26.美山 樹
変なヤツ。
マジ、変なヤツがやって来た。
今、ヤツは部屋のあちこちを「探検」と称して散策中、何か見つける度にぶつぶつ呟いたり驚いたりため息吐いたり、俺に遠慮しながらもいちいち反応してやがる。
ガキか、っつーの。
外部生が俺の同室者だって、管理のじーさんに聞いてから、超不愉快だった。
面倒くせぇ。
持ち上がりが主のこの腐れ学園、俺を知ってるヤツのが、厄介な手間が省けてラクだってのに。
「手のつけられない不良」
「目が合ったら殺される」
「気に入られたら抱いてもらえる」
「喧嘩や性欲に飢えた、狼そのもの」
「近付いたら暴力か強姦を受ける」
人の見てくれだけで判断しやがる、お上品なヤロー共の下衆な噂が勝手に独り立ちして、誰からもそう見られる様になった。
尚且つ。
「美山家の家名汚し」
決定打はコレだった。
あぁ、そうだ。
その通りだ。
唯一的を得ていた、俺の俗称。
父親という名前の「現当主」の女道楽の果て、一族の末端に生まれた俺だ、邪魔者でしかない。
だからこそ俺は、こんな山奥のくだらねー全寮制学園に閉じ込められたんだ。
だから、何だ。
誰に文句を言われる筋合いもねー。
俺をてめぇらの濁った価値観で見るってなら、上等だ。
てめぇらの望む通りに、成ってやろうじゃん。
実際、飢えてる。
何もない辺鄙な山の中で、娯楽に飢えてた俺は、噂通りの「美山樹」に成るという娯楽に夢中になった。
長期休みという、ヒマを持て余すしかない時間は、街で学園内と同じ行動を繰り返した。
そうして自分を保った。
同じ様な人間と徒党を組み、チームに入った事もある。
幾分、飢えが薄らいだ。
生まれた時からカラッポな俺は、何も変わらねぇけど。
同室者の入寮日、たまたま寮に居た俺は、最初に「挨拶」してやろうと考えていた。
軽く一、二発殴っとけば、今後一年は静かに過ごせるだろう。
管理のじーさんに因ると、フツーの一般人らしい。
言うこと聞かせんのも楽勝だ。
そう考え、何故か二回開閉された扉を怪訝に思いつつ、玄関先で狙い澄ましてたら…
手の甲の包帯に視線を向けた。
きっちり巻かれた包帯。
ワケのわからない鍋での防御と、オロオロしたかと想ったら真剣な謝罪と手当てと…
この俺の見てくれにも、出会い頭に殴られかけた事にも、何もビビらずに視線を合わせ、まくしたててきやがった。
今まで見た事がない、奇妙な度胸っぷり。
「……変な、ヤツ……」
よくわかんねー。
黒髪黒目でそこらに転がってそうな、通行人Aにも成れないZってカンジの平凡なチビのクセに。
「うぉおー!!!!!猫足バスタブ、キタァァァ―――っ!!!」
遂に叫び出した完全に変なヤツに、俺はため息を吐いた。
2010-04-21 10:42筆[ 40/761 ][*prev] [next#]
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