34.後半戦スタート!
すこし落ち着いたところで、チャイムが鳴って、宮成先輩と凌先輩が声を揃えた。
「「残り45分だ」」
新歓中は、通常のチャイムと異なる周期で鳴る仕組みらしく、このチャイムは丁度折り返しを意味する。
次にチャイムが鳴る時、それはゲーム終了の時。
俺は無事にバラを守り切れるだろうか、いえ、守ってみせますとも!
「この時点で無傷だから大丈夫だと想うけど…俺が言った事は覚えてるよね?少しでも危険が迫ったり、体力が保ちそうになかったら、絶対に速やかに誰かへ連絡するか寮へ帰る事!」
「はい!」
凌先輩の有無を言わさない眼差しに、気合いを入れてお返事した。
「前半戦で危険人物に会わなかっただろうね…?」
「渡久山、何か保護者みてー…」
「黙っていて下さい、宮成先輩。俺は真剣なんです」
宮成先輩の軽いノリを、凌先輩は鋭く一蹴している。
わぁ、宮成先輩がショックのお顔になってるけれど、いいのだろうか。
これ程までに心配して頂けて、俺は果報者ですけれども。
「ええと…特には…大介さんに助けて頂いたり、1年F組のかたまえさんと仰る御方に助けて頂いたり、おじ…校長先生に助けて頂いたり…はっきり言って、助けて頂いてばっかりの前半戦でした」
指折り数えながら、凌先輩にありのままを報告したら、御2人共目を見張られた。
「「片前に会ったのか…!」」
「え、は、はい…」
宮成先輩が急に険しいお顔で眉を顰められた一方で、凌先輩は何やら納得しておられる。
「前、悪い事は言わねー。片前はあの所古のセフ…つーか、片腕だ。次期『喧嘩道』の主催者候補だ。関わるとろくな事ねーよ、今後は近付くな」
「俺は宮成先輩の意見に反対します。片前君はあの所古先輩に近しい存在ながら、冷静で落ち着いて居て、1年の中でも特に大人びている。風紀委員会に協力も惜しまない、実に素晴らしい生徒だ。陽大君が片前君と知り合い、助けて貰えたなら良い傾向、彼はきっと今後も君に手を差し伸べてくれると想う」
ええと…?
俺は、どうしたら?
「渡久山達は妙に所古達と仲良いよな…」
「あの風紀違反常習者の馬鹿猿と親しい訳ではありません。彼等を体よく利用しているだけです」
あわわ、ほんとうにどうしましょう。
睨み合う御2人をおろおろと見守っていたら、再びこちらへ視線が向けられた。
「つか、『大介さん』ってまさか…お前と同クラの音成大介か?アイツが人助け…?」
「陽大君、校長先生にも会ったの?あの生徒嫌いの校長先生まで、陽大君には心を開いたのかな…」
「ええと…???皆さん、親切でやさしい御方ばかりで、大介さんとは改めてお友だちになりましたし、校長先生とは以前すこしばかりお会いしたことが…」
うーんと唸って、揃って腕を組まれる先輩方は、やっぱり仲良しさんだなぁ、3大勢力さんなんだなぁと想った。
先輩後輩として、これからもずっと。
それはきっと、とってもいいことで、なんだか側で拝見していると微笑ましい。
「ま、お前ならその調子で後半も乗り切りそうだな。あっちの食堂側の庭園付近を武士道の下っ端がうろついてたぜ。つーことはそのトップも近くに居るんだろ。合流して来いよ」
「それが良い、陽大君。そろそろゲームに戻らないとね…本当は一緒に居てあげたい所だけど、後半は違反者が続出するからね。とにかくくれぐれも気を付けて」
「最良の安全確保は柾と合流する事だけどな…あいつは誰よりもこのゲームに長けてるから、会わずに終わるかも知れねー」
「そうなんですよね。昴から連絡があると良いけど、あっちはあっちで命懸けだし…」
「???会長さまのお手を借りなくとも、俺ならだいじょうぶですよー!それにしてもそんなに必死に逃亡なさっておられるのですか、あの御方は」
考えたらちょっとおかしい。
いつも飄々と余裕たっぷりの柾先輩が、泡食って逃げておられるなんて…いや、どうせ逃亡スタイルも鮮やかな男前っぷりなんでしょうけれど?ふん。
凌先輩がほんのすこし、苦笑した。
「この人もそうだけど、それ以上に昴は、絶対に捕まる訳には行かないからね」
絶対に捕まるわけにはいかない…?
宮成先輩も笑って、腕時計を見て、俺の背中を軽く押した。
「マジでそろそろ行かないと。またな、前。俺は適当に言い訳つけてリタイアするけど、お前は最後まで頑張れよ。無理しない程度にな」
「俺の陽大君を気に掛けてくださったお礼に、ルール違反で捕獲した事にして差し上げますよ、宮成先輩。陽大君、じゃあ、またね」
「あ、はい!宮成先輩、凌先輩、助けてくださってほんとうにありがとうございました!アドバイスの数々もありがとうございます。講堂で無事お会いできるように頑張りますっ!」
ぺこりとお辞儀して、手を振る先輩方に力いっぱい手を振り返しながら、教えて頂いた武士道がいるらしい場所へ向かった。
俺だって、クラス賞目指して、できればひーちゃん目指して、残り時間頑張っちゃいますからねー!
そうして猛ダッシュを再開させた俺も、笑顔から一転、深刻な顔でお話しながらその場を後にされた先輩方も、知らなかった。
先刻の追っ手の3年生さん方が、講堂へ戻る道すがら、携帯電話で話していたことを。
「―――な、大スクープじゃね?写メ撮ってそっち送ったからー。そうそう。つかあのチビ、予想外に逃げ足早いわ。誰も付いて行けねー。『本番』の計画練り直しだな。お前の言う通り、今日予行演習出来て良かったわー妙な味方も多いみてーだし?…いや、逆に楽しみだぜ。どう追い詰めてやろうか、精神的に攻める方が滾るし…?」
静かな森の中、複数の低い笑みが響く。
誰も、知らない。
ひそやかに動き続ける、暗い影を。
2011-08-18 23:47筆[ 372/761 ][*prev] [next#]
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