10.何かが勝手に動き出す


 『件名/捻挫もどきの具合はどうだ(′・ω・`)

 連絡すんの忘れてた。
 悪い。

 陽大に不都合がねえなら、弁当シフトはそのまま継続する。
 今日の昼、悠達を迎えに寄越すから。
 
 そういや昨日、悠達に見られてたらしい。
 お前がどっかの親衛隊に嫌がらせされた直後、たまたま会ったって事にしてる。
 話合わせといてくれ。

 いろいろ悪いな。
 今度何か埋め合わせする。

 昴**(=皿=)**』


 3限目の終了時、メールを受信した。
 サブディスプレイに表示された、『from:成長期取り憑かれ笑い上戸病さん』に想いっきり首を傾げながらメールを開き、最後まで読んで漸く合点が行った。
 件の会合の折り、恐れながら3大勢力の皆さんとメールアドレスを交換させて頂いたのだっけ…
 その際、「柾先輩」とか「生徒会長さま」っていう登録だったら、なんだか落ち着かないというか、うっかり公衆の面前でサブディスプレイを見られた場合によろしくないだろうと想って、こっそりお名前を変えておいたのだった(ちなみに、武士道以外の他の皆さんも変えてある)。

 自分で設定しておきながら、気づかない筈だ。
 これが先輩からの初めてメールだから。
 ふん…
 なんですか、いっちょまえに顔文字使用ですか。
 男前の顔文字使用…っく、これが世間一般さんが言うところの、ギャップ萌え?ですか。
 別になんら萌ゆるところはございませんがね、ええ、別に口惜しくないですから。
 しかし、基本的に手短に用件を済ませるタイプのようですね、文脈が必要最低限に抑えられている。

 というか、捻挫もどきって!
 もどきって、失礼な!
 俺はピチピチの15才なんで、一晩寝たらいつでも元気いっぱいなんですよーだ。
 お弁当シフトはそのまま継続、か…ふっふん、俺の読みは正しかった!
 用意したおにぎり弁当が無駄にならなくて済みましたよ。
 よかったよかった。
 なんてお返事するべきか、必要最低限の文脈を考案している内に、4限が終わった。

 「お母さん、今日はどうするの?」
 「お弁当シフトー?」
 周囲のクラスメイトさんにお声をかけられて、はいと頷きつつ、廊下の騒がしい気配に気づいた。
 気の所為じゃなく、騒がしい気配はどんどん近づいて来ている。
 『今日の昼、悠達を迎えに寄越すから』っていうことでしたっけね。
 あちこちで上がる歓声に、間違いなくひーちゃんたちだなぁと想い、生徒会室へ向かうべく立ち上がった。
 ええと、ロッカーからお弁当を取り出して、ハンカチ、ハナ紙はばっちりポケットに入ってるっと。
 携帯電話とカードもばっちり、5限は教室のままだから、早目に戻ってくれば大丈夫。

 指差し確認をしている内に、ついにひーちゃんがやって来た。
 おお、予想通り、七々原優月さんと満月さん、無門さんもご一緒の、そうそうたるメンバーだ。
 途端に教室内が華やかに光り輝いている。
 「は〜るちゃん!迎えに来たよぉ〜行こぉ〜!」
 「前陽大と右手、繋ぐ」
 「前陽大と左手、繋ぐ」
 「はると、行こ。お腹、空いた。」
 「はい。皆さん、わざわざすみません。迎えに来てくださってありがとうございます」
 「「「「「お母さん、いってらっしゃい!」」」」」

 いってきます、と。
 クラスの皆さんへ、言葉は続けられなかった。

 「あ――――――――!!!!!」
  
 唐突に響いたお声に、恥ずかしながらびくっとなって、抱えたお弁当を取り落としそうになり慌てた。
 な、なにごと?!
 振り返る間もなく、教室後方から俺の真横を、光速でなんらかの物体Xがすり抜けた。
 あまりのスピードと勢いに巻き込まれ、その場で一瞬、ぐるぐると身体が回転してしまった。
 あわわ…ああ、でもお弁当は無事です。
 お弁当だけは守ってみせます。
 ぐるぐる回る目で、なんとか前方を追ったら、一気に目が覚めた。

 「ひさしっ!!そーすけっ!!どうしたんだよー!!オレに会いに来てくれたんだっ?!」
 
 光速移動した物体Xは、なんと九さんだったらしい。
 九さんは光速移動できるんだ…!
 すごいなぁ…!!
 ものすごく運動神経がいいというか、発達なさっておられるというか…ほんとうに元気で活発な御方なんだなぁ。
 光速移動できるということは、まさか、フュージョンとかも可能なのだろうか。
 ほわ〜っとなって、はっと我に返った。
 フュージョン如何はともかく、九さんは現在、ひーちゃんと無門さんに抱き着いておられる。
 昨日の内にお知り合いになったのだろうか、以前からご存知なのだろうか。

 成り行きを見守っていた俺の目に、更にびっくり展開が見えた。
 「穂…!!そっかぁ〜穂はA組だったよねぇ〜会いたかったぁ〜…!!」
 なんとなんと、ひーちゃんがぎゅうっと九さんを抱きしめたじゃありませんか!
 あの子、いつの間にそんな、まるで絵本の中の王子さまのような仕草ができるようになったのですか。
 十八学園で王子さまスキルを身につけたのでしょうか。
 そういったカリキュラムがあったような、なかったような???
 いずれにせよ、ひーちゃんも確実に大人の階段を上っているんだねぇ…嬉しいような、寂しいような…

 「「「「「きゃああっ、天谷様っ…!!」」」」」
 その時、教室内からも廊下からも、悲鳴のような声が聞こえて、ほんとうに我に返った。
 もしかしなくてもこの事態、非常によろしくないということではないでしょうか。
 「ひさし…ちょ、やめろよー!!そんなぎゅうっとするなって…!!人前で恥ずかしいじゃん!!」
 ひーちゃんの腕の中で、もじもじと身動きが取れないご様子の九さん。
 そして、冷ややかな空気を纏って、そちらへ近づいて行く美山さん。
 おろおろとひーちゃんに視線を戻して、今度はぎくりとなった。

 あの子、今一瞬…嘲笑った…?



 2011-07-19 23:39筆


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