3.元気チャージの基本
卵を割り入れると、たちまち小気味良く上がった、温まったフライパンからじゅうっという香ばしい音。
1人1個分の卵で、黄身がミディアムレア…つまり半熟のちょっと硬め…になるように目玉焼きを焼く。
卵が新鮮だから、それは見事にぷっくりと膨らんだ、白とオレンジのコントラストが眩しい目玉焼きができあがった。
続いて、余分な油を拭き取って、ベーコンを両面カリッカリに焼く。
焼いている間に、ぐらぐら沸いたお湯でざっと切ったキャベツを軽く茹でてザルに揚げる。
玉ねぎはうすーくうすーく透けるぐらいにスライスして、レタスは大きくちぎって、それぞれ水にさらしておく。
おっと、ベーコンが焼けたぞぅ!
キッチンペーパーで油分を適度に吸い取っておこう。
その間に、茹でたてのキャベツに、オリーブオイルとアンチョビと酢を混ぜこんで、簡単付け合わせの出来上がり。
辛しバターは用意したし…よし、トーストも焼けた!
さあ、ここからは一刻を争う戦いです。
玉ねぎとレタスは水から揚げておく。
きゅうりとアボカド、トマトをスライスして、アボカドにはレモンをしっかり絞って種を上に置いておく。
ホカホカのトースト3枚に、手早く辛しバターをぬってまな板に並べ、水気を切ったレタスを置く。
スライスしたばかりのトマト、きゅうり、ベーコン、オニオンスライスをちゃっちゃと重ね、塩少々、粗挽きペッパーごりごり。
その上に目玉焼きをかぶせ、マヨネーズとケチャップの最強コンビW線書き!
更にレタスをおいて、また辛しバターを塗ったトーストを被せる。
それを一息にズバっ!斜め半分にカット。
躊躇いは禁物、ぐずぐずしている間においしさが逃げて行ってしまう、具材がどんどん劣化してしまう。
上からぎゅうっと押さえるつけるのもダメ、体温でべたっとしてしまう。
力を入れすぎないけれど、しっかりと押さえて手早くしっかりと刃を入れる、というかんじ。
思い切りよく!がサンドウィッチの決め手です。
「できたよー」
「「はぁい!」」
サンドウィッチは、作った端からテキパキと食べるのがいい。
サンドウィッチ自体もそうだけど、テーブルや飲み物まで、前準備をしっかりしてから素早く作って、素早く食べるのが、いちばんおいしいと想うんだ。
「「「いただきます!」」」
あらかじめ仁と一成が用意してくれていた、搾りたてのグレープフルーツジュースと、あったかいカフェオレと一緒に、今朝は陽大流・トーストサンドウィッチの朝ごはん。
たまに無性に食べたくなるんだよねぇ、作り立てのサンドウィッチって。
春はお花見で和食のお弁当にしたから、今度はピクニック形式もいいな。
久しぶりにベーグルも作ってみたいかも!
後で2人に提案してみよう。
なにはともあれ、今はサンドウィッチに集中集中!
うーむむむ…
目玉焼きって単品でもおいしいけれど、こう…他の具材と黄身が混ざっちゃうのって何て素敵なんでしょう…
そして白身は白身で、他の強さを抑えて中和するっていうか、この淡白さが必要不可欠なクッション材っていうか…
このケチャップとマヨネーズとか…!
ケチャマヨの組み合わせを閃いちゃった御方には、生涯頭が上がりませんなぁ…
3人揃って無言で、もくもくと食べてしまった。
気心知れているからこそ、沈黙も辛くない。
垂れてくるソースを舐め舐め、時々キャベツサラダで口休めしつつ、お皿3枚、きれいに空っぽになった。
一成の入れてくれたカフェオレ、紙ドリップのインスタントものらしいけど、とってもおいしいなあ。
洒落たマグカップを両手で抱えながら、うっとりと朝ごはんの余韻に浸っていたら。
「はー…美味ヤバかった〜ごちそうさまでした」
「やっぱりはるるのトーストサンドは最高〜ごちそうさまでした〜」
「はい、ごちそうさまでした。2人共、きれいに食べてくれてありがとう」
「「いえいえ!!こちらこそ」」
おいしいものを食べた後って、どうしても人の頬は緩んで線目になるねぇ…こんなお洒落イケメンズでもね…こんなに背が高くてもね…ふふ…ふふふ…
「つーかはると、弁当作ったんだな」
「今日は木曜だっけ〜生徒会、か〜…」
ちらっ、ちらっと、お洒落イケメンズ(いっそ武士道から改名したらいい!)の視線が、サイドテーブルに置かせてもらっている包みへ向けられた。
「うん…一応、ね。休止になるかなと想ったんだけれど、連絡ないし…一緒に食べるかどうかは別にして、渡すだけでもって。昨日、会長さまにはお世話になったし…」
「「んなの気にする事ねーのに。昴なんか…昴なんか…」」
ブツブツ呟いているふてくされた顔の2人に、苦笑がこぼれた。
「そんなふうに言わないのー!あ、昨日、武士道がダメになっちゃった分、簡単に用意したからね」
「「え!!これは、伝説の竹皮おにぎりセット…!!」」
「ちゃんと人数分あるから、仲良く食べなさいよー」
「「すげー!!開けても良い…?」」
「ダーメ。お昼のお楽しみ!」
「「はぁい!((ウィンクになってないウィンク…可愛い…))」」
今は、俺にできることをするしかない。
心をこめて、ごはんを作ること。
お腹を満たしてエネルギーに代えて、顔を上げて学校に行くこと。
きちんと素直に人の話に耳を傾け、礼儀とけじめを忘れず、慎ましく過ごすこと。
正直、心は混乱したままだ。
料理はかりそめの休息、一時滞在の楽園で、でもちゃんと癒された。
だから、現実を見なければならない。
(美山さん………)
それはひどく、心が痛むことだけれど。
「取り敢えず〜はるるは無理しない事〜!い〜い?ちゃんとわかってる〜?」
「何かあったら即!俺らを呼ぶ事!当面はず〜っと一緒の共同生活だしな」
「当面どころか、延々と一緒で良いけどね〜仁は要らないけど〜」
「お前こそ要らねーっつーの。部屋だけ提供してろっつーの」
「あ?ふざけんなよ、ゴラ」
「俺はいつもマジメだっつの、ゴラ」
「何だとゴラ」
「ヤんのかゴラ」
額を突き合わせる、いつもと同じ空気を作ってくれる2人を、俺はべりっと引き離した。
「はいはい!朝からケンカしない!!俺ならだいじょうぶだから…仁と一成、武士道の皆もいてくれるから、大丈夫!」
大丈夫。
笑えるもの。
ちゃんと、自分の足で立っている。
2011--07-11 23:02筆[ 341/761 ][*prev] [next#]
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