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 今度は彼が、唖然と目を見開いている。
 「とにかく、先程はほんとうにほんとうに失礼いたしました。重ね重ねのご無礼どうかお許しください。すみませんでした。改めて自己紹介させていただいても構わないでしょうか?あなたが今日から同室者さまの『Miki Miyama』さまでしょうか」
 「……んで、外国呼びなんだよ……」

 「あ、すみません…表のネームプレートに表記してあったのを、そのまま覚えて参りましたので…遅くなりましたが、はじめまして!本日付けでこちら四五九号室に入寮させていただきます、前陽大と申します。こちらの十八学園にはこの春からの入学でして、なにかと不慣れなものでご迷惑をおかけするかも知れませんが…早速ご迷惑おかけしてしまいましたが、今後は十分気をつけますので、どうかこれから一年間よろしくお願いいたします」

 ソファーと床。
 微妙な高低差の中、頭を下げて。
 頭を上げたら。
 ぽかんとした表情が、すこし、和らいでいて。
 ぶっきらぼうな、呟き。
 「………よろしく…してやんねーでもねー…」
 「はい!よろしくお願いいたしますね!」

 ほっとして、笑って、彼の語尾を拾ったら。
 「……変な、ヤツ……」
 ほんのすこしだけ、苦笑みたいな表情で、低い呟きが返ってきて、俺はまた笑った。
 「ところで、『みやまみき』さま、どのような漢字を当てられているのかお伺いしてもよろしいでしょうか?ちなみに俺は、『すすめ』は前後左右の前、『はると』は太陽の陽と、大小の大の組み合わせです」
 う?

 そう言った途端に、また、眉間の皺が二・三本、帰って来られてしまった。
 あれ、地雷でしたか?!
 心配していたら、でも、「みやまみき」さまは答えてくれた。
 「『みやま』は美醜の美に山、『みき』は難しい方の樹だ…っは、くだらねー女みてーな名前だろ……」
 自嘲気味な、ええと…美山・樹?さま。
 漢字を思い浮かべて、俺は、そんな美山樹さまの状態を気にすることなく、つい、がっついてしまった。

 「綺麗なお名前ですねっ!!なるほど、『樹』はそんな読み方もできるんですねえ…!!初めて知りました!!再度改めまして、これからよろしくお願いいたします、美山さん」
 俺の勢いに、美山さんは、若干引かれている。
 おもいっきり、顔を顰められた。
 「笑いたきゃ笑えばいいだろうが…無理すんじゃねー、俺が一番わかってる…不似合いな名前だってな」
 重い、空気。

 横を向く、美山さま。
 もうどうでもいいって呟いて、お前の部屋はあっちだって、リビングから見える扉の片方を指して。
 あっちへ行けって、手振り。
 ソファーの背もたれに身体をもたれさせ、不機嫌そうなため息。
 あぁ、そうか…「なにか」在るんだ。
 俺は、でも。


 「笑いませんよー、面白くないですもの。俺は、いいお名前だと思います」

 返ってくる、声はなくても。

 「俺は当然ながら、あなたのことをまだ何も知りません。お互いにお互いのことを知らない、同学年の同室者、今はただそれだけの共通点しかない俺が、あなたのことを俺の物差しで勝手に決めつけて発言することは、無論できません。
 ですが、いいお名前だと思いました。それ以上も以下もなく、あなたのお名前だと思います。十五年連れ添って来た名前は、もう本人のものですよ。…って、結局、俺の主観ばかりでお話ししてすみません」

 言わずにおれなかった。



 2010-04-20 23:59筆


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