6.大丈夫


 覚悟して、学校に行った。
 仁と一成に見せて貰った、昨日のお昼休みに発行された校内新聞には、九(いちじく)さんをメインに、宮成先輩と俺の接触についての記事もあったから…
 俺はまた、学校内を騒がせてしまっている。
 美山さんの親衛隊さんのように、不特定多数の生徒さんの感情を波立たせている。
 その事実は、肩に重くのしかかった。
 初めての食堂の時は、不穏なお声があちらこちらから聞こえた。
 お弁当シフトが決まった時は奇跡だったのだろう、見ず知らずの生徒さんから応援のお声を頂けた。
 今度は…?
 
 1晩湿布を貼って寝たらすっかりよくなった足が、心なしかずきりと痛んだ。

 左右を挟んでくれている仁と一成は、気にしたら損だ負けだって、毅然と顔を上げて歩いている。
 俺もそう在りたいと想う。
 そう見えているといいなって、想う。
 一成が持ってくれている、生徒会さん用にこしらえたお弁当の包みに、吸い寄せられるように目が行った。
 今日は、無事に渡せるだろうか。
 いや、渡せる渡せないじゃない、将来の夢にとって願ってもないお弁当シフトの提案だったけれど、もう辞退するべきではないのか。
 3大勢力さんの大変な任務を知ってしまった、もちろん口外するつもりは毛頭ないけれど、どうしたらいい?

 俺のことはどうとでもなる、九さんはお元気だろうか。
 3限目以降からお会いしていない。
 転校早々、クラスに馴染もうと努力なさっておられたのに、俺が口を挟んだばかりに騒ぎになってしまった…
 人気のある生徒さんたちと、たまたま遭遇なさっただけなのだろう、記事になってどんな想いをされていることか。
 元気いっぱいな御方だっただけに、落ちこんだり不安でいるのじゃないだろうか。
 美山さんが、ずっと一緒にいらっしゃるみたいだけれど。
 ああ、そうか…だから、美山さんは九さんと一緒にいるって、守るって仰っておられたんだ。
 それなら心強い、きっと大丈夫。
 ひーちゃんも会ったみたいだし…あの子、ふわふわしているけれど友だち想いのいい子だから。

 いろいろなことを考えていると、胸の辺りまで痛むというか、ソワソワ落ち着かない心持ちになった。
 学校へ行くのに、こんなに緊張した朝は、初めてかも知れない。
 ――この先、何度かこの緊張の朝を更新し続けることを、今の俺はまったく想像だにしていなかった。

 「はるる〜眉間がシワシワ〜」
 「シリアスなはるともイケてるけどな〜」
 2人が気遣ってくれる、さり気ない会話も上の空のまま、いつしか俺のクラスに近づいていた。
 考えごとでいっぱいいっぱいだったせいか、2人が側にいてくれたからだろうか、ここへ至るまでにどんなお声も耳に入って来なかった。
 よかった………
 「ご、ごめんね、仁、一成…遠回りなのに、送ってくれてありがとう」
 詰まりながらなんとか言ったお礼の言葉に、返って来たのは苦笑と温かい手の感触。
 仁の手は頭に、一成の手は背中に。

 「そんな水くせぇ事言うなよ、はると!俺らが望んでやってる事なんだからさ!」
 「そうそ〜はるる、はるるの1番のチャームポイントは笑顔だよ〜?笑って笑って!」
 気さくな2人に、自然と頬が綻ぶ。
 いつだって俺は、武士道の明るさに助けられている。
 「うん…ほんとうにありがとう!」
 「「どういたしまして!こちらこそ、美味い朝メシありがとうございました」」
 ぺこりぺこりとお辞儀し合って、ちいさく笑い合った。

 「は〜名残惜しいけど、そろそろこの辺で…転校生と顔合わせたくねーからさ〜悪ぃな、はると。けど、マジで何かあったらすぐ連絡くれな!放課後、ぜってー迎えに来るし待っててな!」
 「心配だけど〜俺ら代表で『いつでも武士道の心ははるるの側に』、だからね〜!宇宙人と美山には気を付けて〜ケガも大分良くなったみたいだけど、安静にしててよ〜」
 「うん!」
 お弁当の包みを受け取って、手を振って別れた。
 何度も振り返ってくれる2人に、歩き出しながら手を振って、きりっと顔を上げた。
 お腹に力を入れて。
 大切な人たちの、笑顔を想い浮かべて。
 (大丈夫、大丈夫…絶対大丈夫!!)


 『大丈夫』


 さも何でもできそうな手が、俺の頭に触れた。
 大きくて広い背中が、すぐ目の前にあった。
 これ程重みのある、強い「大丈夫」は聞いたことがないって。
 心の底から、なにやらパワーが出てくるような。
 引きずられて、元気になるような。
 誰かと一緒にいて、バカ笑いじゃなく普通に笑ってる姿が何より似合う、ような………
 
 いいや、だって俺はちゃんと朝ごはんを食べた。
 昨日もしっかり眠った。
 仁と一成がいてくれる、武士道の皆も心配のメールをくれた。
 それぞれの場所で頑張っている、秀平たちもいる。
 だから、大丈夫。
 俺も、頑張るんだ。
 強くなるんだ、誰の感情も変に揺らすことのないように、男らしく強くなる。

 1年A組のプレートを見上げて、ぎゅっと唇を引き結び、扉へ手をかけた。



 2011-07-15 23:59筆


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