27.音成大介の走れ!毎日!(5)


 やーれやれ!
 前は陰と陽どっちにしろ、大物を掴まえる才能があるみたいだなー。
 大変な才能だ。
 逆に、エラく頭のキレるヤツにとっ捕まったら、良い様に利用されそうなタイプだ。
 3大勢力の後ろ盾がある限り、十八でそうそうな目には遭わないだろうけど。
 前の引力は強烈過ぎる。
 社会に出てから大変そうだー。
 いや、ひょっとしなくても、今までだって相当大変だったんじゃね?

 みっともなく逃げ出して行く厄介バレー部下っ端共を視界に入れつつ、腕時計を見た。
 んー、間違いない。
 とっくに2年がスタートしてる時間だ。 
 直に3年も来るだろう。
 時間がない。
 俺だって狙われてる側でもあるしね。
 「前ー居るんだろ?出て来いよー別にバラ奪ったりしねーから」 
 前が潜んでいるであろう辺りを見定めて声を掛けたら、がさっと茂みが揺れた。

 やや経ってから怖々とした様子で、若干気落ちしてる気配の前が、ひょっこり顔だけ出したもんだから。
 「ははっ!野ウサギみてー!」
 その様がその辺駆け回ってる、用心深い野性のウサギやリスみてーで、想わず笑ってしまった。
 耳つけたらまんま小動物って感じだ。
 そしたら途端にあからさまな仏頂面になって、むすっと近寄って来たから、ますます笑えた。
 あの気難しい「雇用主様」が可愛がるだけあるよ、前って基本的にしっかりしてるけど、なんかちょっと抜けてて天然っつーか、可愛気あるんだよなー。

 「………音成さん、お久しぶりです」
 硬い声で挨拶されて、あぁそっかと想った。
 前は違う意味で言ったのかも知れないけど。
 誰も邪魔して来ない場所で、面と向かってまともに会話すんのって、すげー久し振りだ。
 「おー久し振りー」
 「あの…先程いらっしゃった方々とお知り合いなんですか…?俺、よくわからないながら、何やら追われていた模様でして…困っていたので、音成さんが通りかかってくださって助かりました。さすがに3人さまと雌雄を決することはできかねますし、敢えなくゲームオーバーになるところでした。ありがとうございました」

 「どういたしまして!困った時はお互い様だしな」
 「はい…いつもお気遣い頂いたり、助けて頂いてばかりで恐縮です。音成さんが困った時は、今度は俺が立ち上がりますので!できる限り頑張りますので、遠慮なくお声かけてくださいね!」
 サンキューって笑いながら、前ってお母さん気質の反面、男前だよなーとほとほと関心してた。
 いろんな面を持ってる、例えば絵の具が12色だけあって、でも混ぜ合わせたら無限の色が広がるぐらいに。
 ま、じゃなきゃ雇用主様がここまでご執心なさるワケねーか。

 無邪気な程、気合い十分に両の拳を握り締め、勇ましさを見せたと想ったら、また野ウサギモードが戻って来た。
 「ところで、音成さんはお1人で回っていらっしゃるんですか?九さんと、美山さんは…」
 俺に悟られない様にキョドりながら、心配そうにしてる。
 お前はもっとお前の事を1番に考えるべきなのに、いつも他人に心を砕いてる。
 だいじょーぶだいじょーぶって、口先だけで答えながら。


 絶対に言わないでおこうと想っていた、極秘事項をつい打ち明けてしまった。


 「俺さー、前に言ってない事がある」
 「え…?」
 「言わないまま卒業するつもりだったけど。向こうからも絶対に知らせるなって、言われてるからねー」
 「え?え???卒業…?音成さん、まさか、実は3年生さんなんですか?!道理で大人びていらっしゃると想った…!!」
 「いやいやいや、同じ1年だし。留年もしてねーし」
 マジ、面白いヤツ。

 首を傾げまくって、疑問符だらけで瞳を瞬かせている様子を見ていたら、自然に手が伸びて、前の頭にポンと乗せていた。
 おー、柔らかい髪!
 触り心地良いなー、マジで小動物みてー。
 「俺はこれからも、九と美山が落ち着くまで制御役として側に居続ける」
 「…はい…」
 「でもそれは、俺が九を気に入ってるからじゃない。ヤツ等の事を友達だって想ってるワケでもない。ヤツ等が無茶して、その火の粉が前に振りかからない様に俺は動く。ヤツ等だけじゃない、この学園に居る限り生じるいろんな問題や、さっきみてーな事から前を回避させる、守る為に俺は存在してる」

 言葉を失い、目を見張って俺を見つめる、無垢な瞳の奥を覗きたい気になって、視線は逸らさなかった。

 「誰か、は言えないけど。前がよく知ってるヤツから、そういう風に依頼されてる。俺はその『雇用主』に従って生きる家に生まれた。だから俺は、前が此所で不自由な想いしない様に、『雇用主』の意思に添ってなるべく尽力する。
 でも、個人的に前の事は友達だと想ってるし、依頼とは別でもっと仲良くなりたいって想う。俺の仕事は前を守る事だけど、友達としても放っておけないっつか。
 だからさー、いつでも助けるし、何かあったら気軽に頼って欲しいんだ」


 
 2011-08-09 23:59筆


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