1.音成大介の走れ!毎日!(4)


 習慣が人を作るんだそうだ。
 毎日繰り返される、何気ない行動の1つ1つが、人間を構成している。
 今日まで繰り返して来た習慣が、明日を作り、未来を形成して行く。
 つまり、充実した未来を理想とするなら、今この瞬間、温かいベッドの中で寝転がって妄想してる怠け者状態から卒業するって事。
 未来がどーでも良いならずっと寝てりゃあ良い、その代わり、不平不満を絶対に言ってはならない。
 どーせ自分は高みに居る人間とは違う、生まれも育ちも環境も違うし何の才能もないんから仕方ないって、グチグチ言うヒマがあるなら、ベッドから飛び起きるべきなんだ。

 動かない自分を永遠に甘やかしたいなら、黙って影の中へ身を沈めてろ。
 僅かでも人を羨み、光の世界へ憧れるなら、黙って自分の足で歩き出せ。

 だから、俺は今朝も起きる。
 俺の日課は、今日も変わらない。
 朝起きて、顔を洗ったら、ネットでニュースを流し見しながら水を500ml、ゆっくり時間をかけて飲み干す。
 寝て居る間に失われたミネラルを吸収したら、軽い筋トレ。
 身体の隅々まで丁寧に解して起こした所で、特別に用意して貰ってる朝食のデリバリーが届く。
 メニューは年間通して基本的に変わらない。
 バナナとその他季節の果物、穀類たっぷり入ったトーストかシリアル、その時旬の野菜を使ったグリーンサラダをたっぷり、シンプルな卵料理(ゆで卵かスクランブルエッグの2択に絞ってる)、それにオレンジジュースかグレープフルーツジュース、温かいジンジャーミルクティー。
 
 しっかり集中して咀嚼したら、もう頭はスッキリ、完全に覚醒する。
 早くコートに立ちたくて堪らなくなる。
 ボールが弾んでいる幻聴を、耳が追い始める。
 その欲求を抑えながら、部活用のジャージに手早く着替えて仕度を整える。
 デカいスポーツバッグには部活で必要な物と制服、今日のテキストとか課題なんかを詰め込む。
 気合いを入れる為に、玄関付近の姿見で両頬叩いておく。
 よっしゃ、今日の俺も絶好調!!
 何が起ころうとバッチリ走れる!!
 まだ静まり返ってる同室者の部屋へ向けて、「おはよー行って来まーす」と小声で挨拶。
 
 静かに扉を開けば、今日も新しい1日が待っている。

 十八の良い所は幾つかある。
 俺みたいな部活人間と一部の変わり者以外、こんな朝っぱらから起き出すヤツは居ない。
 四六時中賑やかな学園は、早朝ばかりは借りて来た猫の様に大人しく、新雪が降り積もった後の様に静寂に満ちている。
 そして、この恵まれ過ぎた、もうちょっと開発しても良いんじゃねーの…とも想える豊かな自然。
 寮から部活棟まで、かなりの距離がある。
 まだ寝静まっている、動物の声や物音しかない広大な自然の中を、ジョギングしながら朝練へ向かえるこの時間って、マジ素晴らしい。
 十八を選んで良かったーって想う瞬間だ。
 まー、俺は賑やかなのも好きなんだけどさ。

 さーてさて…今日はどんな1日になる事やら?
 走ってる間って、無心になったりもするけど。
 俺はどっちかって言うと、いろいろ考えて、頭の中を整理してる事が多い。
 特にいつもの習慣通り過ごし、1人で静かに走るこの朝の時間って貴重。
 策略巡らすには、朝が1番だ。
 あれこれ考えながら、バスケ部のテリトリーに差し掛かる頃合いを見計らって、同走者が付く。
 これも習慣の1つ。
 俺の親衛隊だ。
 「おはようございます、音成様」
 「おはよー」
 正しくは、俺の親衛隊を装った、間者ってヤツ?
 
 十八で無事に生きてく為に、「雇用主様」のご意向に添える様に。
 手段を用意しておいて損はない。
 俺の親衛隊の多くはおっとりした坊っちゃん育ちで、すっかり学園に染まってる無邪気なヤツばっかだ。
 大多数の生徒と同じく、朝練を見に来る事があっても、このジョギングに付き合える程、早起きに長けたヤツは居ない。
 「ほうれんそう」は全て早朝の内に、これが俺と間者の合い言葉。
 「昨日はお疲れ様でした」
 「どういたしましてー夜までアイツらに付き合う羽目になるとは、想ってもみなかったけどなー」
 「心労お察し致します」
 とか言いつつ、絶対表情を崩さない、職務に忠実なコイツの冷静さを俺は買っている。

 「宮成様が動かれております。渡久山様と向き合ってお話され、その後は何があろうと認めなかったご自身の親衛隊を漸く認可した模様です」
 「へー…元会長、急に男気見せて来たなー」
 「前様は武士道に保護されて居ります。一般寮ではなく、特別寮の加賀野井様若しくは成瀬様の部屋に身を潜められている可能性が高いです。その他、他の方々に目立った動きはありません。…あぁ、美山様は結局、九様の部屋へ泊まった様です」
 なるほどね。
 短く頷いた所で、ジャージのポケットが振動した。
 見なくてもわかる、「雇用主様」からのラブメールだろう。
 恐らく今日も前を守れっつーご指示だろうと想いきや、天気の事しか書いてなかった。


 『地上は大雨だ。
 そちらはどうだ。
 天気の変化に気を付けろ。

 今日も大介にとって素晴らしい1日となる様に。』


 はいはい…
 じゃ、いつも通り素晴らしい1日を始めましょうかねっと。



 2011-07-08 23:59筆


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