15.副会長のまっ黒お腹の中身(5)


 4限終了のチャイムが鳴ると同時に、ガキ共は前陽大を迎えに飛び出して行った。
 1週間ぶりの弁当シフトか………
 たかが1週間であるのに妙に懐かしく、久し振りの様に感じる。
 今週に入ってから気の休まる時がないからか。
 件の宇宙人には何の心変わりか、一先ず美山がベッタリ付いている様だ、当面は静か(…であって欲しい、頼む)だろう。
 明日に迫った新歓さえ無事に済めば…済めば…済んだら、年間行事の中でも最大級のお祭り騒ぎ、体育祭が待っているじゃないか…!

 日和佐先輩程じゃないが、頭が痛い。
 体育祭の後は期末、夏休み、2学期明けてから俺達2年は修学旅行(学園を堂々と留守に出来るまたとないチャンスだと言うのに、全く気が晴れないのは何故だ!)、帰って来たら最大級のお祭り騒ぎパート2、学園祭…!その後はクリスマスパーティー…!そして新年会…!3年生送別会…!(全部まとめれば良いものを…年末年始のバカらしいパーティーの数々め…!)
 延々と続けられる華やかな行事の数々に、冗談じゃなく頭が痛んだ。
 「通常の十八学園」ならば、問題はない。
 行事の内容は中等部と変わらん、規模こそ盛大になるが、我々第100期生徒会や3大勢力の力をもってすれば容易い事ばかりだ。
 
 それが、あの宇宙人を交えるとどうなる事やら…

 明日の新歓はまだ良いだろう。
 問題はその後だ。
 校内新聞で面白がられるレベルでは済まなくなる、時間が経てば経つ程、ヤツの凄まじい破壊力(まさにバルサンの威力)は生徒全員に知れ渡る事となろう。
 心太達が抑えるにしても、親衛隊はどう出るか。
 ただでさえ荒れている美山の隊は、今後どう出るのか。
 そうこうしている内に、3年生役員及び関係者は、この秋にキレイサッパリ引退してしまう。
 ああ、そうだ…各役員選挙もあるじゃないか…!!

 「りっちゃあん?まぁた考え過ぎてんだろー?」

 間延びした声に、暗黒の思考回路が断ち切られた。
 顔を向けると、今日も珍しく風紀委員然とした眼鏡姿の昴が、デスクに腰掛けている。
 「………生徒会長様が未来を憂えて下さらないのでな…仕方なく俺が先々の事を考えている次第だ。何か文句あるか」
 そもそも、それだ。
 お前が能天気なばかりに、この俺が犠牲に!
 「文句は無えけど?莉人は先の事を考え過ぎなんだよ。日和佐先輩みたいに慢性偏頭痛持ちになるぞー取り敢えず目の前から1つずつ片付けて行きゃいーじゃん。ほら、早速問題がお出でなすった様だしな。っち、誉先輩と凌に負けた…!ま、ヤツらも明日には会うだろーけど」
 「1つずつ片付けたい所だが、問題が山積み過ぎてだな。大体そんなクソ呑気な事態じゃあるまいし、誰かが先々の事を見据えねば…って昴、今何つった…?」

 『ほら、早速問題がお出でなすった様だしな』?

 『っち、誉先輩と凌に負けた…!』??

 『ま、ヤツらも明日には会うだろーけど』???
 
 生徒会長専用PCのモニターに映った、階下の様子に目を剥いてから、ものの3分も経たない内に俺は、「正門の悲劇」を再び噛みしめる事となった。
 
 クソガキ共め…!!!!!
 因りにも因って諸悪の根源を此所まで連れて来るとは、実に良い度胸してやがる。
 途端に喧しくなった生徒会室に身震いしながら、ガキ共が悪の所業を忘れた頃、この借りを必ず倍返してみせると心に誓った。
 しかし、昴が居て良かった。
 宇宙人は来るなり、ワケのわからないキーキー宇宙語で何事かをまくしたて、勝手に人の手を掴んで来たものの、直に昴へ興味を移した様だった。
 良かった良かった。

 遠き遥けき彼方、宇宙から何万光年もの旅を経た襲来であっても、やはり昴が気になるのだな、うむ、そうでなければならない。
 流石は十八学園を統べる前例にない威風漂う地球人…生徒会長様だけある、お陰で助かった。
 宇宙人だけあって、昴の黒さには全く気づいていないのも良い事だ、せいぜい後で悔いるが良い、宇宙からの侵略者めが!
 キーキー声と姿は目に入れないものとして、1週間ぶりに会う、たこウィンナーとの逢瀬を楽しむ事にした。

 頭痛薬の比ではない、今や俺の心の安らぎはこのたこにのみ存在する。
 正直、重箱一杯たこ尽くしでも何ら不満はないものの、流石に副会長としてイメージ崩れ過ぎだろうと、口には出せないでいる。
 いつか、前陽大に個人的に頼む機会はあるだろうか。
 何にせよ、尊敬の念をもって前陽大へ視線を向けたら、悠と宗佑に挟まれながら笑っていて。
 笑って、ガキ共の世話を焼きつつ、横からちょっかいかけてくる双子共の相手もしつつ。
 時折、宇宙人と宇宙異文化交流中の昴を、見るともなしに見ている、憂いを帯びた瞳を見つけてしまった。

 見て、しまった。

 いつも笑顔の絶えない前陽大の、哀れな一面を。
 常ならば、昴と料理談義出来る楽しい時間が、宇宙人に因って奪われてしまった、それを責める権利等ないと、憂えた眼差しを。
 

 一瞬で、嗜虐心が溢れ出た。


 前陽大、お前はどんな風に泣く?
 気丈で明るく心優しい、まさに親元を離れて暮らす学園の生徒達の「お母さん」たる、光溢れる性質有するお前は、どんな事で絶望するんだ。
 強いお前は、どんな弱さを持っている?
 何を言ったら、お前の笑顔は消える?
 何をしたら、お前は怯えて我を失う?
 お前は何処まで責め苦に耐えられる?
 どこをどうしたら自暴自棄になり、「お母さん」の仮面は剥がれ落ちて、本能だけになるのか。

 どくりと沸き立つ血を鎮めるべく、熱いお茶を一口啜り、再びたこウィンナーと見つめ合った。
 呑気な顔だ。
 胡麻だか何だかで描かれた顔は、制作者の心根そのままに、呑気な面構えでこちらを見つめ返している。
 この呑気な顔が、俺の前でだけ、悲痛に歪みながら快楽にむせび泣き、許しを請うて膝まづいたなら――……
 明るい昼間に不健全だなと、ふと窓辺を見たら、空は見事な灰色で覆われていた。
 朝も昼も忘れ、夜だけに生きられたならば――……再び進行する迷妄に、我ながら苦笑が浮かび、たこウィンナーを一口で食べた。
 
 今日も味わい深い、「お母さん」のたこウィンナーだ。
 しかしもう1つ、もっと味わい深そうなものを見つけてしまった。
 唇に付いたケチャップを舐めながら、不条理なイベント事が続く限り、暫くこの黒い愉しみから抜けられそうにないと想った(断じて表には出さんが)。



2011-07-24 23:12筆


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