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その時、チャイムが鳴り響いた。
「お、終了〜」
5回、おおきく鳴り響いたチャイムの音に、身体中から力が抜け落ちるような気がした。
もちろん、この御方の目の前でふらつくわけには参りません。
しっかり立っていますけれど。
いろいろあった時間の終わり、もう逃げ回らなくていいことに、心の底からほっとした。
寮へ帰るまでが新入生歓迎会ですけれどもね!
「陽大、先に出な。もう大丈夫だろーけど、質の悪ぃのに見つからねえ様に気を付けろよ。講堂の場所はわかるよな」
「はい、当然です」
「なら良い。行きな」
柾先輩はきっと、閉会の挨拶などで前に立たれるだろう。
急いだほうがいいだろう、ではお先に…と早々に踵を返しかけて、足を止めた。
「ん?」
「あの…ありがとうございました、スポーツドリンクとか、神聖なる厨房さまへのお招きとか…」
「どういたしまして!我が学園の母君の為なら何なりとお安い御用でございます」
「………それはどうも…」
殊勝な気持ちになった俺がバカでした。
執事然と片手を胸の前に掲げた先輩から、今度こそ背中を向けて扉へ向かった。
「陽大」
なんですか、この上まだなにか?
「はい?」
渋々振り返ったら、またふつうに笑っていらっしゃる先輩がいた。
「埋め合わせしてやるっつったろ。今日の放課後、1人で隠れ家に来い。待ってる」
んなっ?!
「そんなお気遣い無用でございます、柾先輩!俺は寧ろ、借りを作ってばかりで…」
「良いから来い。迷惑掛けっ放しなのはこっちだ。俺の気が済まねえ」
「いえいえいえいえ、とんでもございませんし!この聖域にお邪魔できただけでお腹いっぱいですからっ」
「………陽大?」
ひぃっ?!
変わらない自然な笑顔のまま、何故か、柾先輩から発せられる空気が極寒に変わった…?!
なんですか、この異常な冷気!
ぞぞっと鳥肌が立って、想わず扉付近へと後ずさった。
「十八学園第100期生徒会代表・生徒会長の俺様に対して、返事は?」
うぅぅむむむ〜!
「………はい、わかりました………」
「よくできました。じゃ、また後で」
にこにこ爽やかな笑顔でヒラヒラ手を振られて、俺はもう返事もできず、黙って頷いて今度こそ扉へ向かった。
うう…権力を振りかざすとは、なんて恐ろしい会長さまでしょうか。
ちょっと俺が無力な一般生徒だからってなんなんですか、まったくもう。
ぶうぶう心の中で文句を並べつつ、そろっと扉を開き、左右指差し確認!
よしっ、人の気配なし!
素早く外へ出て、扉を閉めて、更に辺りをきょろきょろ見渡した。
よしっ、だいじょうぶ!
「――全生徒にお知らせします。ただ今を持ちまして、新入生歓迎会はタイムアウトとなりました。5分以内に速やかに講堂までお戻り下さい。尚、タイムアウト後も違反行為を見かけましたら、直ちに処罰致します。若しくは違反行為を見かけ次第、取り急ぎ警備隊までご連絡下さい。くり返しお知らせします。ただ今を持ちまして…――」
おおっ、タイミングよくアナウンスが聞こえた!
急げ〜!!
結果、俺たち1年A組は、1年の部でバラ残数トップに躍り出た。
すごーい!!
全力ダッシュして戻った講堂、クラス毎に分かれて整列した時、大介さんも合原さんも九さんも他の皆さんもご無事な方ばかりで…もしや!と想ったら、1年生トップ。
嬉しいなぁ!!
残念ながら全体としては、2年生さんに負けてしまったけれど…しかも2年A組って、柾先輩のクラスらしいじゃないですか、異常に口惜しいぜ…
成績発表を受けて、クラスの皆さんと歓喜しながら。
美山さんと、一舎さんのお姿が見当たらない。
九さんはなんだか、くったくたに疲れていらっしゃる。
言い知れない不安が、どんどんおおきくなっていった時。
「はいはぁ〜い、皆ぁお疲れちゃ〜ん!お待ちかねのお願いタ〜イム!だよぉ〜ん」
ひーちゃんの声が聞こえて、はっと壇上に目を上げた。
ひーちゃん含め、生徒会の皆さん全員、バラを死守なさったようだ。
柾先輩も、何喰わぬ顔で存在していらっしゃる。
さすがアイドルさま方、そう易々と捕まえられる存在ではありませんね。
ひーちゃんも無事だったのか、よかったよかった。
もし俺に来年があるのならば、その時は覚悟なさいよ?!
メラメラしつつ、更に壇上に目を向けて。
お願いタイムとやらは、壇上で執り行われるらしい。
既にたくさんの生徒さん方が立っておられた。
バラがない人、バラをつけている人…つまり捕まった側、捕まえた側ということだろう。
あらあら…どうも捕まった側は1年生が多いようだ。
横並びに順に目で追って、見つけてしまった。
憮然と立っていらっしゃる美山さんと、気怠そうな一成の姿を。
鼓動がおおきく跳ねた。
美山さん、口の辺り、腫れて…?!
2011-09-04 23:02筆[ 384/761 ][*prev] [next#]
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