24.お母さん、狼ちゃんを見つめる


 俺はぽかんと、それはもうぽかんと、目の前の彼を見つめた。
 今。
 「俺が怖くないのか?」って仰った?
 確かにそう聞こえた。
 聞き間違いなんかじゃないよね?
 怖い…?

 彼の髪はアンバランスな長めの髪、それは綺麗な赤に染められていて、ところどころ黒いメッシュが入っていた。
 こんなにも綺麗に染まるものなんだぁ…と感心するぐらい、生まれた時からこのお色だったと言わんぐらいに、自然に見えた。
 俺などが張りきって染めたら、まったく似合わず浮いてしまうだろうお色は、彼にはとても似合っていた。
 ルビー、いや、紅梅の色、だ。

 和名の色が相応だと感じた。
 彼の雰囲気には、漢字が似合う。
 瞳は黒、だけどよく見たら青みを帯びていて、神秘的だ。
 その神秘を隠すように、しっかりと濃い睫毛が存在している。
 未だに皺を寄せたままの眉は、短めに凛々しく整えられている。
 高めのしっかりした鼻筋、全体のバランスに調和した、薄くも丁度いい存在感の唇。

 淡いグレーのTシャツとスウェットの、ラフな部屋着から覗く、程々に陽に灼けた肌。
 尖った耳と、首や手首、指には、ゴールドやアンティークゴールドのアクセが存在している。 
 すらっとした、俺よりも高い背と長い手足。
 今時ありがちな、栄養を取れていないのであろう細身のお身体(ううう…お節介したくなるけど我慢我慢…)だけど、腕にはちゃんと筋肉がついているし、手もゴツい。
 総合して、彼には彼なりのポリシーがあり、それに基づいて身だしなみに気をつけておられるのであろうことが伺える。

 ラフな部屋着の状態でも、大き過ぎず小さ過ぎないジャストサイズが選ばれているため、なんだか様になって見えるのだ。 
 ざっと、よく見た印象がそうだった。
 整ったお顔立ち、スタイルは、将来が明るいことを伺わせる。
 彼がこのまま、身だしなみに気を遣いながら、その場その場のTPOをも取り入れていけば、それは素敵な大人の男性に成長なさるのだろう。

 今はいい、だって俺たちはまだ子供だし。
 「子供だから」と自由奔放が寛容されている間は、自分の可能性をいくらでも模索して、好きなようにいろいろなことを試したらいい。
 その過程は楽しいものだし、将来の糧にもなるし、自分のことを知っていけるから。 
 彼はまた、このスタイルが似合っているから羨ましい。
 どんな風にでも化けられる、未知なる可能性を秘めている。

 俺なんて、俺なんて、センスもなければ身長も…ううう…。
 自分のことはさておき、こうして、ちゃんと自分に合うスタイルを見つけている彼は、ぼんやりと生きていないのだと、よくわかる。
 その彼が、怖いかって…そんなの…
 「わかりません」
 「……あぁ?」

 「つい先程出会ったばかりで、ご挨拶もまだですし…いろいろなこと、お話しておりません。俺が悪いのですが、ろくに言葉も交わせておりません。そんな状態で、あなたが怖いかどうかなんて、俺には感じることも考えることもできません。あなたのことをまったく知らないのですから」
 「……てめぇ……見たカンジでわかんだろーが……」
 「見た目で判断を求められるのならば、あなたのことは怖くありません」
 「……はぁ?」

 「雄々しい空気を持った御方だなぁとか…整ったお顔立ちとスタイルでいらっしゃって、同じ男として羨ましいなぁとか…まだ、単純なことしか感じられませんが…身だしなみに気を遣っていらっしゃるご様子と…未熟者の俺の所為で怪我をさせてしまったにも関わらず、あなたは特に苦情や憤怒をぶつけることなく、放置しようと為さいました。
 怖い御方ならば、激しい叱責をぶつけてくるものではないのでしょうか」
 彼の、眉間の皺が消えた。



 2010-04-18 21:48筆


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