35.お母さん、「本気」に遭遇
さて!あの子たち、ちゃんと仲良く一緒にいるかなぁ。
基本的に仲良しさんな武士道だけど、仁も一成も放任主義の自由人だから2人揃ってふらふら(しかもお互い別行動)して、あの子たちは放っておかれたのをいいことに好き勝手遊んでしまう。
ちいさな子供じゃないんだから、仕方がないと言えば仕方がないんだけれども。
そうして上の2人がのんびりしている間に、ちいさなものからおおきなものまで、あちこちで火種を拾って来るから困ったものだ。
まぁねぇ…ケンカ大好きっ子たちの集まりだからねぇ…
でも、学校行事中はそうは行きませんからね!
行事中にケンカ騒ぎなんてもってのほか、きちんと釘を刺しておかねば。
気合いを入れて小走りしていたら、辺りが俄に騒がしくなって来た。
案の定、ひと騒動起こしているのだろうか?
いけませんよ!
慌てて小走りからダッシュに切り替えて、複数の声のするほうへ近寄った、その時だった。
「――お前ら、卑怯だぞっ!!オレが怖いからって、そんな大人数で待ち伏せてっ!!」
九さんの、声…?!
いつ聞いたより一際おおきな声は、俺の足をぴたりと止めさせた。
一体何が起こっているのか、ぴりぴりと緊迫した空気が漂っている。
そうっとそうっと、足音を立てないように木陰へ歩み寄り、いざという時の為に携帯電話を手にしながら、恐る恐る覗いて。
びっくり仰天、目を見開くしかなかった。
そこには武士道のお馴染みメンバーが揃っていた。
ちょうど俺がいる場所を背に、前方には仁と一成、後方にはトンチンカンヨシコちゃんたちが控えている。
けれど気軽に声をかけられない険悪さ。
本気の戦闘モード、だ。
親密な時間を過ごさせてもらった、俺も数えるぐらいしか見たことがない、ほんとうにケンカする時の殺気立った空気。
いつも明るい武士道の、誰も笑いもせず静かに睨みつけている、そこには九さんと、美山さんがいた。
美山さんも同じく、ぎろっと斜に構えていらっしゃるけれど。
ぞくっと背筋が震えた。
どう見ても、武士道に武がある…人数の問題だけじゃない、闘志の差があまりに歴然としている。
絶対に負けないという、圧倒的な自負と覚悟が、武士道にはある。
対して美山さんは、それを受けられながらも、躊躇いがあるように見えた。
何故こんなことになっているのか…
どうしよう…!
こうなった武士道を俺には止められない、ヒロさんを呼ぶしかないんだけれど、無理だし…!
「卑怯、だって…?うるっせぇんだよ、『阿修羅のエンジェル』。裏から手ぇ回したり武器使ったり、奇襲仕掛けるしか能のない『族潰し』のてめぇが卑怯を語んのか…?面白くねぇんだよ、黙ってろ、惰弱クソチビ。てめぇに何の興味も無ぇ。こっちが用あんのは美山樹、てめぇだけだ」
ますます、良くない傾向だ…
一成が、本気で怒ってる。
の〜んびりした話し方が消え失せて、ひどく冷静で、低くて硬い声音で。
九さんをちらとも見ず、ずっと睨み続けているのは、美山さん1人だけ。
それでわかった。
仁や他の子たちは、一成が本気だから、やり過ぎないように暴走しないように、制止する為に控えているんだ。
いつも誰よりも冷酷で、無茶をするから。
こんなことになるなんて…一成、一体どうしたの?!
「オ、オレはっ!!卑怯、なんかじゃないっ!!弱くなん、」
「…黙ってろっつってんだろうが、九っ!!!」
一成の怒声に、俺までも震え上がった。
仁だけは流石に、誰より側にいるのに動じてすらいない。
というか仁まで、酷薄な光を瞳に宿して、笑っている…?!
あなたがこの場で唯一、一成を止められる存在でしょうに!!
なにをウキウキしちゃってるんですか?!
俺はこんなにハラハラして、冷や汗が止まらないというのに。
「言ったよなぁ、美山…?宣言通り、ぶっ潰してやるよ。ついでに、全校生徒の前で、」
「オ、オレは弱くなんかないんだっ…オレは、オレはっ…オレを無視するなんてっ……?!あ―――!!!!!はると、見つけたぁ―――!!!!!」
な?!
「「「「…え?お母さん?」」」」
「はぁ?はると?」
「………はるる…?」
う!?
ふるふる震えて何ごとか呟いておられた九さん、ふいにこちらへ視線を向けられたかと想うと、元気いっぱいの声で叫ばれ指を差された。
ざあっと皆の視線がこちらへ向けられた。
美山さんまでも、我に返ったお顔でこちらを見ておられる。
引きつったへにゃへにゃ笑顔を浮かべながら、俺にこの空気を一体どうしろと…!
冷や汗の勢いが増した。
2011-08-19 22:41筆[ 373/761 ][*prev] [next#]
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