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 変な話、だよなー。
 前からしたら、寝耳に水ってヤツだよな。
 フツーのクラスメイトだったのに実はそうじゃないんです、とある御方からあなたを守る様に言い付けられてるんです、だけどこれからも友達で居たいし、仲良くして欲しいんです、なんてさ。
 それも、俺みたいなヘラヘラしたのがそういう役割なもんだから、尚更だろう。
 大体、正体を明かせないってのがネックなんだ。
 「雇用主」様を暴露できたら、もっと話は早いんじゃね?
 あんの俺様ヘタレ様め、肝心な所でチキンだからなー。
 
 けど、指令は指令だ。
 俺にそれを違える事は決して許されない。
 気分は参勤交代の大名だ。
 下界の家族を人質に取られてる様なもんだ、しがないサラリーマンは辛いねー。
 仰せつかった役目を明かしてしまった時点で、重大な契約違反だけど。
 別にそれでハラキリにはならねーだろうと踏んでる。
 「雇用主」様が情深いワケじゃない、俺の立場を明かした方が、今後守り易くなるから。

 男前な前からしたら不服かも知れないけど、この新歓でイヤって程自覚すんだろ。
 どれだけ学園の中で目立ってて、多くの生徒からいろんな意味で注目浴びてて、どれだけ意識されてる事か。
 だから打ち明けた事に悔いはない。
 まだ時間はたっぷりある。
 九と美山の監視してたら、そんなに猶予はないかも知れないけど、何とかしようって想ったら何とでもなる、時間ってそういうもんだ。
 自分の嘘偽りない心から望む物事に関して、時間は味方になってくれる筈だ。

 言えない事情は多少なりともある。
 内外通して、前には知って欲しくない事情もある。
 全部は言えないけど。
 フツーの友達関係だって、そんなもんだと想うし。
 俺はただ、何があっても前の味方だ。
 お前がとてもそうは想えなくても、味方だから。

 前はいちいち他人の話をちゃんと聞く。
 日頃の授業態度からも見て取れる。
 自分の中に1つ1つ、人から得た言葉を丁重に収めて、噛み締めて、それから穏やかなボールを返して来る。
 その経過を現す表情がまた豊かだ。
 驚いた表情で、まさにぽかんとするってヤツだろう、俺の話をじっくり受け止める様子を近くで見ているのは、何か面白かった。
 面白いと同時に関心した。

 話術が得意より、人の話を聞けるヤツのが人間が出来てる、尊敬に値する。
 九も見習ったら良いのになー。
 そういやアイツら、今頃どこを彷徨ってんだか。
 俺の親衛隊曰く、武士道に狙われてるらしーじゃん。
 厄介だな。
 なるべく会わない様に避けねーとな。
 巻き込まれたら災難だ。
 などと、前が熟考してるのを見守りながら、ちょっと意識を飛ばしてたら、俄にその表情が穏やかになった。

 つか、目ぇキラキラ輝いてない?
 

 「俺などにはとてもよくわからない世界ですが…大変失礼な話かも知れませんが、音成さん、すごいですね…!!そのようなご苦労なさっている素振りをすこしも見せず、いつも爽やかに笑っていらっしゃって、さり気なく周りの皆さまのフォローなさっておられるし…尊敬しますっ!!格好良すぎですよー!

 どこのどなたさまが音成さんにお願いして、俺を守ってくださっているのかは見当もつきませんが…ほんとうに心強いです。ありがとうございます!音成さんでよかったです!いつもほんとうに助けられてばかりで、すっごく安心してますし、既に依存傾向もあったりしますが…こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします。

 俺ももっと音成さんと仲良くなりたいですっ!俺も音成さんが困った時は友達として助けられるように、奮闘努力を惜しみませんので、どうか何卒よろしくお願いいたします。あと、もし可能であれば、音成さんの上司さん?にもよろしくお伝えくださいね、お心配りほんとうにありがとうございますと…うーん、でもどなたさまですかねー?
 まさか…ニコニコ商店街?!はっ、いやいや、別に探るつもりはありませんよ?!探偵さんの真似ごとなど、俺には無理ですからね!いやー、でもそんな酔狂な御方と言えば…」


 今度は、俺が目を見張った。
 ぼーっとして。
 余計な事、いつも習慣になってる計算や駆け引きなんかを、考える余裕もなくて。
 探るつもりないって言いながら、「雇用主」様の見当をつけようと、うんうん首を捻ってる姿、笑みの絶えない口元を見てて、掛け値無しに笑えた。
 「はははっ!前らしーな、何か。前ならそう言ってくれるって…つか、予想を遥かに超えてたけど!」
 「へっ?」
 「マジ面白いわー。すっげ気に入った!いや、友達にそんな上から目線有り得ねーよな。うん、とにかくこれからもよろしくな!事情はいろいろあるけどさ、これまでと特に変わんねーから」

 「はい!まだまだ学園に不慣れなもので、何かとご迷惑おかけすることとなりそうですが、よろしくご指導ご鞭撻の程お願い申し上げます」
 「友達に対して仰々しいっつの!気軽によろしくー」
 普段の俺なら、絶対こんな事しない。
 でも、前とはちゃんと向き合っていたいから。
 さらっと握手した、前の手は俺より随分ちいさかったけど、俺より温かくおおらかな手で、ああこの手でいつも美味いもん作ってんだなーと想ったら、何となく離し難くなった。

 そしてこの笑顔、どうよ。
 心の底から嬉しくて堪らないっていう、周囲の景色まで明るく彩る笑顔だ。
 生徒会なんかも目じゃないんじゃね。
 そりゃそうか、偽りだらけの作り笑いが本物の笑顔に敵うワケない。
 向日葵が咲き誇った様な、強い存在感。
 
 かわいーじゃん。

 って、ちょっと想った。



 2011-08-10 23:45筆


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