22.楽しいと、信じる力さえあれば


 青い花、だ。
 「はい」
 手渡されたそれに、どきっとした。
 「あ、ありがとう…」
 不自然に聞こえなかっただろうか、返事の声はすこし動揺していたけれど、イベント委員さんは既に背中を向けておられた。
 ふっとため息を吐いて、改めて眺めたら、光の加減で青く見えただけで、実際は紫がかった白いバラだった。
 ほっとしたと同時に、部屋に置きっ放したままのドライフラワーたちを想い出して、またため息が出た。
 いけない、いけない!
 集中しなくっちゃ!

 あっという間に新歓の時間になった。

 今朝からそれはもう学校全体が浮き足立った状態で、授業中はもちろん、お昼休みまでも落ち着かない空気でいっぱいだった。
 お昼休み中に体育用のジャージに着替えて、入学式が行われた大講堂に集合、ちいさな歓声やざわめきは止まないものの、いざとなったら人は冷静になるものなのだろう。
 朝礼の時より静かだった。
 俺は今こそ最高潮にドキドキわくわくでいっぱいだ。
 凌先輩や仁と一成に言われたこと、気をつけるけれども。

 なんでしょう、この久しぶりの感覚…身体の奥から沸き上がって来るパッション…!
 これはアレに似ています。
 アレの前、時計とにらめっこしながら、今や遅しと待つ気分まで、まさにそっくりそのまま。 
 タイムセール…!!
 あぁ、3月以来、参戦してないんだよねぇ…
 ゴールデンウィークの一時帰省の時は、結局行けなかったし…
 緑が丘のハッピースマイル商店街の皆さんや、「ふるふるスーパー」の皆さん、共に戦い時には助け合った強敵と書いて友と読むおばちゃんたちはお元気だろうか。

 夕方5時スタートダッシュとか、ゲリラセールとか、5分間限定の激安タイムとか、店頭配布限定チラシとか、「はるとスマイル」で%OFF(パーオフ)とか…
 あの激動の日々がもう懐かしいなんて…想い出は美化されるというけれど、なんの美化ではありませんとも、とても輝かしい青春の1ページなのです。
 夏休みになったら、また参戦させて頂くんだ!!
 そのようにお約束しているし、ライバル(おばちゃん)からも「待ってるよ!」って言って頂いて、握手を交わした。

 例え学生の本分が学業と言えども、例え遠く離れたこの山中での全寮生活と言えども、寧ろパワーアップして帰還するのが当たり前!
 今日の新入生歓迎会、決して負けるわけには行かないのです!!
 緑が丘の人々を代表して、前陽大、小学生からこの方、鍛えに鍛えた脚力と野性の勘と反射神経を駆使し、走って走って走り抜いて見せようじゃありませんか…!!
 これぞ故郷に錦を飾る、男魂ってものですな!!
 ふふふ…体育祭前のイベントですけれども、獅子はいつでも全力を尽くすもの、俺も本気で行きますよー!!

 心を燃えたぎらせながら、まだ各学年の集合まで余裕がある、腕や足のストレッチを始めた。
 流石、激闘に耐え抜いた我が足、軽い足の挫きなんざ俺の敵じゃありません。
 ふんふんっと、気合いを入れてストレッチをしていたら、合原さんがやって来られた。
 「前陽大、調子はどぉ?」
 「合原さん!はい、お陰さまで絶好調です〜合原さんもお元気そうですね」
 「あったり前でしょぉ?心春がどんだけこのイベント、楽しみにしてたと想ってんの!幼等部の段階から今日この日を夢見て生きて来たんだからねっ」
 「おお、気合い十分ですねぇ!合原さんはピンクのバラなんですねー皆さん、いろんなお色なんですねぇ」

 「まぁね、ピンクって言ったら心春に決まってんでしょ。前陽大は…白…?」
 「はいーちょっと紫がかってて、青っぽくも見えるんですよーこのお花って、イベント終わったら頂いても良いんですかねぇ?」
 「守り切れたら、ね…このバラのブローチについて、いろんなジンクスあるんだけど、今は話してるヒマない。そろそろ始まる」
 「そうですか!ひゃ〜ドキドキする〜!合原さんもドキドキですよね、やっぱり生徒会さんが取り仕切られるんですよね?」
 合原さんは苦笑して、声を潜められた。

 「なんつー無防備な顔で笑って…呑気にしてる場合じゃないよ、前陽大。
 とにかくお前、逃げなよ。新入生の10分後に2年生がスタートするから、武士道の皆さまを探して、ちゃんと匿って貰いなよね。このイベント、お前にとって危険過ぎる…一舎も参加するみたいだし…良い?何かちょっとでも身の危険を感じたら、何が何でも逃げろ。最悪、寮に帰れば良い。お前が想ってる以上、お前の周りから注意されてる以上に、危ないイベントなんだから…」

 健闘を祈るって、スポーツマンのように凛々しく言い残して、合原さんはお友だちさんの元へ去って行かれた。



2011-08-04 23:47筆


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