56.音成大介の走れ!毎日!(6)
陽大も心配だけど、優先すべきはコッチだよな。
まったく…マジで手ぇ掛かるわコイツら。
でも此所でお灸据えとかねーと、後々陽大に火の粉が降り掛かる可能性がある。
ただでさえ美山の親衛隊に目ぇ付けられてんだ。
負担は1つでも少ない方が、俺にとっても動き易いから。
面倒くせーけど、あの空気読めない穂がこれ以上要らん事して美山を危篤に貶めない内に対処しないとな…
やれやれ、マジで損な役回りだわー、俺って。
武士道が完全に立ち去ったのを見届けてから、そっと側へ近寄った。
「ミキ…ミキ!!」
意外な事に、穂は動揺しまくってたけどオチてる美山に手を触れず、ただ傍らで名前を連呼し続けていた。
無配慮で無遠慮な質の穂が…と、ちょっと目を見張った。
怪我や病気で意識を失った、明らか危ない状態にある奴には、みだりに触れたり刺激を与えない方が良い。
そういう常識だけど細やかな事、コイツが知ってるとはね。
単純に、気持ち悪くて触れられないってだけかも知れないけど。
「ミキっ……?!あ、ダイスケ!!どうしよう、ダイスケっ、ミキが、ミキが…!!なぁ、どうしよう!!全部全部、武士道の銀色が悪いんだっ!!オレっ、見てたから知ってるんだ!!新歓で、銀色がミキに絡んで来たのも知ってるしっ、武士道全員でミキに喧嘩しかけてっ…!!ヤツら、卑怯過ぎる!!ダイスケも見ただろ?!講堂で無理矢理ワケわかんねー事をミキに誓わせてさっ!!その後もアイツら、ミキに何か話しかけててっ…なぁ、ダイスケ、オレ、十八さんに、」
俺に気付いた途端に、縋りついて来る穂を相手にせず、冷静に美山の様子を調べた。
意識はないけど、呼吸はしてる。
鳩尾に相当喰らってんだろう、随分苦しそうだ。
コイツの全身、痣だらけだろうな…肋骨辺りもヤラれてんじゃね。
こめかみが赤くなってる、その衝撃で脳震盪起こしてたらヤバいけど。
コイツだって相当やんちゃして来てんだ、ここまで丁寧に痛め付けられたのは初めてだろーけど、多少の耐久性はあんだろ。
手足が無事なだけ、御の字ってもんだ。
あの武士道の副長相手に、さ。
しかし流石に目の当たりにしたらゾッとするなー…
何だこの、計算され尽くしたいたぶられ方。
鳥肌立ちつつ、まったく馬鹿げた事を言い始めた穂に、改めて向き直った。
「穂、静かに。その先は2度と誰にも言うな。新歓中にトラブってた事は知らないけど、武士道が美山に目を付けてたのは、さっきの状況見てたから大体わかる。取り敢えず美山、手当しねーとな」
「な…!!ダイスケ、知ってたのか?!ミキが、武士道にっ…!!じゃあ、何で助けてくれなかったんだよっ?!さっきも、見てたんなら、どうしてっ?!オレとダイスケで頑張ったら、武士道なんて所詮、権力に弱い不良集団じゃん?!絶対、倒せてたのにっ!!だってアイツら、オレが十八さんの名前出したら、」
「………穂」
どうにも感情が抑え切れなくなって、つい苛立った声を出した。
穂がびくっと肩を揺らしたのがわかった。
「少し落ち着け。良いか、俺が今から言う事をよく聞くんだ。此所の常識だ、覚えろ。武士道には絶対に関わるな。特に2トップの加賀野井仁先輩と成勢一成先輩には、絶対に2度と関わるな。学園でも、街でも、だ。
3大勢力は理事長の黙認で成り立ってる。噂に因ると、理事長自ら認可して、その活動を最大限に推奨して居られるとも言われている。つまり武士道だけじゃない、生徒会、風紀委員会は理事長のお膝元、言わば彼等の言う事為す事は、理事長の意思そのもの。彼等が正義だとすれば、余程の不条理じゃない限り、理事長もそれを正義とする。
彼等もまた、余程の事ではない限りその権力を行使しない。まして私欲で動く事は有り得ない。
その3大勢力の一端を担う武士道に、美山は目を付けられた。俺はずっと昔から気を付けろって美山に注意して来たけど、コイツはまったく聞く耳持たなかった、その結果がコレだ。
だから、誰もお前等の味方にはならない、お前が何者で在ろうとも」
「そんな…!!そんなの、不公平だっ!!おかしいじゃん!!大体、武士道なんて大した事な、」
「穂。例え武士道が3大勢力じゃなくても、俺は関わるなって言うぜ。武士道はただのユルい不良の集まりじゃねー、マジで強いし相当ヤバい。チーム自体ヤバいけど、あの2トップは半端ない。此所でタイマン張れんのは、風紀委員会か生徒会しかない。
もっと言うなら、柾生徒会長にも容易に近付くな。あの人は誰よりもヤバい。すげー自制して『十八学園たる生徒会長』の姿を演じてるけど、間違っても喧嘩吹っ掛けて良い人じゃない。
良いか、それだけ3大勢力はヤバい人間の集まりなんだ。お前が考えてるよりずっと複雑なシステムが十八には存在する。それは誰にも乱す事の出来ない、学園を成り立たせる為に必要な事なんだ」
「なんで…?!なんで、そんな…卑怯だっ…ダイスケまでそんな弱気な事、言うなよっ…オレは、オレは強いのに!!」
「武器を所持していたら、誰だって強くなるだろうな」
「………!!あれ、は、武器なんかじゃ…」
「それに、卑怯卑怯って言ってるけど、じゃあ無傷の穂はどうなんだ?お前は新歓中、美山と一緒に居たんだろ?」
完全に言葉を失い、俯くだけになった穂に、やっと大人しくなったとげんなり想った。
「とにかく、今は美山が優先だな…保健室に運ぶしかないか」
やーれやれ…っとに世話の焼ける狼ちゃんだぜ。
雇用主様に知れたら、捨てとけって言われるんだろうな。
まぁね、俺もそれで良いんだけどー、美山とは昔からの腐れ縁っつか、何かと同クラになるご縁があったしねー。
俺だってクラスメイトが野垂れ死ぬ姿は見たくないし。
どっこいしょっと、なるべく振動を起こさない様におぶった美山は、ぐったりしていて熱かった。
怪我の影響で発熱してんのか。
「………余計、……すんな…」
掠れた途切れ途切れの声が聞こえた。
あれ、ギリギリ起きてるって感じか。
「うるさい。黙ってろ」
笑顔で一蹴して、そのまま歩き出す。
それにしてもコイツ、背丈の割には軽いしあんまり肉付いてねーなー。
陽大と同室っていう恵まれた環境、捨てちゃってんだから無理もないか。
ついて来ないかと想った穂は、無言ですぐ横を歩いている。
お気の毒だけど。
現実をちゃんと理解して、ルールを把握してねーと、此所では生きて行けないんだぜ。
それは下界でも、家でも、何処に居ても同じだろ。
2011-09-15 23:59筆[ 394/761 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
- 戻る -
- 表紙へ戻る -