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 ヒロは何か弱っちいカンジで、変わった喋り方だけど。
 オレの話をうんうんって、興味津々で聞いてくれた。
 青白くて、でもキレーな顔を、やわらかく綻ばせて微笑ってくれた。
 少し哀しそうな笑顔は、葉っぱの影がかかってて、そのまま影の中に紛れてしまいそうだった。
 (「あの人」に、似ている笑顔)
 (似ているのは、)
 「…羨ましいナ…穂君は元気いっぱいで…君と話してると、僕も何だか元気になれるヨ」

 (やっぱり身体が弱いから…?)

 「ヒロ…ちっちゃい頃から、ずっとこんなだったのか…?学校で全然見かけた事ない…そんなに休む程、身体弱いのか?!」
 「うん…ずっとダヨ。少しでも環境の良い学校にって、此所にずっと居るケド、殆ど授業には出られないンダ。だから、皆から遠巻きにされてトモダチが出来ないんダヨ。僕も穂君みたいに沢山のトモダチに囲まれながら、毎日元気に走り回りたいんだケド…」
 その時、またヒロが軽く咳き込んだから、ひやりとして背中をさすった。
 ジャージ越しにもわかる。
 細い、骨の浮き出た背中だった。

 「だ、大丈夫かっ?!ヒロ、もうリタイヤした方が良いんじゃ…!!」
 「………大丈夫…ダヨ。新歓は、高等部1番のお祭りの1つだカラ、ずっと楽しみにシテた…最後まで参加したいンダ」
 「ヒロ…」
 何で、こんな…
 ヒロ、こんなにメチャクチャ良いヤツなのに、ちょっと身体弱いからって不自由な想いさせられてるなんて。
 線の細い横顔を見ていると、胸が痛んだ。
 オレ、ちっとも知らなかった。

 他のヤツらは?!
 皆、ほとんど持ち上がりなんだろ。
 じゃあガキの頃から、ヒロの事は知ってるハズだ。
 それなのに何でヒロを1人にするんだよ?!
 こんなの間違ってる!!
 ヒロの身体が弱いのは、ヒロの所為なんかじゃないのにっ…!!
 ……はるとは…?!
 はるとだって、同じクラスじゃんか!!
 それなのにはるとの口から、ヒロの名前、聞いた事ない!!

 知ってて知らないフリしてるのか?!
 アイツの周りも、ヒロの事は教えてないとか?!
 どっちにしろアイツ、アイドルとかお母さんとか、あっちこっちから持ち上げられてるクセに、高等部から入学したばっかのクセに、何で無関心なんだよ?!
 ヒドい!!
 皆、皆、何てヒドいんだ!!
 許せない!!
 無関心が、1番悪いんだぞっ!!

 (って、「あの人」が言ってた)
 (「あの人」に、間違いはない)

 「オレ…!!これからはオレが付いてるからなっ!!もうオレ達親友だしっ!!だから堂々とクラスに出て来いよ!!身体に無理のない様に…出られるだけ出て来いよ!!オレ、いつでもヒロの事、待ってるからっ…!!心配すんな、もうお前を独りになんかさせないからな!!また発作が出たら、オレが助けてやるしっ!!オレに任せとけ!!ヒロにはオレが居るから!!」
 「……穂君……ありがとォ…嬉しィ……でも、『良いのカナ』…?穂君は皆に大人気だカラ…僕みたいな目立たない弱者とは、『関わり持ったり一緒に居ない方が君の為』ダヨ…?」

 それは嬉しそうに微笑んだヒロは、すぐに心配そうな、すっげー不安そうな顔になった。
 「大丈夫だ!!オレは強いからっ!!安心してろ!!オレのやり方につべこべ言う様なバカなヤツ、オレの友達には居ないしっ!!もし何か言ったらぶっ飛ばして目ぇ覚まさせてやるしさ!!だからヒロ、そんな寂しい事言うなよ…!!もう2度とそんな事言っちゃダメだぞっ!!」
 「穂君…ありがとォネ…すごく嬉しいヨ…優しいんダネ、穂君は…」

