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俺がようやく我に返り、自分の失態に気づいたのは、不機嫌極まりない彼に洗面所の在りかを聞き出し、自分の手をていねいに洗い消毒し、手荷物の中から打撲に効く応急手当てセットを探り出し、嫌がる彼を叱咤激励しながらソファーに押さえつけ、慎重な手当てを終えてから、だった。
「これでよし、と…!当分動かさないように気をつけてくださいね。当然、炊事や掃除など家事は俺が代わりますから…入浴の時は濡れないように、ビニールで補強しますね。すこしでも異常を感じたらいつでも言ってください。俺に言い難かったら、直接校医さんの所か病院へ……」
大きな手からそっと自分の手を退け、顔を上げて。
出会った当初から五本、深ぁく刻みこまれた眉間の皺が、まったく変わっていないのを目の当たりにして。
気づいた。
やってしまった…!!!!!
やってしまった…!!
いずれバレるであろうことは、覚悟していたけれど…
出会って早々、初対面から、しかも挨拶も名乗りもしない内からやってしまった!!
こんな個人的過ぎる「いつものクセ」を、これからずっと暮らしていく同室者さまの目前で、見事なまでに披露してしまった。
俺の、「いつものクセ」。
カッとなったり、何かにめちゃくちゃ集中している時なんかに、抑え難い衝動のまま発揮してしまう、厄介なクセ。
それは、その時、俺の周りにいる人々に、迷惑おかけしてしまう厄介なもので。
中学の時はそのクセの発動中に、自然と出ている口調から、クラスのみんなだけではなく、先生方や学校全体までも巻き込んで、あだ名で呼ばれていたっけ。
改善しようと思っているのだけれど。
みんな、経過はどうあれやさしく受け入れてくれたから、俺も安心していた。
だけど、知らない人しかいない高校ではこのクセをなくそう!って。
発動させないように気をつけよう!って、決めてたのに!!
オカン。
そう、俺は男であるのに、まるで下町の気っ風のいいオカンのようだとあだ名される程、所帯じみており、誰彼構わず母性的な面倒見の良さ=悪く言えばお節介を発揮してしまうのだ。
確かに、スーパーのタイムセールが大好きですとも。
デパ地下なんかもたまらない。
スーパーや衣食住にまつわる広告チラシが愛読書と言っても過言じゃない。
頭の中は常に衣食住でいっぱい、それも主に食が占めている。
井戸端会議なんかも大好きだ。
意味のない話を延々とおしゃべりしていると、癒しを感じる。
TVはバラエティーかお笑い番組が好きだ。
なにごとがあっても、食べて寝たらすぐ忘れる。
他人の服のボタンや裾がほつれていたら、すぐさま飛んで行って直したくなる(実際、針と糸は肌身離せない)。
子供や、子供っぽい大人の面倒を見たくなる。
俺の目の前でケガしようものなら、居ても立っても居られない。
それが自分の所為ともなると、こんなふうに…
お相手さまの意向をガンガン無視して、突っ走ってしまうのだ!
我ながら、恐ろしい…!!
「す、すみません…!!ご挨拶もまだでしたのに、つい…!!これはその…俺のクセと言いますか、親愛?の表現とでも申しましょうか、その、あのですね…!他意はないのでございますが、その…!!」
しどろもどろに弁明し始めた俺を、「Miki Miyama」さまであろう御方は、眉間にシワを寄せられたまま見つめて。
ぼそっと。
それはもう、ぼそっと、低い声で呟いた。
「てめぇ……俺が、怖くねーのか…?」
2010-04-17 23:45筆[ 37/761 ][*prev] [next#]
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