42.真のヒーローは静かなものだ
日和佐先輩、格好良かったなぁ…!!
風紀委員のお仕事を真面目にこなされ、職務に誇りを持っていらっしゃる先輩。
ご自分にも他者にも厳しいけれど、その実さり気なく優しくて温和で、お弁当シフトの時もいつも残さずきれいに食べてくださる。
「美味かった。有り難う」と、ていねいにお礼まで言ってくださる。
大人っぽくて、学生の鑑のような先輩だなぁって尊敬していたのだけれど。
ますます尊敬レベルが急上昇してしまった…!
まるでひーちゃんのように軽いノリの生徒さん方を、見事な手さばき足さばきでバッタバッタとなぎ倒す、あのお姿ったら!
あんなにたくさんの人を前にして、すこしも臆することなく、堂々と落ち着いた戦い方(あしらい方?)だった。
ご自分の力を信じておられるんだ。
それは常日頃、努力なさっておられるからこその、たゆまない自信だ。
生徒さん方を見くびっておられるわけじゃない。
油断禁物といった気配を有しながらも、先輩は的確に対応なさっておられた。
ものすごく腕の立つ御方なんだ。
まったく存じ上げていなかった。
日和佐先輩はやんちゃ活動とは無縁の御方なのだと想っていた。
いや、実際に無縁なのかも知れない。
先輩の動作ひとつひとつ、とてもきれいで無駄がなかった。
きちんと習った型、のように。
なにか武道や護身術を習得されているのかも知れない。
進んでやんちゃ活動に参加しないけど、必要があれば力を発揮する、みたいな?
ますます格好良いなぁ…!!
学校の風紀を守る日和佐先輩が、あんなにも強い御方だなんて。
なんて心強いことでしょう。
しかも日頃はそのお力を封印なさっておられるストイックさ!
なんて男らしいことでしょうか。
その現場に遭遇できて、俺は幸運ですな。
うーむむ…男前同盟として、チェックするべき重要人物が増えてしまいましたな!
俺もあんなふうに強くなりた〜い…!!
なにごとにも動じない、弱きを助け強きを挫く、男の中の男になりた〜い!!
天に向かって拳を振り上げたところで気づいた。
いいものを拝見できたお陰で、胃の痛みが吹っ飛んでいるじゃありませんか。
なんとまぁ…日和佐先輩、ありがとうございます…!!
次のお弁当シフトの折り、すこしでもお話できないものでしょうか。
その強さの秘密、ほんのすこしでいいから知りたい。
願わくば、俺に手ほどきしてくださらないものか、日和佐流の心構え、奥義の程を!
あぁ、でもやっぱり門外不出でしょうね、そりゃそうでしょうねぇ。
うきうきしながら日和佐先輩に指し示された通り、道なりに歩き続ける内、辺りの異変に気づいてはっと立ち止まった。
なんですか、この複数の集団さんは…!
慌てて近くの茂みに潜み、日和佐流・日和佐流・日和佐流…と、まだ一端すら教わっていない流儀を勝手に心の内で唱えながら、皆さんの様子を窺った。
各学年入り交じった集団さん。
あちこちで繰り返されるざわめき、足音、物音から、数10人はくだらないのでは…
そして、辺りにたちこめるバラの香り…ここにバラ園はないことから、皆さんバラが無事な御方ばかりだと知れる。
一体、こんなところで何をなさっておられるのか。
「――…確かにこの辺に消えて…――」
「――…オレら間違いなく途中まで…――」
「――…っち、捕まえりゃどんだけ利益になるか…――」
「――…他のヤツは?…――」
「――…作戦変更して…――」
「――…アイツに対して集団は不利…――」
きれぎれに聞こえる会話から、どなたかさまをターゲットになさっているらしいと呑みこめた。
どなたさまに対して、このような集団が動くというのか。
まさか…
まさか、俺………?
「――…見つけたらタダじゃおかねー…――」
憎々し気に呟かれた、低い声が際立って聞こえて、心底ぞっとした。
バラを奪ったら勝ちとか負けとか、残り時間が迫っているとか。
シンプルなルールなんて、まるで通用しそうにない。
こんな、人気のない場所では特に…!
「……っ?!」
頭の中では、どなたかさまに連絡しなくちゃって。
ぐるぐるしているのに、まったく動かない身体、指先。
そのまま固まっていたら、ふいに後ろから取り押さえられるように、がっしりした腕が伸びて来て。
想わず上がりそうになった声は、おおきな、温かい手の平の中へ吸いこまれていった。
というか。
急に、背中が温かい。
悪い予感はしないけれど。
別の、嫌な予感がして。
怖々、振り向いたら。
なにひとつ面白がっていない、真剣な面持ちの柾先輩がいて、黙っているようにって言いた気に、唇に人指し指を当てておられた。
2011-08-31 23:48筆[ 380/761 ][*prev] [next#]
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