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 何がどうしてこうなった。

 俺の今の心境です。
 特別な問題はない筈だ、たぶん。
 皆さん、明るくて気さくな方ばかり、入学したての俺などに親切に接してくださっている。
 それなのに何故だろう、この気まずさと背筋を走る冷たさは。
 身が縮まる想いで、お弁当をぎゅうっと抱えて歩き続けるしかなかった。
 願うはひとつ、一刻も早い目的地への到着。 
 はい。

 俺は今、迎えに来てくれたひーちゃんたちアイドル御一行さまと、九さんと美山さんと音成さん、皆さまに前後左右挟まれる形で、生徒会室へ向かっております。
 ひーちゃんと九さんが知り合いで、仲よしさんで盛り上がった後、こうなりました。 

 「前、それ重いんじゃね?足の負担になるだろ。持とうかー?」
 うう、素敵な皆さまの中でも一際輝く爽やか笑顔の持ち主、寧ろ神さまがここにおられます!
 「お気遣いありがとうございます、音成さん。でも、大丈夫ですのでご心配なく」
 「そっかー?無理すんなよ」
 「はいーありがとうございますー」
 爽やかすぎる笑顔につられて、ようやく何とか笑えた直後、光速移動が可能な九さんが音成さんとチェンジ。
 目にも止まらぬ早業に、俺は目を白黒させるばかりです。

 「なーなー!!はるとが昨日サボったのってケガした所為なのかっ?!足?!でもフツーに歩いてたよなっ今日1日!!俺見てたんだけどさぁ!!ダメなんだぞっ、男なんだからちょっとぐらいの事でへこたれてたら!!オレなんかしょっちゅうケンカとか、絡まれるけど倍返しするし、超ヤバいケガしても平気だぜっ!!はるとももっと鍛えないと!!それに、それぐらいで授業サボってちゃダメだ!!」
 おお、九さんは勇ましい男の子さんなんだなぁ。
 元気いっぱいだし、中身も男前さんだ。
 俺も見習わなくっちゃ。

 「はい、仰る通りです。どうも鈍臭くって…お恥ずかしい限りです〜これから気をつけますね。授業に出なかったのも痛かったですし…」
 ほんとう、トホホのホです。
 今日は帰宅次第、クラスの皆さんが取ってくださっていたノート片手に、仁と一成にみっちり付き合ってもらおう…遅れを取り戻さなくっちゃ。
 折角中間テストが終わったのに、また勉強漬けかぁ…トホホー。
 ぼんやり遠い目になっていたら、前を歩いているひーちゃんがふいに振り返った。

 「そーいやはるちゃん?こーちゃんに聞いたんだけどぉ〜『どっかの親衛隊に嫌がらせされたみたいだ』ってぇ〜どういう事ぉ〜?どこの親衛隊〜?生徒会としても、親衛隊持ちの俺らとしても気になるしぃ〜今後の為に聞かせてよぉ〜どんなヤツらだった?」

 瞬間で胃が縮まって、お弁当の包みを強く抱え直した。

 どう言ったら正解なんだろう、いきなり核心に触れられ頭はまっ白、なんにも想い浮かばない。
 一刻も早く忘れたい、ずっとリプレイし続けている、あの時のショックが甦ってきそうで、震えそうになって更に包みを抱えた。
 今この場で、何も言えない。
 九さんの後ろには、美山さんがいらっしゃるのに…
 「「ゆーもみーも聞きたいな〜、気になるな〜」」
 「はると、心配…とても。聞きたい」
 アイドルさま方、音成さんがいらっしゃるここで、俺が何を話せるものか。

 途方に暮れた、ふと、温かかった闇の中を想い出した。

 「そんな大したことじゃないんだよ、ひーちゃん。たまたま階段を下りた所でぶつかっただけだから…そのお相手さまがどなたさまかの親衛隊さん方だったってだけで、俺の不注意だし。すぐ仁と一成が来てくれたから、足ももう大丈夫。だから心配しないで。気にしてくれてありがとうね」
 すらすらと流れた言葉たちは、真実だけで構成されていないけれど。
 「………ふーん…はるちゃんが大丈夫ならいーけどぉ〜」
 ひーちゃんは幼馴染みだけあって、勘が鋭い。
 どこか不審に想っていそうながら、引いてくれた。
 ほっとした感情のままに微笑った。
 
 「親衛隊…?!大丈夫なのか、はると!!親衛隊は質が悪いって決まってるからなっ、気をつけるんだぞっ!!それにしても、階段下りてぶつかるって、はるとマジで鈍臭いんだなっ?!そんなんで大丈夫か?!男なんだからさっ、もっとちゃんと鍛えないとっ!!十八のアイドルなんだったら尚更だ、しっかりしないとやってけないぞっ!!何か弱っちそうだもんなー、はると…そんなだからナメられんだ!!そんでサボってるから悪循環なんだ!!オレみたいに強くならないと!!オレなんか、」
 心配でいっぱいといった、切迫したご様子の九さんに、「はい」と神妙に頷きながら耳を傾けていたら、音成さんが九さんの肩にぽんっと触れた。

 「はいはい、穂〜ストーップ!ケガして日が浅い、ダメージ受けてる本人にそんなポンポン言うもんじゃねーよ?前は十分しっかりしてるし、ちゃんと頑張ってる。たまには失敗だってするさ、人間だからな。それにケガしたんだから、サボったんじゃねーだろ。前だって好きで早退したワケじゃねーんだ。心配なら『心配だ』って一言で伝わるっつーの」
 音成さんって、大人だぁ。
 なんだか胸に染み入るお言葉の数々に、じんわり感動です。

 「え、う、あ…で、でもっ!!オレはっ……つか、ダイスケ、はるとに甘いんじゃねーの?!」
 「九さん、あの…ご心配おかけしてほんとうにすみません。お気遣いありがとうございます、うれしいです」
 「…まぁなっ!!はるととオレは親友だしなっ!!親友の心配すんのは当たり前だろっ?!これからも何かあったらオレに言えよな!!いつでも助けるしっ、オレがはるとを鍛えてやるよ!!」
 え………しん、ゆう……?
 深憂?真勇?新湯…???

 言葉の意味を計りかね、ぽかーんとしている内に、生徒会棟にたどり着いたようだった。
 「げっ、すっげ〜!!!!!マジで金の無駄遣い〜!!」 
 途端に光速移動で建物前に走り出た九さん。
 きっと、俺の聞き間違いだろうと想いながら、後へ続いた。



 2011-07-20 23:34筆


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