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 「夜分にごめんね。仁と一成にとっては昼間だろうけど」
 「「そんな事ねーもん。もう眠たいんだもん…」」
 「良い子ぶってるね」
 「「………」」
 ほわー!
 玄関まで2人がお迎えに出ている間に、あわあわと辺りを片付け、寝ぼけ眼(まなこ)をこすり、頬をぱんぱんと叩いた。
 ちょっと起きたところで、はっと我に返った。

 俺、パジャマ…!!

 やわらかい水彩みたいな淡いブルーの太めのボーダー、麻混で滑らかな肌触りの生地のパジャマはお気にいりの一張羅ですけれども、パジャマはパジャマに相違ありません。
 き、着替え?!
 何か上に羽織るだけでも!
 ああ、せめて仁と一成みたいに、Tシャツにスエットとか部屋着っぽい格好だったなら!
 「前君、こんばんは」
 「ひえぇー!!っこっ、こんばんはっ」
 「「「…ひえぇー…?」」」

 神さまは俺を見捨てられました。
 これはつまり、着飾るよりもありのままの姿を見せて笑われなさい、日頃から美意識が薄いからイケメンはおろかお洒落メンズにも程遠く、だから背も伸びないのですよ、悔い改めなさいという暗示なのですね…
 わかりました、慎んで精進いたします。
 おたおたしている間にリビングへ現れたのは、渡久山先輩だった。
 
 渡久山先輩もお部屋で寛ぎモードさんだったのだろうか、いつもの雰囲気よりずっとリラックスしていらっしゃる気配だ。
 くったりした生成りのリネンシャツや、さらさらやわらかそうなカーディガン、ゆったりめのパンツで、更に眼鏡をかけていないから尚更だろうか、なんだか穏やかさ倍増というか、先輩の本質に近いのではと想わせる。
 「す、すみません…変な声を出しまして…」
 「?どういたしまして、こちらこそ驚かせてしまって…急に来てごめんね。前君に話したい事があって、就寝中かなとも想ったんだけど…」

 俺に、話したいこと。
 「ほい、陽大、凌。飲んでいーぜ」
 「俺ら、向こうに居るね〜」
 気を利かせてくれた仁と一成が、特別寮限定プレミア自販機のジャスミンティーのペットボトルを置いて、ベランダへ出て行った。
 「あ、2人共!煙草とお酒は?!」
 「「はい、吸いません。飲みません」」
 「よし!仁も一成もいい子!いい子!明日の朝ごはんはプリン付きね!」
 「「わーい!誉めらりた!プリン!プリン!」」
 ふむ、流石にもうコソコソした真似はしませんね。

 以前はわざと怒られたいが為に悪さするような、ちょっぴり天の邪鬼な子たちだったけれども、もう流石にね…こうして人は大人になって行くんだなぁ。
 問題はトンチンカンちゃんたちとヨシコちゃん、下の子たちなんですけれども。
 まあ直に、総長副総長を見習って、行動を改めるようになるでしょう。
 満足しているところで、横から微かにくすくすっと笑い声が聞こえ、慌てた。
 「す、すみません…!先輩の前ですのに、我が家のお家事情を垣間見せて申し訳ありませんでした!渡久山先輩もご存知かと想われますが…どうぞこのジャスミンティー、お収め下さいませ!ところで、御用件は…」
 「ふふ、こちらこそ笑ったりして失礼致しました。仲が良いんだなぁと想って、ね…あの仁と一成がこんなに素直な良い子だとは、長い付き合いながら知らなかったものだから」

 すると、ベランダから声が飛んで来た。
 「「良い子だもん(陽大限定で)」」
 渡久山先輩はまた楽しそうに微笑って、ふっと息を吐いた。
 「羨ましいな」
 「え?」
 「俺達3大勢力は表立って見せられないけど、それなりに気心知れてると想ってた…でも前君と仁達のやりとりを見てると、本当に仲が良いんだなぁって。羨ましいよ。俺にも友人は居るけれど、お互い中々本心を明かせない。いや、それは良いんだ、楽しい交友関係は築けている。ただ、前君とこんなに仲良く出来るなんて、2人が羨ましいなって想うよ」
 笑顔の渡久山先輩に、想わず頬が赤くなった。

 こんなに晴れやかに、ふんわり笑う御方だったんだ…ほんとうに羨ましそうな、ちょっぴり拗ねたみたいなお可愛らしい表情にも目を奪われた。
 なんだか、なんだか…

 
 「渡久山先輩、綺麗です」




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