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「有り得ない…!!白馬よりゴーカじゃんっ…!!何で?!おかしいだろっ?!ただの生徒会なのにっ…!!このガッコ、マジおかしいっ!!」
九さんの分厚い眼鏡の奥は、きっと驚きでまんまるになっているのだろうな。
1歩進む度にきょろきょろと辺りを見渡され、歓声を上げていらっしゃる。
そう、言葉とは裏腹に歓声に聞こえた。
九さんはもしかして、ツンツンデレデレさんなのかも知れないなぁ。
ちっちゃい頃のひーちゃんに似てる。
合原さんにもすこし似ているかも知れない。
本音が正反対の言葉で飛び出してくるというか、恥ずかしがりやさんというか…誰より純粋で優しい心根が故というか。
どんな発言だろうと、声音や表情はごまかせられないものだ。
九さんのお言葉を注意深く聞いていると、なんだか微笑ましく感じてしまう。
いろいろなことに興味があって、アンテナをあちらこちらに向けていて、ひとつひとつに新鮮に驚きながら、一生懸命に人と触れ合おうとしている。
言葉は乱暴でも、とても素直だ。
ひーちゃんや合原さんとはまた違う、感情を素直に発露されるところ。
ちょっぴり羨ましいな、と想った。
「ここが生徒会だよぉ〜穂に気に入って貰えたら嬉しいなぁ〜」
「「ようこそ、生徒会へ」」
「らっしゃい。ませ。」
ひーちゃんが大きく開いた扉の向こうへ、九さんは光速移動!
迷いなく飛びこまれて行った。
「うっげぇ!!中もマジで有り得ない〜っ!!!!!何だよ、このキランキランの部屋っ!!こんなんじゃまともに仕事できねーだろ!!ヒサシ達、どーせ遊んでばっかなんじゃねーの?!って、リヒトっ?!お前、リヒトだろっ?!そっか…!!副会長つってたもんなっ!!何だよ〜すっげー久しぶりじゃん!!折角友達1号になったのに、カーテンの裏なんかに隠れてないで出て来いよっ!!なんだよ、オレもう怒ってないし?!そんな心狭くないし!!置いてかれたのは大変だったけどさっ、地図くれたしミキにも会えたしなっ!!許してやるからこれから仲良くしようぜっ!!」
室内では早速、日景館先輩と九さんの交流が始まっているようだ。
でも、日景館先輩のお声が聞こえない…???
「「「「…ぶくくく…」」」」
何故だかひーちゃん達は中へ入ろうとせず、まるで笑いを堪えるように、揃ってお口に右手を当てている。
「ひーちゃん?どうしたの、入らないの」
声をかけると、「「「ゥオッホン、じゃ、入ろうかな〜」」」「入ろ。かな〜。」と皆さんお澄まし顔になった。
なんだろう???
「「「ただいまー」」」
「ただいま。」
「お邪魔しまーす」
「………」
ひーちゃんたち、音成さんや美山さんに続いて、お邪魔しますと1週間ぶりの生徒会室へ入った。
中央には笑顔で無言の日景館先輩の両手を握り、ぶんぶんしている九さんの姿があった。
あれ、柾先輩はお留守なのだろうかと想っていたら、おもむろに窓際のデスクから椅子が軋む音がした。
「悠、優月、満月、宗佑。誰が部外者まで連れて来いっつった。何だ、こちらのお客樣方は?」
…最初からいらっしゃったらしい。
いらっしゃったらしい…しかし、眼鏡は柾先輩の不機嫌を現すバロメーターなのだろうか、初めての朝礼時を想い出させる眼鏡姿と、ひどく硬い声にヒヤっとなった。
「だってぇ〜穂は俺の大事な友達だもん〜はるちゃん迎えに行ったら、穂も居たから連れて来ちゃったぁ〜!他2名は俺も予想外だったけどぉ〜いーじゃん、ゴハンは大人数が楽しいって、はるちゃんもいっつも言ってるもぉん〜ねぇ〜?はるちゃぁん〜」
べったり引っついて来るひーちゃんに、ひくりと頬が引き攣った。
俺を盾にする気ですか、ひーちゃんめ!
