってるよねと想いながらも、目が合ったまま、意味もなくへらりと笑ってみた。

 そうしたら、一成は、困ったみたいに目を細めて、やわらかく苦笑した。
 「…ごめんね〜はるる」
 「え…っと…何、が…?」
 一成が、俺に謝ることなんて。
 「ほら、こうやって困らせてるじゃん〜ごめんね、デキの悪いコで〜」
 そんな、そんなことないって…ないのに。
 否定する前に、一成の眼差しがまっすぐに、強いものへ変わった。


 「けど俺、どーしても抑えられなかったから。美山は此所ですげー中途半端な事ばっかしてる。親衛隊を放置しながら、都合の良い時だけ構ってんのもそ〜だし、実際、その所為ではるるにも被害いっちゃったでしょ。宇宙人と仲良くすんのは勝手にしろだけど〜いきなり部屋替えとか、はるるを動揺させ過ぎ。許せねぇの、どーしても。
 あいつにはここらで想い知らせてやんねーと、はるるだけじゃなくて他にも迷惑かかんでしょ。はるるが困るだろーなって、わかってたけど。俺は俺の知らない所ではるるを傷付けられんのは絶対許せねぇの。俺にとってはるるは、マジで大事な人だから。
 勝手ばっかで悪いけど〜俺は俺のやり方で、俺の大事なものを護る。……ま、これで当分美山も大人しいだろ〜し。別に憎んでるワケじゃないからね〜ほとぼり覚めるまで、ってカンジ〜?」
 

 一成は、すぐにまたいつもの顔に戻って、ゆうるりと微笑って、俺の頭をぽんぽんっと撫でた。
 一成が敢えて名前を伏せたお願いごと…厚かましくもまさか俺のことじゃないだろうかなんて、不安に想ったりしてた、予感は的中してしまった。
 それは、胸の辺りがぎゅっと苦しくなることだけれど。
 なんだ、やっぱり憎み合ってのことじゃないんだっていう安堵感と、『ほとぼり覚めるまで』っていう言葉に、身構えていた気持ちが解けた。

 「うん………わかった、一成。一成がちゃんといろいろ考えて動く子だってこと、俺のことをいつも心配してくれてること、ちゃんと知ってるから…俺のほうこそ、入学早々気を遣わせてばかりでごめんね。心配してくれて、ありがとう…」
 美山さんがどんなふうにやんちゃなさっておられるのか、俺にはわからないけれど。
 また一緒に、美山さんと武士道と、もちろん九さんとも他の皆さんとも、わいわいたのしくごはんを食べられたらいいなぁって、心から願った。



 2011-09-22 23:56筆


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