29.お母さんが行く!
ほわー!!
「どこだ?!」
ひわー!!
「アッチ行ったぞ!!」
ふわー!!
「「「っち…!お母さん、ちっちゃいのにすばしっこい…!」」」
俺はちっちゃくありませんからー!!
早くも大介さん助けてコールを繰り出しそうになりながら、落ち着け落ち着けと木肌にしがみついてその場をやり過ごした。
ずっと一緒にいるわけにはいかない、大介さんとお互い無事な姿で再会することを誓って別れた途端、これだ。
2年生さんが動き始めており、そろそろ3年生さんもスタートする。
追跡者が増えるに従って、身の危険は倍増する。
改めて、俺がどれだけ狙われているか、身に染みるこの頃です。
でも非常に心強いアイテムをゲット!
俺の気持ちはとても明るく、さっきよりずいぶん落ち着いております。
『どうにもなんなくなったら、無理せず電話しろよ』って、大介さんと交換した携帯電話のアドレスと番号。
なんだかんだでまだ知らなかったんだよねぇ。
アドレス帳がひとつずつ埋まっていくと、ほのぼのするねぇ、うれしいねぇ。
しかし、握手した大介さんの手、おっきかったなぁ。
そう言ったら、『バスケしてるからじゃね?つか、前がちっちゃ…いや、すみません…何でもないっス』って伏し目がちにされてたっけ…
まったくどの人もこの人も、ちょっと成長期さまに恩恵を受けたからって、人のことを何だと想ってるのでしょうか?!
今に見てなさいよ!
俺こそ成長期さまに選ばれし真の男、束の間の優越感など俺の前では無意味、俺が真の姿へ進化した暁には、決してあなた方を見下したりしませんとも、優しく丁重な紳士的振る舞いをもって慰めて差し上げますからね…
過去は水に流してよしよししてあげますとも、母のあだ名に恥じぬように。
バラ色の未来を想い浮かべていたら。
「「「居たぞ!木に同化してる!」」」
はわー!!
ぼうっとしている場合じゃなかったぁ!!
どう活路を見出すべきか、3方からじりじり迫り来る、見知らぬ2年生の先輩さん方に笑顔を向けながら、必死で考えた。
運動部さん系、武闘さん系ではなさそうな雰囲気が救いだろうか。
人は見かけに因らない、見かけだけでは判断できないことも多いから、油断は禁物だけれども。
…もしかしなくても俺、これからずっと残り時間、走りっぱなしの逃げっぱなしになるのかな…?
動けなくなったら最後、どなたかさまに捕まるだけ…?
なんとサバイバルなチャレンジ!
いいでしょう、俺は負けませんよ!
この力ある限り、走り続けて見せようじゃありませんか。
とにかく今は、どうやってこの場を切り抜けるべきか。
ベタだけど隙を作って駆け抜けるしかなさそうだ。
息を吸いこんだ時、急に、第3者さんが登場した。
「あれ〜…?先輩達、こんな所で何をなさっておられるんですか〜?まさか、1人のいたいけな後輩に対して3対1…?それって重大なルール違反ですよね〜?先輩ともなればどれだけ罪深い事か、よっくご存知ですよね〜?」
「「「う…!片前(かたまえ)…!!!」」」
あ、れ…?
知らない御方だけど、どこかでお見かけしたことがあるような…
そしてこの御方、今の今までまったく音もなく、それこそ煙のように唐突に登場なさった。
緊迫した状況、追っ手の先輩方も追われている俺も、他にあまり意識を向けられない状態ではあったけれども、それにしても不思議だ。
気配を消しておられたのか…
だとしたら、もしや武道の達人?!そういった心得がある御方?!
その証拠だろうか、先輩方は揃いも揃って青ざめ、心なしか震えていらっしゃるように見えた。
「か、片前…!」
「これにはワケがっ!」
「最初から3人で行動してたワケじゃないんだ!」
あわあわと動揺なさっておられる先輩方に、かたまえさんと呼ばれている御方は、それはもう鮮やかににっこりと微笑まれた。
「問答無用」
ひょえー!
格好良い!!
2011-08-12 21:26筆[ 367/761 ][*prev] [next#]
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