17.ゆらゆら、眠たい夜9時のこと


 ああ〜…と想わず出たため息が、ゆうるり首を巡らしていた扇風機に当たって、宇宙人の声になった。
 ふふ…癒される〜…
 「湯上がりに頂くハーブシャーベットって、何て至福なんでしょうねぇ…このハチミツが泣かせますねぇ…」
 「「ねぇ…」」
 ただ今の時刻をお知らせ致します。
 現在夜9時、一成邸のリビングにおいて、小洒落たソファーに3人横並びの体育座り、帰宅後すぐ仕込んでおいたお手製シャーベットをシャリシャリしながら、扇風機で火照りを冷ましているところです。

 ミントとレモンとほんのりカモミールな、ハーブティーちっくシャーベット、お口を通してリラックスアロマな感覚が全身に広がります。
 はぁ…夏場だったらもっとたっぷり作るんだけど、まだ春の終わりなので、スプーンで10口程のミニカップで作った、このミニミニが何とも堪りませんなぁ。
 何でも足りないぐらいが1番ちょうど良いんだよねぇ…
 身体を冷やし過ぎてはいけないので、ちょっと涼んだら、あったかいほうじ茶ラテがスタンバイOK。
 安眠コースだねぇ。
 ぐっすり眠れること、間違いなしだねぇ。
 (既にもう瞼が重い俺ですけれども)


 うん、だって、明日も頑張らなくっちゃね。
 しっかり眠って、明日も、頑張らなくっちゃ。


 「幸せ〜…は良いんだけどさ〜はるる、マジでちょっと元気なくない〜?マジ大丈夫〜?」
 ドキ。
 「んー眠たいのかも知らんが、何っか空元気ってカンジなんだよな〜やっぱ昼の弁当シフトで何かあったんじゃね?」
 ビクリ。
 このタイミングで2人共、一体どういう勘の良さ?
 ああ、そうか。
 そうじゃなきゃ、大所帯の武士道を2人で纏めたり、3大勢力さんの一角を担ったりはしないよね。
 2人の鋭さは優しさだけじゃない、ちゃんと実のある力なんだ。

 「んん〜?何のこと〜?今日も充実してたから疲れてるだけだよ〜すっごく眠たいし〜…昨日の授業遅れの分、取り戻すのに必死だったし…うぅ…」
 「「あ、あぁ…まぁね…」」
 途端に今日の放課後、一緒に戻って来てから、結構な時間を勉強タイムに費やしたのを想い出したのだろう、オロオロと左右から腕が伸びて来て、労るように頭や肩を撫でられた。
 仁と一成のよく見てくれている優しさ、上に立つ人としての鋭さには、すごくすごく、すごーく感謝しているけれど。
 申し訳ないけれど誤摩化させてね。

 いつもと変わらない日常の中、今日は、いろいろなことを感じて、想った。
 それでちょっと疲れただけなんだ。
 一晩寝たら、また明日にはすぐ元気になってる。
 元気になってみせる。
 俺は、もっともっと強くなるんだ。
 この十八学園で、入学の動機は十八さんだったけれど、いろいろなことを学べる、人として成長できる機会をたくさん貰えているから。
 それはきっと、今までの俺だったら、目指す夢まで遥か遠いよってことで。
 クリアして当然のこと、ばっかりなんだろう。

 すべての道が、俺の夢へ、未来へ繋がっている。
 まったく関係ないように見える出来事、ひとつひとつが、ぜーんぶキレイに繋がっているものだから。
 頑張る。
 助けられてばかり、甘えてばかりじゃなくて、俺もすこしでも多くの笑顔を守れるように頑張る。

 「ねぇはるる〜足は〜?」
 「明日、走れるか?」
 「うん!もうすっかり全快したよ。頂いた湿布がすごく効いたから…そんなに大したことないケガだしね。いよいよ明日が新歓かぁ〜…楽しひふぁあ〜…」
 「「おぉ、おネムの時間!」」
 「僭越ながらわたくし前陽大、このままここで熟睡する自信がありますです、仁隊長ぉ、一成副隊長ぉ〜…ZZ…」
 「「おぉ、『Z』が2つ!やべー!」」
 「やばいであります〜…」

 どうやら拙者、タイムリミットのようです。
 
 「ほいじゃ、もー寝よっかぁ〜」
 「そーするべ。陽大、歩けるか?」
 「触んな、仁。今日は俺が抱っこして連れてってあげるね〜」
 「んだよ、一成!お前こそ触んな!」
 「あぁ゛?てめーは一昨日ずーっとおぶってただろうが…引っ込んでろ、食堂ファン如きが…」
 「一昨日なんて遥か昔の事なんざノーカンだっつーの。陽大はどっちがいー?こんな細マッチョより俺のが抱かれ心地お勧めよ?」
 「こんな野蛮ゴリラより、俺のがうーんと優しくソフトに抱いてあげられるよ〜?つか比べるまでもないよね〜アハハ!」
 「黙れ、酒池肉林ヤロー」
 「引っ込んでろ、喫煙で肺暗黒人間めが」

 ううん…遠くで2人が言い争う気配が…額をぶつけ合ったような音が聞こえる…こらこら〜いけませんよ〜…俺は自分で歩けます〜…
 「…ケンカは、ダメにゃ〜…むにゃむにゃ…怒っちゃうんだかにゃ〜…」
 「「にゃー…!!(まさかこれが萌え!?)」」
 も〜何をふざけてイケメンがにゃーにゃー言ってるんですか〜…2人共、ちょとばかし高身長でイケメン洒落メンタンメンだからって、にゃーにゃーにゃーにゃー…可愛いふりしたってイケメンなんですからね?!

 寝惚けながらもふざけてぽかぽか殴るフリしたら、両面から抱きしめられた、ようだった。
 「はるる、かわい〜」
 「はると、萌えぇ〜」
 目が開かないからわからないけど、前から仁が背中に腕を回してる気配、背後から一成がお腹に腕を回してる気配がして。
 ぎゅうぎゅうで、あったかくて、益々眠くなった………ところで。

 ――ディリディリディリディリ〜ガーガー――

 ゲーム(しかも昔のソフト)の中で、ついにラスボスの居城へやって来た!っていう雰囲気満載の緊張感漂う音が、ふいに流れた。
 「っち…クソが…邪魔すんな〜話は明日でいーだろっつの〜」
 「何だよ、マジで誰だよ?!今何時だと想ってやがる!一成、相手次第ではスルーしろよ」
 う?
 一成の携帯の音、だったのだろうか。
 「言われなくても〜…ってアラ、スルー出来ね〜わ、こりゃ。もっし〜?どうしたの〜珍しーじゃん、凌」
 「凌」さん…?って、まさか。
 「はいよ、こんばんは〜ガチで今寝る所なんだけど〜笑うなっつの〜俺が1番笑えるっつーの〜。だけど取り敢えず、至急の用件以外は…は?今…?ちょい待て、すぐ出る」

 なぁに?
 


 2011-07-29 23:42筆


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