 そっと握ったヒロの手は、氷の様に冷たかった。

 「………ネェ、穂君…?ゴメンネ、僕の所為で新歓中なのに足止めサセテ…もしかして、誰かを探してたんじゃナイ…?」

 ふと曇ったヒロの表情と言葉に、オレははっと想い出した。
 「あ、オレ…!!はるとを追ってたんだった…!!」
 そう言った途端、ヒロの目が見開かれた。
 「ハルト…?ハルトって、まさか…前陽大君のコト…?」
 「あー…さっきまで追いかけてたんだけどさっ、アイツ、意外にすばしっこくって、もうちょっとだったのに逃げられちまってさぁ!アイツ、足にケガしたって言ってたクセに全然元気でさー絶対サボりたいからウソ吐いてただけなんだよ!それとも新歓で油断させたかっただけかな?!どっちにしろ、ヒロみたいにマジ身体弱いヤツに失礼だよな!ウソ吐くなんてサイアクだ!」

 ヒロは何か考えるみたいに、急に深刻な顔になって、口元に手を当てている。

 「………穂君…?」
 「お、おうっ!どうした?!」
 「『僕と君は親友』だから、忠告しておくケド…前君には近付かない方が良いヨ」
 「えっ?!何でっ?!」
 ヒロはちいさくため息を吐いて、ゆるりと首を振った。
 「今、十八学園が乱れているのは、前君の所為だカラ…」
 「えぇっ?!はるとの所為で…?」
 どういう事だよって聞いてみたら、躊躇いながらヒロは教えてくれた。


 「学園の核を為して居る、生徒会、風紀委員会、武士道…3大勢力全てを前君は手懐けて、そればかりか、人気のある生徒達まで独り占めしようと企んでる…そんな風に見えナイのにネ…あんなフツウのお顔で『お母さん』とか親しまれている一方で、大多数の生徒は前君を怖がって居るんダヨ…何せ3大勢力と共に在るコトは、学園1番の権力を持っているのと同然だカラネ。

 クラスメイトに対してこんな言い方は良くナイケド…皆様に恋人が居ようが居まいが関係ないみたいダ、前君、かなり遊んでるみたいで…すぐに誰とでも寝ちゃうトカ、噂になってるヨ。どれだけの生徒が泣いているコトか…
 今、前君が1番狙ってるのは、生徒会長の柾センパイみたいダ…彼を手に入れればそれこそ前君に怖いものはなくなる…会長は聡い御方だからネ、用心してるみたいだケド、もうかなり仲が良いみたいだカラ、落とされるのも時間の問題じゃないカナ…?
 
 そんなコトになったら、僕の愛するこの学園はどうなるんだろうって…何より前君の可愛い玩具となってしまう柾センパイの今後の人生トカ…将来性の在る御方だけに心配ダヨネ…無力な僕にはどうするコトも出来ナイ…口惜しいケド。
 理事長すらもう前君の手中に落ちたらしいカラ…前君を止められる人は、もう…」


 何て事だ…!!
 もうかなりヤバい状態までキテんじゃねーか、このガッコ!!
 何よりも何てヒドい…
 はると…!!
 あんなに優しそーな雰囲気出で、オレにもへらって笑ってくれた…全部、全部、ウソだったんだ…!!
 何もかも、ウソだったんだ!!
 演技、なんだ…全部!!

 しかもコウを自分のモノにしようとしてるだなんて、フツーの顔した平凡のクセに厚かましいにも程があるじゃん!!
 十八さんまではるとに騙されてるとか…何てヒドいヤツなんだ!!
 「ヒロ…!教えてくれて、ありがとう!!オレ、オレまではるとに騙される所だった…!!やっぱりアイツはオレが捕まえて、目ぇ覚まさせてやんなきゃなんねーんだなっ!!身の程を思い知らせてやんなきゃ…ヒドいよ、良いガッコなのにさ!!コ、コウだって…かわいそうだ!!成りたくもない会長に成って不自由な想いしてるのに、はるとの所為で人生狂わされるなんて…そんなの許されるワケないっ!!コ、コウの事も、ガッコの事も、オレが守ってみせるからっ…!!はるとなんかに負けないからっ!!」

 オレが、何もかも、守ってみせる…!!

  (そうしたらきっと、皆も、「あの人」も、笑ってくれる、から)



 2011-08-26 22:52筆


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