4.化粧オバケ・心太の本音(2)


 我々の朝は、大量の白バラと紅バラに包まれて始まる。
 中等部の頃から変わらない習慣だ。
 毎朝欠かさず送り届けられる、華やかなバラの花束。
 日々の激務に耐え、愛と忠誠を惜しまない親衛隊統括隊長と副隊長に対して、感謝の印と…美しい者に対する賛辞として、美しいものに囲まれた優雅な朝で1日を始められる様に…
 何とも艶やかな理由を添えられて、バラは今日も室内を埋め尽くしていた。

 
 バカか。


 正直、うんざりだ。

 真の3大勢力を知らない、他の親衛隊員はこの僥倖を大変羨ましがる。
 「あの2人」から特別に目を掛けられる事が許された、幸福な統括隊長と副隊長は、全親衛隊員の憧れの立場として毎年争いが絶えない。
 あんな化粧オバケ共さえ愛でて貰えるならば、自分だって愛して貰えるだろうと。
 はっ…!
 お笑い種だ。
 他人を蹴落とす程羨ましいと言うなら、いつでも変わってやるってーの。

 誰が好き好んでアイツの幼馴染みなんかに生まれるかっつの!
 地道で堅実な学生生活を心の奥底から望んでいた俺を、こんなクソ厄介な表舞台へ引きずり上げてくれちゃった、あんな悪魔の本性、俺だって知りたくなかったっつの!

 金の無駄も甚だしい、世界で1番無意味でろくでもない贈り物だろう。
 素顔も素性も平凡な我々へ、当てつけの如く大仰で派手な演出。
 下らない…昴と莉人の尽きない遊び心に、何度カルシウム不足に陥らされた事か…
 俺がキレるとわかっていて敢えて行動してみせる、お前らはいつまでガキなんだっつの。
 いちいち相手にしていたらキリがない。
 だから放置している。
 放置したままだから、延々とバラは送り届けられ続ける。
 一方的に疲れるループは、けれど実は役に立っている。


 生徒会長と副会長は、親衛隊を蔑ろにしていない。


 親衛隊の存在を認可し、配下に置いて管理している。
 バラはその象徴、この道化た贈り物が止まった時は、親衛隊が2人に見捨てられた事を意味するのだと。
 実にバカバカしいが、お陰で各方面に多少の無理をゴリ押せる様になった。
 我々が暗躍する際には、良い潤滑油になっている。
 そして、手に余る大量のバラは、親衛隊として良き行動をした隊員へ進呈している。
 それは我々を介して、生徒会長や副会長から与えられた寵愛と等しき名誉の証。
 だから、貰った生徒は非常に歓喜する。
 親衛隊所属中に何回バラを与えられるか、競争になっていたりもする。

 こうして今では巧く出来たシステム化しているが、発端はヤツらのふざけた企みなのだから、俺は複雑だ。




[ 342/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -