37.天使バルサンが奏でる狂想曲(7)


 くっそう…!!
 「はぁ…どこ行ったんだよ、はるとぉ―――――…!!」
 このオレを振り切ってどっかへ消えちゃうなんて!!
 どういう体力なんだ?!
 どんだけ足速いんだよ?!
 それとも、隠れんのが得意とか?!
 「卑怯だぞ―――!!はると―――!!やっぱり、足のケガなんてサボる為の口実だったんじゃん…!!」
 どこからも返事はなく、オレの声は森の中に吸い込まれてった。

 ちえっ、こんなのケガしてるヤツの逃げ足じゃねーよ!!
 オレが怖いからって、正々堂々と勝負しろよな!!
 どいつもこいつも十八学園のヤツは卑怯なヤツばっかだ!!
 武士道といい、はるとといい…コウといい…
 最初はコウを捕まえてやろうと想ってた。
 そんで、コウが生徒会とか親衛隊とかから自由になれる様に、フツーの生徒になれる様に願ってやるつもりだった。
 けど、生徒会のスタートは1番最後だし、ムダに広いガッコの所為で何処にいるのか探しようもないし。

 ミキが危ないってうるさいから一緒に行動してたら、何でかいろんなヤツらから狙われる羽目になったし…
 そしたら、武士道に会って、はるとに会って、そうだ!はるとを捕まえてやろうって想いついた。
 はるとだって、段々信じられなくなって来たけど、ここのアイドルみたいだし何か目立ってるし?
 コウとも変に仲が良いみたいだから、もうこれ以上コウに付きまとってコウを悪目立ちさせんなよって、お前も地味なりにフツーの生徒らしくしろよって願ってやろうって想ったのに。

 全部オレの想う通りにしたら、このガッコは絶対良いガッコに生まれ変われるのに。
 どーして上手く行かないんだ?
 ミキは武士道なんかに捕まっちゃうし!!
 「どうしろってんだよ…つーか、ここどこ?!」
 阿修羅の皆が居たら、こんなゲーム、楽勝なのに。
 オレの圧勝で終わるのに。
 そもそも、ダイスケとかリヒトとかソースケとかヒサシとか、皆何処に居るんだよ?!
 親友のオレが困ってんのに…

 オレ、転校して来たばっかだから、何にもわかんないのに、何で1人でこんな所に居なきゃなんないの?!
 「…全部、はるとの所為だ…はるとが逃げるから悪いんだからなっ!!」
 腹いせにその辺の木を蹴り飛ばしてやった。
 「痛っ」
 なんだよ!!
 白馬の木だったらポキッと折れんのに、十八の木は何か全部がんじょーでぶっとい。
 ちょっと揺れただけでびくともしない、代わりにオレの足が痛くなった。
 「なんだよ、も〜…!!!!!」

 ワケわかんない虫にはいっぱい刺されるし。
 草とか土とか砂利とかいっぱいで、歩き辛いし。
 鬘も眼鏡も鬱陶しくって暑いし。
 やってらんねー!!
 「………助けろよな、コ、コウ……」
 生徒の代表してんなら、こんな不慣れな環境で頑張ってる転校生のオレを、特別に助けるのは当たり前じゃん!!
 さっさと見つけてくれたら良いのにっ!!

 ため息を吐きながら、とにかくデタラメに歩いていたら、暫くして木に寄りかかってるヤツを見つけた。
 同じ1年か?!
 1人みたいだけど、油断はできねー。
 何せここのヤツらはみーんな卑怯だからなっ!!
 でもバカな事に、俺が後ろに居るのに全く気づいてないみたいだ…ふっふん!
 しょうがねー、名前の売れてないヤツかも知れないけど、何にも戦果がないよりはマシだよな!!
 時間もあんまりないだろーし、コイツのバラでも頂こうかなっと!!

 そろそろと足音を忍ばせて近寄って、オレは異変に気づいた。
 何かコイツ、おかしくね?!
 キレーな淡い色の髪の男は、かなり細くて、木に寄りかかるっつか…苦しそうにもたれてる?!
 そうやって油断させる作戦なのかもと、気をつけて更に距離を縮めた時、確信して一息に側へ駆け寄った。
 「おいっ!!大丈夫かっ?!」
 ソイツは顔をまっ青にして、喉をひゅーひゅー鳴らしながら、肩で大きく息をしていた。

 眉を顰めて時折咳き込む、そのイヤな咳の音、この症状には見覚えがあり過ぎた。
 背中をさすってやりながら、心臓が止まりそうになった。
 「オ、オレにつかまれっ…!!大丈夫かよ?!お前っ、吸引は?!持ってないのかっ?!」
 肩を貸して木の根元へ座らせた。
 ぜーぜー言いながら、苦し気に歪んだ唇から、か細い声が聞こえた。
 「……後ろ……ポケットっ…」
 「ポケット?!後ろのポケットだなっ?!」
 ジャージを探ると、すぐに見慣れた物体が出て来て、震える手で夢中でソイツの口元に運んだ。


 イヤだイヤだイヤだ…!!!
 オレは、もう2度と……

 『………みの、る…』
 『――――んっ…!!!』

 想い出すな想い出すな想い出すな!!!
 想い出さなくて良い!!
 そのまま忘れてろ!!


 短い間の事だっただろう。
 けど、オレにとっては永遠かと想う程、長い時間だった。
 気がついたらソイツの呼吸はフツーになっていて、顔色はまだ悪かったけど、オレから身体を離して平気なぐらいには回復していた。
 なんだよ!!
 心配かけんなよなっ!!
 (……って、いつも)
 (「あの人」にも、怒ってたっけ)

 「もう大丈夫か…?!お前、身体弱いんならこーゆー行事休ませて貰えよなっ!!ガッコ中歩き回るのに危ないじゃん!!もしオレが通りがかんなかったら、相当ヤバかったぞ!!ったく…気をつけろよなっ!!それともガッコからキツく言われてんのか…?身体弱くても行事に参加しろとか…?だったらオレっ、理事長の親戚だしっ、オレからちゃんと言ってやるよ!!」
 病気は甘く見たらいけないんだからな!!
 (「あの人」はそうしたら)
 (いつも、オレにだけ見せる、)

 「……有り難う、九穂君、だっけネ…?」
 んー?!
 なんでコイツ、オレの事知ってんだ?!
 つかよくよく見たら、キレーな顔してんなー!!
 透き通りそうな白い肌に、超整った顔…こんなヤツ、今まで会った事ないけど?!
 「お前、なんでオレの名前知ってるんだ?!失礼だぞっ、オレはお前の事知らないのにっ!!お前の名前は?!」
 聞き返したら、ソイツは、にっこりと薄い唇をふんわり緩ませて。

 「ごめんなサイネ、穂君。君が知らないのも無理ないヨ、僕は一舎祐、一応君と同じクラスなんデス。ご覧の通り、身体が弱くて存在感も薄いカラ、滅多にクラスに行けないんだケド…君の事は『よく知ってる』んダヨ…?いつも元気一杯でクラスの皆を早くも虜にシテるって…『羨ましいヨ、凄く』」


 (特別な、笑顔で微笑ってたっけ………)



 2011-08-25 22:40筆


[ 375/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -