55.天使バルサンが奏でる狂想曲(8)


 結局はるとを捕まえらんないまま、新歓は終わった。
 コウにも会えなかったし!!
 なんだよ、すっげーつまんねー!!
 十八の新歓、疲れるばっかでサイアクだ。
 来年は俺の力でもっと別の楽しいイベントに絶対変えるっ!!
 講堂に戻ったら、はるとは全然疲れたカンジもなくて、相変わらずのほほんとクラスのヤツらを周りに囲ませてた。
 ヒロが言ってた事…思い出したら、ムカついたけど。

 そんなんじゃダメなんだぞって言ってやりたかったけど、オレはへとへとだったから、また明日からで良いや。
 あーもうっ、早くこのヅラとか眼鏡とか取っちゃいたい!!
 暑い〜…ムシムシする〜!!
 そうだ、オレは変装してるから誰よりも大変なんだ。
 だからはるとの事も捕まえられなかったんだ。
 なんだ、やっぱオレの所為じゃないじゃん。
 くそっ、とにかく早く帰りたいぞっ!!

 ミキは何処だ?!
 なんで居ないんだよ。
 ミキめ、また俺を放ってサボってんじゃねーだろうな。
 きょろきょろ辺りを見渡しても、ミキは何処にもいなかった。
 なんだよ!!
 マジで面白くないっ!!
 もうミキなんか知らねー!!
 今日は金曜だし…久しぶりに街に出て、阿修羅の連中呼び出して遊ぼっかな。
 ちょっと暴れてやろうかな。
 じゃねーと、オレの気が済まねー!!

 どーせ皆も明日は休みだろーし、今日はオールで派手に遊んでやるっ。
 そんで月曜から、本格的に十八学園改造計画スタートだ!!
 よしっ、ちょっと元気出て来たぞー!!
 盛り上がってたら、なんか知んないけど、キモチワルイお願いタイムとやらが始まった。
 うげー…皆、人前でよくやるなぁ…
 うっわ、かわいそーに、結構な男前なのにあんなチビデブ男に告られてやんの…でもOKするしかないんだな…
 捕まる方も捕まる方だ、マヌケ過ぎだけど、あんまり釣り合い取れてないのはかわいそーじゃね?!
 ブサイク同士の友情もコワいなー…いちいち壇上に上がる必要なくね?!

 って、壇上には生徒会が勢揃いじゃん!!
 コ、コウも居る…!!
 やっぱ舞台に上がんのはコウ達だけでいーんじゃねーの。
 一緒に上がらされるヤツらも気の毒だぜ。
 でも意外とエライんだなー生徒会のヤツら、ブサイクな連中にもにこにこしてやったり、拍手してやったりしてさ。
 いくら仕事だからって、愛想振りまくのも大変だよなー…かわいそーに。

 よしよし、オレがお前らを絶対に解放してやるからな!!
 もうちょっと辛抱するんだぞ!!
 それにしても退屈だなーって、視線を巡らせてビビった。
 武士道の銀色と、ミキ…?!
 ミキ、あのまま銀色に捕まっちゃったのかよ?!
 うっわーミキ、マジで弱いんだなー…だいじょーぶなのか、アイツ。
 ハラハラ見守ってたら、銀色はワケわかんねー願いごとをミキにして、ミキは短く「…誓います」って応じた。

 何かアイツ…口を開くのもキツそうじゃね?!


 「ミキ…!!」

 新歓が終わって解散になっても、ミキは戻って来なかった。
 オレはちゃんと見てたから、ヤツらの後を追った。
 銀色中心に、武士道皆でミキを引きずってった、講堂の裏手に。
 駆けつけた時には、銀色がミキの胸倉掴んで、なんかボソボソ話してる所だった。
 ミキはなにも言わない、無抵抗だ。
 銀色が乱暴にミキを振り払った。
 武士道の連中はニヤニヤしてるだけ。
 振り払われたミキは、地面に横たわったまま…動かない…?!

 「お前ら…っ!!全員で寄ってたかってミキを…よくもっ!!卑怯だぞっ!!こんなの、許せないっ!!!!!」
 ミキの前に立って、銀色を睨んだら。
 今まで見た事のない、冷たい瞳がオレを見下ろした。
 なんだよ、コイツの目…なんか仕込んでやがんのかっ?!
 アヤシいクスリでもやってんじゃねーの…人間の目じゃねー、温もりのカケラもない視線に、オレは金縛りにあったみてーに身動きできなくなった。
 なんだよ、これっ!!
 なんなんだよっ!!
 オレをこんな風に見下すヤツなんか、今までいなかったのにっ!!

 「…威勢の良い事で〜…俺さぁ、まぁだ全っ然気が済んでないのよ。そこの狼ちゃんが予想外に弱かったから〜まだ足りねぇんだわ。お前が相手してくれんの…?卑怯卑怯って喚いてるけど〜、お前が構えてるそのナイフはなぁに?そんだけ覚悟してんなら、相当愉しませてくれるって事…?」

 銀色が、近づいて来る。
 素手で、近づいて来る。
 来るなと「光るお護り」を振り回しても、全然動じない。
 よく見れば、ミキはボロボロなのにコイツは無傷だ。
 なんだ、コイツ。
 なんだ、コイツ。
 なんだ、コイツ。
 ウソだ、武士道なんか大した事ないって。
 阿修羅の方が上だって、皆、皆、そう言ってたじゃん…!!
 オレ、騙されてたのか?!

 「く、来るなよっ!!卑怯者っ!!お前ら全員、卑怯だっ!!ミキが弱いってんなら、弱い者イジメなんてダセー真似すんなよっ!!そんなの、サイテーな人間がする事だ!!オレっ、オレ、絶対に許さないからなっ!!お前らのした事全部、と、十八さんに言いつけてやるっ!!そしたらお前らなんかそっこー退学なんだからな!!オレは、オレはっ、十八会長とも顔見知りなんだからなっ!!それにっ、阿修羅の特別な幹部なんだっ!!オレをちょっとでも傷つけたら、阿修羅が黙ってないんだぞっ?!お前ら、今日からまともに街を歩けると想うなっ!!それから、それからっ…」

 なんだ?!
 いつの間にか、武士道は全員いなくなった。
 「光るお護り」を握り締めながら、オレは呆然となった。
 なんだアイツら!!
 ビビって逃げたのか?!
 なんだよ、ミキ1人に対してひでー事したクセに、やっぱ弱いんじゃん!!
 そうだよなっ、オレに勝てるワケないよなっ!!
 誰だってオレに敵うワケがない!!

 「バッカじゃねーの…驚かせやがって!!なんだよ、武士道なんか腰抜けばっかじゃん…結局、権力には弱いんじゃん…十八を卒業すんのが大事なんじゃん…カッコ悪っ!!」 
 バーカって叫んで、ちょっと気が晴れた。
 「光るお護り」を大事にポケットにしまって、一息吐いて。
 想い出した。
 「ミキ…ミキっ…!!しっかりしろっ、ミキっ!!!!!」
 どうしよう!!
 ミキ、マジでぐったりして顔色悪いっ!!

 意識があるのかないのか、揺さぶろうとして、はっとなった。
 こんなにぐったりしてる。
 外見ではわからなねーけど、どこもかしこもすげー痛めつけられてるハズだ…
 頭とか、骨とかもヤラれてるかもしんない。
 ヘタに動かすとヤバいんじゃ…どうしよう…!!



 2011-09-14 21:45筆


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