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 「…えっ」
 え?
 はっ!!
 俺ったら、感じたそのままを言葉にしてしまった…!!
 「綺麗」って褒め言葉でもあるけれど、相手は男の先輩で、(男女問わずだろうけど)綺麗だと言って欲しくない御方も居られる、人間相手となると非常に取り扱いの難しい言葉なのに!
 あわわわ!!

 「す、すみませんっ…!つい想ったままを言葉に…!あの、あのっ、他意はないんです、悪気もありません!!先輩があんまりにもやわらかぁく笑っていらっしゃるので、綺麗だな、ほんとうの先輩らしいなとか想って…あああ、あの、ほんとうに他意はないんです!!初めてお会いした時から今までよりもずっと、すごく穏やかで、素顔、素のお言葉と言いますか…と、とにかく、俺はそんな渡久山先輩のことを人として尊敬してると言いますか、好きと言いますか…!
 あの、つまり…俺などが差し出がましい発言、誠に申し訳ありません…どうかすべて水に流してお忘れください…」
 
 話せば話すほど、墓穴じゃないか!
 どんどん赤くなった顔を俯けて、1人葛藤していたら、またくすくす笑う声が聞こえた。
 「ありがとう。前君にそんな風に言って貰えるなんて、嬉しいな。仁、一成、聞いた?前君は俺の事が好きなんだって」
 「「………ナンニモ聞コエマセンデシタ」」
 「そんな訳ないよね。男の嫉妬は醜いよ。前君に嫌われるよ」
 「チョーシ乗んなよ、凌…はるとのお前への『好き』はどーせ友愛の範囲だ!」
 「俺らなんか家族愛だからね〜友情超越しちゃってるからね〜っだ」
 「何だ、やっぱり家族愛止まりなんだね」
 「「………いーんだもん…」」

 渡久山先輩は、とっても楽しそうだった。
 「うん、でも…綺麗なんて滅相もないけど、気持ちは完全に吹っ切れてすごくスッキリしてる…3大勢力の仕事、風紀委員の事、前向きに頑張ろうって改めて想った…それは前君のお陰だから。朝広…宮成先輩も同じだと想う。先輩の分も込めて、ありがとう前君」
 にっこりと、一切の澱みなく笑った渡久山先輩の言葉に、俺は完全に目が覚めた。
 宮成先輩…!!
 そうだ、俺、渡久山先輩に謝らなくちゃいけないのに!!

 「俺は何も…!お礼を言われるどころか、俺は、渡久山先輩に謝らなければなりません…校内新聞に載るようなお騒がせも3度目なら、何もお話することなく勝手に宮成先輩とお会いしていて…俺はほんとうに毎回気配りが抜けていて!何度も何度も学校内を騒がせて、渡久山先輩のお気持ちまで配慮が足らず、大変申し訳あり、」
 「前君」
 下げようとした頭は、やさしく肩に触れた手に止められた。
 その動作よりももっとやさしい瞳が、切なく微笑って、俺をまっすぐに見つめ、静かに首を振った。

 「前君、さっきから俺に謝ってばかりだ。俺が前君に意地悪してるみたいじゃない?そんなに俺は怖いかなぁ?」
 大人びた表情とは違って、どこか茶目っ気たっぷりのお言葉に、全身の強張りが解けていった。
 渡久山先輩が怖いわけじゃない、慌てておおきく首を振ったら、またにっこり笑顔が返って来た。
 「大丈夫だから、もう何も謝らないで。俺は寧ろ、君にはすごく…言葉で言い表せないぐらい、感謝してる。前君が直接、俺と宮成先輩を示し合わせた訳じゃないのはわかってる。でも、君が居なかったら、君が俺と宮成先輩それぞれと会っていなかったら、ちゃんと向き合えなかった。中途半端なまま、お互いがお互いを恨んで後味悪く終わっていたと想う」

 渡久山先輩…?

 「君のお陰で、気持ちは素直に現したほうが良いってわかった。ちゃんと他人と向かい合うべきなんだって、もっと言葉を交わすべきなんだってわかった…何よりも宮成先輩がそう感じたんだと想う。昨日、彼から話をしてくれたんだ。酷い別れ方になってごめんって、あのプライドの塊が頭を下げてた…俺も先輩の事は言えないけどね、自分の気持ちを少しは話せたかな。
 だから今、すごく晴れ晴れとしてるんだ。もう2度と戻れないけれど、ちゃんと先輩と後輩の関係になれた。吹っ切ったつもりでも、どこかわだかまりは残ってた、宮成先輩の本音を聞きたいっていう…それがなくなったから、もう俺は大丈夫。
 宮成先輩も少しずつ変わると想う。3大勢力在籍中は奔放だったけどね」

 「そ、うですか………でも、俺などは何も…誰のお役にも立てなくて…」
 しどろもどろに言葉を繋ぎながら。
 手前勝手にあふれ出そうな涙を、必死で堪えた。
 俺が泣いてどうする。
 俺が泣いたところで、現状は変わらないばかりか、先輩や仁と一成に要らない手間をかけさせてしまう。
 けれど、哀しくて、心が痛くて仕方がない。
 お2人が先へ進む為には、最良の、なるべくしてなった終局の形なのかも知れないけれど。

 『ちゃんと先輩と後輩の関係になれた』…?
 
 どんなに想い合っていても、ダメなのか。
 初恋すら知らない俺などにもわかる、どうしようもない現実があること。
 キレイな夢ばかりで世界は構成されていない、わかっているけれど。
 もう、ほんとうに終わりなの?
 宮成先輩と、渡久山先輩は、ほんとうに終わってしまったのか。
 お互い嫌いでお別れしたわけじゃないのに。
 今でもこんなに想い合っているのが伝わってくるのに。
 それをしかも、何のお力添えもできない無力な俺に、「ありがとう」って、どうして。

 涙が盛り上がって来て、鼻の奥がツンと塩辛くなって、ゴミが入ったとばかりに瞬きを繰り返してごまかした。
 渡久山先輩は目を細めて、苦笑のように微笑った。
 「前君がそんな顔しないで。俺達は大丈夫。もう本当にサッパリしたからね。宮成先輩も早速心を入れ変えて、親衛隊認可に動き始めたようだし。
 そうだな、仁と一成は不服だろうけど、1つだけ、勝手なお願いがあるんだ。聞いて貰える?」
 「ばい゛、俺な゛どに゛でぎる゛ごどがあ゛り゛ま゛じだら゛何な゛り゛ど」

 「…大丈夫かな。そんなに想い詰めないで聞いて欲しいんだけど…もし宮成先輩と会う機会があったら、俺に遠慮する必要は一切ない。彼の親衛隊も、直に君の存在を認めるだろう。校内新聞の威力も恐れないで欲しいんだ、出来る限り俺もサポートするから。
 だから、また彼と話をしたり、食事を一緒にして貰えるかな?宮成先輩の周りにも人は居るけれど、彼は今まで頑に内へ隠っていたから、心を開ける人が居ない。前君と関わる事で、彼の世界は自然に開けて行くと想う。前君って一緒に居るだけで心安らぐし…勿論、前君には前君の都合があるだろうから、強制するつもりはないよ。
 ただ、1後輩として先輩の事が気がかりでね。またタイミングが合えば、って事でよろしくお願いします」

 ぺこりと、ちょっぴり軽いノリで頭を下げられた渡久山先輩へ、涙腺が決壊しないよう何度も何度も頷くことで精一杯だった。



 2011-07-30 22:40筆


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