25.Go!!


 しっかしお天気がよくてよかったなぁ。
 う〜ん、さわさわ吹き抜ける風の中に、初夏の匂いを感じる。
 足を止め、想いっきり深呼吸すると、身体中が緑の空気いっぱいに満たされるようだった。
 こんな爽やかな環境でかくれんぼ&鬼ごっこが経験できるなんて、かけがえのない想い出になりそうだ。
 幼稚園も小学校も中学校も、運動場には恵まれていたけれど街の中だったものね。
 それに、母さんと俺には故郷と呼べるものがない。
 今まで自然と触れ合うと言えば、校外学習などですこしだけだった。
  
 陽の光と、たくさんの木々、緑、動物たちの生きている音、そして同じ空の下のはずなのに、空が広く高く見えること。
 こんなにも気持ちがのびのびと、おおらかになるものだったなんて。
 空気がおいしいって、毎日実感できるって、ほんとうにしあわせなことだぁ。
 のびのび、のびのび…ついでに身長や手足も伸びそうだ、ふふふ…成長期さん、陽大はいつでもお待ち申し上げております。
 ああ、自然は偉大なり。
 明日明後日の土日は、武士道の皆とピクニックしたいな。
 皆、予定はどうかなぁ。
 
 いやいや、先ずはミッションコンプリートですな!
 ええと、俺が講堂を出てからまだ10分も経ってない。
 2年生のスタートまで数分ってところか。
 続いて10分後に3年生、更に10分後にアイドルさま御一行がスタート、凌先輩が属する警備隊は常時各地を見回り中、と。
 ジャージのポケットからエリア案内を取り出した。
 このしおり、まるでおとぎ話やRPGに出てきそうな宝の地図みたい、実に凝った作りなのがますます冒険心を誘いますなぁ。

 広大な学校敷地内、実は逃げ回るエリアはかなり限定されている。
 食堂やショッピングセンターなど各施設内、寮、各部室棟、各委員会棟、理事長棟、職員棟、1年生から3年生の教室以外の校舎、一部の中庭や森の中、武士道の「ホーム」や3大勢力さんの隠れ家がある近辺は、一切立ち入り禁止。
 立ち入り禁止エリアには、立て札とロープが張リ巡らされ、常に先生方が巡回していて近づくこともできないようだ。
 俺の現在地は、と…近くにテニスコートがある。
 ふむふむ、今のところ、他の生徒さん方とは遭遇していない。
 俺以外の足音も聞こえないし、気配もない。

 そりゃそうだよねぇ。
 生徒さんの数も莫大だけれども、それよりも何よりも、すべてがおおきい広大な学校だもの。
 このまま平和に終わりそうだなぁ。
 まぁ、油断大敵!
 2年生さん、3年生さんが参戦してこられたら、どうなるかわからないものね。
 皆さん、この学校のことを俺などより熟知しておられるし、いろいろな方面から心配して頂いているし、気をつけよう。 
 最後までこの自然の下に抱かれたサバイバルゲーム、目いっぱい楽しむぞー!オー!! 

 ………おおらかな環境でも、暗い一面はあるけれども。
 あんまり考えすぎても仕方がない、よね。
 どんなことにだって、表も裏もあるんだから。
 くよくよ考えたってどうしようもないことがある。
 とにかく今、この時間に、集中しなくちゃ。 

 ところで、あんまりどなたさまとも争いたくはないのだけれど、個人的にひーちゃんを狙いたいなぁ。
 でも願いごとは1つ、か…
 偏食を直してもらうように要請する?
 それともあのデコデコファッションの改善?
 野菜をかわいく切らなくても食べるように要求?
 お返事も間に合わない内に延々とメールしないって約束してもらう?
 甘えん坊演技の禁止が優先か…?
 悩むところだ。

 まったく、やればちゃーんとデキる子だというのにあの子ときたら。
 もし出会ったら、覚悟しなさいよ?!
 俺はひーちゃんの死角を誰よりも把握しているんですからね!
 燃えていたらポケットの携帯が震えて、なんだなんだと取り出した。
 あれ、十八さんからメール?
 サブディスプレイを見て、携帯を開こうとした時だった。
 「――マジでこっちかよ?!」
 「あの平凡チビ、やたら足速かったけど間違いない!こっちに走ってった!」
 「ったく、こんな遠くまで探させやがって…」

 複数の声が聞こえて、既に到着していたテニスコート付近、想わず反射的に茂みの中へ身を潜めた。
 時間的にも同じ1年生さんのようだ、どなたかを探しておられるのか。

 のんきに構えていた、次の瞬間、心臓が凍りつきそうになった。


 「1番イイ方法はさー『お母さぁん!助けてぇ』じゃね?」
 「アッハッハ、マジウケるんですけど!あの平凡、お人好しヅラだもんなー『どうしたんですか?!』ってのこのこ出て来そー!」
 「それもアリかもなーま、とにかく探そうぜ。あんなふざけた途中入学のチビに、此所でデカい顔されんのはうんざりだ」
 「言えてるー」
 「ちょっと最近チョーシ乗り過ぎてるよなー?」
 「なぁ?3大勢力と仲良いからってよー正直、アノ転校生も大概だけどお母さぁん!のがムカつくし」
 「『前』ってどちら様ってカンジよな?!聞いた事ない家柄の分際で目立つなっつーの!」


 俺のこと、だ……
 俺を、探してる?!



 2011-08-07 23:12筆


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