47.お願いごと


 学年トップの喜びは、一瞬で消え失せた。
 お願いごとの発表に、周りの皆さんは沸き立っておられる。
 学年の垣根を越えて、どなたさまもとてもたのしそうだ。
 ひーちゃんのアナウンス後、ますます賑やかで明るい気配に包まれた講堂内。
 そんな中、イヤな予感しかしなかった。
 何故こんなことになっているのか。

 恐る恐る確認した、美山さんはどこにもバラを持っておられない。
 一成は胸に着けている。
 これはどういうことなのか。 

 「あれ…?居ねーと想ったら、美山、何で…」
 傍らで静かな呟きが聞こえて、想わず肩が震えた。
 大介さんだった。
 「隣に居んのって成勢先輩?陽大、何か聞いて…ってお前、顔色悪くね?」
 「だ、大丈夫です…ちょっと、驚いたというか…」
 「そうか?散々走り回って疲れてるんだろー、無理すんなよ」
 「はい…ありがとうございます」
 「それにしてもあの組み合わせ、謎だよな。武士道と美山、別に敵対してなかったのに」

 ほんとうにその通りだ。
 でも、そうですねと頷けない。
 クラスの皆さんも、周りの皆さんも、壇上の2人に気づいたようだった。
 2人の他にもたくさんの生徒さんが上にいる、さほど気にしていない御方も多かったが、疑問の声もちらほら聞こえた。
 どうして、一成…武士道の皆はどうしているんだろう。
 胸騒ぎしかしない。
 不安でしょうがない。

 一成は美山さんに、どんなお願いをするんだろう…!

 列の後ろ辺りに並んでいる2人、前の生徒さん方から順に、生徒会さんを司会として、お願いごとタイムは着々と進行していった。
 お願いごとの内容は、微笑ましいものが大部分を占めていた。
 恋人さん同士でのお可愛らしい約束とか、今まで秘密にしていたけれど実は付き合っていることをこの場で明かすとか、片想いさんが想い人さんに告白、とか。
 その度に歓声が上がり、盛大なお祝いの拍手が鳴り響き、講堂内は大いに盛り上がった。

 友だちさん同士というのもあり、卒業しても変わらない友情をと誓われる方々もいらっしゃった。
 珍しいものでは、部活に入ってください!っていうお願いごともあった。
 …3大勢力の皆さんが尽力なさった結果なのだろう、違和感を感じるものはひとつもなかった。
 違和感は、ただ1組だけ、だ。
 周囲の空気を壊さないように、合わせて拍手しながらも、俺は気が気じゃなかった。
 その順番がいっそ早く巡って来てほしいような、このままなにも知らずにいたいような、複雑で、いずれも後ろ向きな気持ちでいっぱいになった。

 あの張り詰めた雰囲気、本気モードの武士道たち…想い返すと後悔しか沸き上がってこない。
 やはりあのまま止まるべきだったんだ。
 もしかして止められたかも知れない、穏便な方法が見つかったかも知れないのに、俺の所為だ…!
 拳を交えてスッキリしたなら、一成が表舞台に立つわけがない。
 解決していないから、解決させる為に、あの子は壇上へ上がることを選んだんだ。
 どうか無茶なことは言わないでと、祈る心境でいたら、一成の順番になった。

 「「「「「きゃ〜!!!!!成勢様ぁ〜!!」」」」」
 ふいに沸いた歓声に、一成は愛想良く手を振っている。
 瞳は鋭く、凍てついた光を宿していたけれど。
 「何だ?珍しいな…」
 「武士道の副総長が何でまた…」
 「美山を引き抜きたいんじゃねーのー?」
 一成が壇上にいるのは十八学園でも珍しいことのようだ、ざわめきが起こった。
 そのざわめきが一段とおおきくなったのは、ひーちゃんに促されてマイクへ向かった、一成のお願いごとの直後だった。


 「美山樹、今後2度と『俺の大事な子』の目の前をうろちょろしないでくれる?触んな、話しかけんな、興味持つな、見るな、半径2メートル以内に近寄んな。ほら、さっさと全校生徒の前で誓え」


 一成の声は、よく、通った。



 2011-09-05 23:49筆


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