32.お母さん、ラブラブにドキドキ


 「「「「「待てー!!前陽大!」」」」」
 「「「「「待ってぇ、お母さぁん!」」」」」
 「待てませんー!」
 きょえー!
 おじいちゃん先生と別れてから、これです。
 ぶらっと足を踏み入れた森林の中、2組の集団さんから追われる羽目になりました。
 1組は3年生さん、1組は1年生さん、どこかでお会いしたようなしなかったような方々ばかりです。
 
 じっくりお顔を拝見している間などない、視線が合うなり「見つけた!」と言われて追いかけられたから。
 集団行動は違反の筈、でも俺を追う方々は皆さん集団で行動なさっておられる。
 先刻お会いした、かたまえさんのお言葉を想い出し、ちらっと後方を振り返った。
 『あの先輩達だったら前君にとって1番害がないから、捕まってしまった方が良かったかも知れないね…?』
 『質の悪いヤツは瞳を見るか空気を読めばわかる。闇雲に走って逃げるだけじゃ残り時間保たないよ』
 つまり、悪い感じじゃない方々だったら、いっそ懐に飛びこんでしまうのもありっていうことなんだろう。

 けれども、嬉々として追いかけて来られる皆さんの顔を見た途端、きっと前を向いてスピードを上げた。
 多勢に無勢、卑怯なり…!
 たとえお会いしたことがあろうとなかろうと、ルール違反など卑怯な在り様は許せません!
 絶っっっ対に捕まるもんですか!!
 逃げ切って見せる!!
 俺の自慢の脚力をとくとご覧あれ!

 「「「「「待て待てー!!」」」」」
 「待つもんですかー!」
 ふふ…皆さん、足は早いようですが俺の敵ではありませんね。
 既に息切れしている方、息切ればかりか足を止めている方と、どんどん脱落していく。
 おっと、油断はしないぜ。
 まだ俺を追っている数人の方は、体力、根性共に優れていらっしゃるご様子、スピードを上げたにも関わらず、ずっとぴったりついて来られている。
 そのファインプレーに、想わず振り返りざま、ぐっと親指を突き出しつつ、せっせと走り続けた。

 負けませんよー!
 ととと、あれ…?
 前方に2つの人影あり!
 こちらに向けて手招きしておられるのは…
 凌先輩と、宮成先輩…?!
 視力良好でよかったなぁと今更のように感謝しつつ、減速しながら近づいた。
 やっぱり凌先輩と宮成先輩だった。

 疑問符だらけの俺に、凌先輩はいたずらっぽい眼差しを向けられ、しーって人指し指を唇に当てたかと想うと、背後の木立へ隠れるように言われた。
 取り敢えず、もう逃げなくていいようだ。
 風紀委員の腕章を付けた凌先輩と、真っ赤なバラを胸に飾った宮成先輩の背後にある大木へ、ひっそり潜ませて頂いた。
 「「「「「待てー…?!っげ、風紀の渡久山と、宮成…!」」」」」
 呼吸を整えてから、そろーりそろりと顔だけ出した俺は、想わぬ光景に目を見張るしかなかった。


 「…誰…?分かるよね、邪魔しないでくれる…?」


 凌先輩が宮成先輩に抱きついて、首に腕を回しておられる。
 その凌先輩の腰と背中を、宮成先輩がしっかりと抱き止めておられる。
 言葉にすると、簡単な状況説明なんだけれど。
 漂っている大人っぽい…そう、恋人、そのものの空気に、唖然とするしかなかった。
 誰がどう見たって、恋人同士にしか見えない。
 あまりの大人っぽさ、人に見られているのにまるで動じておられない御2人に、赤くなったり青くなったり、ヒヤヒヤして。
 ドキドキした。

 先輩たち、もしかして…また恋人に戻れた…?

 「お前ら、別れたハズじゃ…!」
 「何これ、大スクープ?!」
 俺と同じく、大パニックに陥ってる様子の追っ手の皆さんに、宮成先輩は悪どく笑って、凌先輩に囁くように言った。
 まるで、耳にキ、キキ、キス、してるみたいに見えた。
 め、め、目の毒ですっ、先輩たちっ!!
 「凌、コイツら、まさかのルール違反なんじゃね…?どーでもいーけど、さっき向こうに逃げてった1年っぽいヤツ、追いかけてたのコイツらじゃねーの」
 「朝広にもそう見える?大体、集団で居る事そのものが問題だしね…」

 「その上、邪魔して来やがったしな」
 「実に不愉快だよね。折角2人っきりだったのに…仕事するしかないみたい」
 「仕方ねーよ。さっさと終わらせちまえ」
 せ、先輩たちったら!
 お顔大接近トークを繰り広げた後、凌先輩はくるりと身体を反転させ、追っ手の皆さんへと向き直った。
 ようやく離れるのかと想ったら、宮成先輩は凌先輩を背中から抱きしめる形で落ち着いていらっしゃる。

 な、なんと…!
 俺も、武士道の皆や秀平たちからよくされるスタイルだけれども!
 「陽大の肩は丁度良い顎置きだ」とか、ふざけたことをヌケヌケと言った秀平さんの鳩尾に、必殺・肘鉄をお見舞いしたこともありますけれども!
 これこそが正しい恋人同士における背中ハグなんだ。
 ラ、ラブラブ…これこそまさにラブラブ…!

 「貴方々も承知の通り、新歓は個人競技です。集団で行動し、尚且つ標的個人に対して集団で追うとは理由の如何なく言語道断。この瞬間から全員のゲーム失格を言い渡します。そのバラの返却と速やかに講堂へ戻る事を要求します。早くしなさい」
 「で、でもお前らだって、何で一緒に…」
 「そ。そうだそうだ!風紀副委員長はとにかく、宮成先輩は一般参加の筈!」 
 「現役の3大勢力であり、未来の風紀委員長でもある凌と、元とは言え長年生徒会長だった俺に何か文句でもあんのか?あぁ?」
 「「「「「…ございません…すみません…」」」」」

 ふわー!
 なんと見事な連携プレイ!
 凌先輩の厳しいお仕事姿も初めて拝見してびっくりしたけれど、宮成先輩の猛々しい生徒会長オーラもものすごい。
 有無を言わさない2人の空気に、圧倒された。
 ラブラブって、すごい…!



 2011-08-15 23:39筆


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