2.分かたれた道
「…やっぱり…気が進まないな…」
「だーいじょうぶだって!言ってる間に急ごうぜ〜」
「そうそ〜悪い事してるワケじゃないんだしさ〜」
「うー………」
「「取り敢えず行こ〜ぜ〜」」
廊下の途中で立ち止まった俺の足は、左右からゆるりと手を引っぱられたことで、自然に動き始めた。
だけど、自分の行動に疑問が尽きないと言うか、後ろめたいと言うか…
こんな気詰まりな朝は、やだ、な。
全部、俺が招いたことだけれど。
「地上は雨らし〜よ〜十八山も直に雨降るかもね〜」
「どーせ降るなら明日降りゃ〜良いのにな〜」
「あっは、仁、雨天順延なだけだから〜絶対決行が原則だし〜」
「ハハハ〜…そうだったな…ダリィわ〜」
俺が招いたことなのに、仁と一成に付き添ってもらって、2人を道連れにするのは男としてどうなんだろう。
俺は弱いけれど、ちょっと弱すぎじゃないだろうか。
単に自室に寄って、勉強道具や着替えを取りに行くだけなのに。
それだけのことが、こんなにも後ろめたい。
そもそも、俺に割り当てて頂いた部屋を留守にして、特別寮に出入りしていること。
同室の美山さんと、昨日あれっきり、まともにお話しないまま、勝手な行動を取っていること。
それも人目を避けるように、美山さんが寝ているであろう時間を見計らって、こそこそして。
全部がおかしい。
俺はおかしな行動ばかり取っている。
悶々としている内に、寝静まった寮内、自室の前へたどり着いてしまった。
「ちゃっちゃと取って戻ろうぜ〜腹減った〜」
「はるる、カード忘れた〜ってオチは無しね〜」
「仁、一成…俺、やっぱり美山さんが起きてから、ちゃんとお話したい」
そう言った途端、リラックスモードだった2人の目の色が変わった。
「はると…はるとの気持ちはわからんでもないけどなぁ…はるとの性格上、今罪悪感でいっぱいなんだろ?けど、そりゃ無理があり過ぎるだろー」
「美山がフツーの状態なら、はるるの望み通りにさせてあげたいけどね〜ヤツは宇宙人に取り憑かれて正気失ってるから〜話になんないと想うけど〜?」
「でも、」
心配そうに眉を顰める2人に、それでも会って話がしたいと言いかけた時、背後の扉が前触れなく開いた。
え?と振り返ったら。
「美山さん………」
扉から出て来られたのは、この部屋の主である美山さんだった。
美山さんがここを出入りするのは当たり前のことなのに、俺は、ものすごく驚いてしまった。
まだ日が昇ったばかりなのに、すっかり身支度を整え、すっきりしたお顔だ。
しばらく呆然としてしまったけれど、このタイミングを逃す手はない!と、意を決して言葉を紡いだ。
「お、おはようございます、美山さん…なんだかご無沙汰しております。あの、昨日は、」
一先ず、昨日の騒動を謝罪しようとした。
けれど無表情に、俺と俺のすぐ後ろの仁と一成を見比べていた、美山さんのほうが早かった。
「丁度良かった」
ちょうど良かった?
「俺はこの先ずっと、穂と一緒に居る。部屋も空ける…すぐに部屋替え申請出すつもりだ。穂は1人部屋だからな。俺はこれからはずっと穂を守る」
え…?
「お前は好きにしろ。俺の荷物は今日にでも全部運び出す。じゃあな」
じゃあなって。
仁と一成を睨みながら、美山さんは大きなスポーツバッグを肩に掛け、さっさと歩き始めてしまった。
ちょっと、待って。
どういうことだろう。
いや、どういうことって言っても、きっともう、美山さんの中では結論が出てしまっているのだろうけれど。
部屋を、空ける…?
部屋替え申請を、出す…?
それはつまり、それだけ九さんが大切な存在で、とても素晴らしいことだけれど。
俺はもう、美山さんと友だちになれない、ということ………?
ショックを受けていた俺は、仁と一成と美山さんが、俺の頭の上で交わした短い会話を、なにひとつ聞いていなかった。
「赤狼よぉ…てめぇはそれで良いんだな…?」
「仁サン、一成サンに託しますよ」
「あっはは、ふざけんなよ…?元々てめぇのモンみてぇに言ってんな、カスが」
「何とでも。俺の道は決まったんで」
そして、美山さんが立ち去った後、2人が目配せしていたことも、知らなかった。
「………仁〜マジで俺に任せてくれる〜?」
「端からそのつもりなんだろ…?良いけど、俺も『かなり』ムカついてんの、わかってんだろーな、一成?」
「勿論…皆を代表して俺が手ぇ下すっつー事で。明日の新歓、俺のターゲット決定〜!」
「なら任せるぜ〜フォローは任せとけ」
ただ、雷が鳴リ出す前のような、空の鳴動に耳を澄ませていた。
2011-07-09 23:03筆[ 340/761 ][*prev] [next#]
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