49.親衛隊員日記/心春日和vol.6
きっと、ただ仲が良いだけ。
だって柾様は、本当はとってもお優しいから。
幼等部の頃から僕の…ううん僕だけじゃない、皆のスーパーヒーローだったんだから。
今は派手なリアクションで真実のお姿を隠されて居られる、そんな柾様も素敵だけど、柾様は結局何をされても格好良過ぎるんだけど…えぇと、だから。
だから、気にする事なんて何もない。
寧ろ良かったじゃない?
僕は、ぽやーっとした前陽大の事が心配なんだから。
いずれ柾様との恋の架け橋になる、大事なキューピッドだもの。
そもそも柾様が考え無く行動するワケがない。
学園の為ならば何だって利用する、何だって切り捨てられる、誰も及ばない決断力を有した聡明な御方だ。
ずっと見て来た。
毎日毎日毎日、朝も昼も晩もなく、柾様だけをお慕いして来たんだから。
柾先輩が今まで間違えた事なんて、1つもないんだから。
完全無欠の完璧なヒーローだ。
僕達は柾様の英断に身を任せ、付き従って行けば良い。
今は反抗してる馬鹿なヤツ等だって後々理解するだろうし、本当はわかっている筈だ。
他に誰がこの学園のトップに立てるって言うの。
そんな柾様が、前陽大に目を掛けている。
尚更、柾様親衛隊隊長(来年の話だけどね!)の心春としては、前陽大と仲良くしておかなくっちゃね!
柾様ったら、余程「お母さんの手作り弁当」がお気に召されたんだろう。
ほわわんとした雰囲気のお母さん、その辺りも気に入ったんだろうね。
良い事じゃない?!
僕にとってプラスになる事ばかり、何だ、やっぱり僕は幸運の星の下に生まれ、柾様と結ばれる運命に守られているんだ。
やっぱりずっと大好きで、良かった。
良かった………?
あの時。
ほんの数時間前の話なのに、もう随分昔に感じる。
ウザい雑魚共を蹴散らしながら彷徨っていたら、偶然にも柾様をお見掛けする事が出来た。
どんなに嬉しかったか!
最初から柾様以外のバラは狙っていなかった。
心を込めて可愛らしく訴えたら、心春には「仕様がねえな」と微笑ってバラをくださるんじゃないか。
そうしたら何てお願いしようか…「付き合って下さい」は心春の計画ではまだ早過ぎる、「友達になって下さい」は後で親衛隊内が面倒くせー、ここは無難に「1日デートして下さい」か?
舞台に上がった時の事を想うと、天にも昇る心地だったのに。
柾様の視線の先には、前陽大が居た。
柾様の手は、繋いでこそいなかったものの、前陽大を捕らえていた。
親し気にひそひそと話しながら、2人揃って食堂の裏手へ消えて行った。
楽しいピクニックが一転、いきなりお花畑から谷底へ突き落とされた気分だった。
まさか、柾様は前陽大を捕まえて何かお願いしようっていうお考えなのか。
それはとにかく、何故捕まえたのならすぐに講堂へ戻らない?
食堂の裏手に何があるって言うの。
暫く遠目から見張っていたら(ただ動けなかったからだけど)、やがて新歓終了のチャイムが鳴り、前陽大だけがふらっと出て来た。
辺りに用心してるみたいだった、他に異変は見当たらず、心底ほっとした。
これで赤い顔で出て来ようものなら、僕は正気を保っていられたかどうか………
新歓はそのまま、つつがなく終わった。
成勢先輩の意味深なお願い事の余波を残して。
美山様はいつもお考えが足りないから…お母さんから急にそっぽを向けて、あのちんちくりんを構い出す意味がわからない。
寮部屋移動の噂は、恐らく本当だろうね。
武士道と対立するだなんて、公衆の面前で決別宣言されるなんて、どれだけ間抜けなの。
成勢先輩のお願い事から、前陽大は顔色をなくし、元気がない。
と言う事は、成勢先輩の「大事な子」は前陽大だろう。
誰が見たって明らかだけど、また前陽大は変に目立つ形になってしまった。
緊張してるんだろう、殆ど食べてない。
この立食パーティー中、ずっと側にいるから、いくら明るく振る舞っていてもわかる。
僕は、卑怯だ。
卑怯が専売特許の合原心春だけど。
こうして側で心配してるフリして、前陽大を見張ってる。
今以上に柾先輩と親しくならない様に、少しでも不審な点があれば、たちまち縁を切ってやるつもりで。
卑怯だってわかっていても。
前陽大の事が、友達として心配な気持ちは本当で、音成様に対して名前で呼び合っている事に苛立ちも感じるけど(いつの間に仲良くなってんの…?まさかメアドの交換済み?!心春もまだなのに?!)
それよりも何よりも勝る気持ちがある。
これからずっと、僕は、前陽大を見張るんだろう。
柾先輩を、奪われない様に。
正々堂々と勝負出来ない、牽制出来ないのは、前陽大の所為だ。
コイツがこんなにものほほんとして真面目じゃなかったら、どうにだってしてやるのに…!
複雑な気持ちに駆られていたら、前陽大がちいさく身じろぎしたかと想うと、携帯電話を取り出した。
「どうしたの、誰かからメール?」
「あ、はい…中学の時の友だちから………合原さん、俺、ちょっと…電話して来ますね」
「ふーん?大事な友達なんだー?」
「はい…すみません、パーティーの最中ですのに」
「別に良いんじゃない。自由解散だし?心春は別に気にしちゃいないんだからねっ」
ふん…案の定コイツは友達が多そうだ。
苦笑しながらもう1度謝って来た前陽大は、ふと声を潜めた。
「合原さん、俺、このまま寮に戻ります」
「は?もう帰んの?」
「はいー…あまり食欲もなくて…張りきって走り回ったんで疲れちゃいました」
そういやつい最近、美山様の親衛隊にイヤガラセされて、足ケガしたばっかじゃん。
想い出したら急に心配になった。
「そう…そうだね、お前、早く休んだ方が良いんじゃない?顔色良くないし…まだ明るい内に早めに戻った方が良い。今日もだけど、明日もゆっくり休みなよ」
「はい、お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えてそうさせて頂きます」
「べ、別に心春はっ…そうだ、べ、弁当の心配してるだけだからねっ!?月曜日、絶対タコを食べたいんだから!」
「はい、わかりました。じゃあ月曜日は、たこさんウィンナー、たくさん詰めて行きます」
真っ直ぐにこっちを見る、人懐っこい子犬みたいな純朴な瞳に、気まずさを覚えた。
僕は、卑怯だ。
折角、大事にしたいと生まれて初めて想った、卒業しても関わっていたい友達に巡り会えたのに。
自分の恋愛が、1番大事だなんて。
でも、ごめん。
柾様は僕にとってかけがえのない、特別な人だから。
この恋だけは、誰にも譲れない。
2011-09-08 22:21筆[ 387/761 ][*prev] [next#]
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