けれど、柾先輩の視線がこちらを向くより早く、先輩が腰かけていらっしゃるデスクの前へ光速移動なさった、九さんのほうが早かった。
「オレを無視するなよっ!!お前がもしかして生徒会長なのかっ?!そうなんだな?!1番偉っそうだしな!!ここも白馬と同じで、だ、抱かれたいランキングとかで役員決まってんだろっ?!オレ、知ってるんだいろいろ!!大丈夫、お前の苦労はオレがよくわかってる!!
大変だよなっ、男なんかに色目使われても困るよなっ!!変に担ぎ上げられてさっ、親衛隊はイカレてるし、仕事仕事でまともに友達作るヒマもなくてさ…そんなんだからひねくれちまうのってよくわかるよ、オレっ!!でもそんなんじゃダメだ!!そういう心の溝って、セ、セフレとかじゃ埋まらないんだからなっ!!
オレが来たからにはもう大丈夫っ!!オレが側に居てやるし、絶対に裏切らないから!!だからオレに心開くの、怖がらなくて良いんだぞ!!オレは他のヤツらとは違うから!!お前の事ちゃんとわかってるし、オレは強いから!!こう見えてケンカは誰にも負けねー!!ちょっとしたツテもあるし…オレの心配なんかしなくて良いからな!!安心して良い!!オレだけは本当のお前を見てやるから…!!
友達になったところでさ、なぁなぁ、お前の名前何てーのっ?!さっさと教えてくれよっ!!オレは昨日、白馬から来たばっかの九穂だ!!十八さんとは血縁関係なんだっ!!」
キ―――ンンン………
み、耳が……
この感覚はデジャブ…ではなくって、昨日の再現?
扉でおでこをぶつけた時みたいに、なぜだか目から星が飛び出そうな気がした。
息を弾ませながら、デスクに身を乗り出している九さん以外、身動きする御方は他にいらっしゃらない。
視線を彷徨わせたら、さすがアイドルの皆さまというか、ひーちゃん達はもちろんのこと、音成さんまでも慣れたご様子で耳に指で栓をしておられた。
幼少時から度重なるアイドルさまコンサートで、もう自然に身についた習慣というやつなのだろうか。
耳栓しておられないのは、向かい合っておられる柾先輩と、美山さんだけだ。
美山さんは教室からずっと、一言も発しておられず、ただただ周囲を睨み続けておられる。
その対象は今や柾先輩だけに絞られていた。
胸騒ぎが、する。
「な、なんだよっ…そんな見つめんなって…!!なんとか言えよ、なっ…!」
暫くの沈黙を破って、九さんがもじもじと動かれた。
視線は柾先輩に向けられたままだ。
柾先輩は、そんな九さんをじっと静かに、眼鏡で緩和されているものの、あの強い眼差しで見つめておられる。
九さんのお顔がどんどん赤くなっていく。
耳まで赤くなっていく、けれど柾先輩は視線を外さず、何も言わない。
胸騒ぎが、止まない。
なんでこんなに、いろんなことに不安を感じるのだろう…?
「も、もうっ…!そんな見つめんなってば…!!し、失礼だぞっ?!は、恥ずかし、じゃん…」
遂に九さんが顔を背け、ぽそぽそと呟かれた。
柾先輩は、それでも九さんをじっと見つめたまま。
「………面白ぇ………」
ゾッとした。
背筋が凍りつくかと想う程、それは低い低い呟きと、絶対的王者の緩やかな微笑…それが恐ろしかったのは、瞳も口調も一切笑っていなかったからだ。
冷め切った瞳。
短い人生だけれど、今までどんな老若男女さんでも見たことのない、異常なまでに冷たい眼差し。
そして、こんな時に益々冴え渡る、整ったお顔立ち。
室内が瞬時で冷えて。
瞬時に復活した。
次の瞬間にはもう、柾先輩はさっきまでの空気を身に纏っていたから。
誰もが唖然としている中、九さんは「えっ?!何か言ったか?!」とお顔を赤らめたまま、先輩に近づいている。
「お察しの通り、生徒会長の柾昴だ。十八学園へようこそ」
にっこり笑う柾先輩がほんとうに底知れなくて、よくわからなくて、俺はぼんやりしているしかなかった。
2011-07-21 22:42筆[ 350/761 ][*prev] [next#]
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