81.天使バルサンが奏でる狂想曲(6)


 ミキも、甘えたがりなのかねー?
 昼メシ食ってから授業出て、オレが1人部屋なんだって言ったら付いて来て、夜になったらダイスケもいたけど食堂行って、また一緒にオレの部屋へ戻って来て。
 そっからずーっと、オレに引っついてる。
 今はなんでかソファーを背もたれに、ミキに後ろから引っつかれた状態で、TVを観てる状態。
 ソファーの上に座ろうぜ!意味ないじゃん!って想うけど、ま、いっか。
 オレの友達って、なーんか皆、引っつきたがりが多いんだよなー。
 寒がりなのか?
 このガッコ、山の上だしな。
 それとも家柄上、スキンシップ過多な欧米文化の模倣ってヤツ?(ほら、オレはちゃーんとムズカシイ言葉も知ってるんだ!)
 ま、慣れっこだからいーんだけどさ。

 「お、新製品のチョコー!まだ発売前だけどさーオレ、もう食ったぜー!美味かったー!」
 「そうか」
 「ミキにも今度食わせてやるよ!あ、あのケータイ!!カッコいーな!!」
 「あぁ」
 「欲しーなー!!ケータイってさー新しいの出たらすぐ欲しくなんねー?!」
 「そうだな」
 「お、このドラマ、オレずっとチェックしてんだー!!内容が安っぽくておっかしーの、有り得ねーの!!ミキ、観てる?!」
 「あぁ」
 ムムー?!
 コイツ、さっきからオレの話ぜーんぶテキトーに流してねー?!

 「もうっ!!ミキ、ちゃんとオレの話聞けよっ!!つか、さっきからTV観てねーだろ?!」
 「お前を見てた」
 「なっ…!!」
 何だよ、その真顔…!!
 でも、口元!!
 わざとそう言ってやった、みたいに悪どく笑ってやがる。
 ちょっとイケメンだからって…ムッカツク!!
 「っもう良いっ!!オレ、風呂っ!!」
 「ドラマは良いのかよ」
 「良いっ!!」
 腹に絡みついてたミキの腕を払って、オレはバスルームへ突進。
 後ろで、喉の奥で笑ってる声が聞こえたけど、振り返ってやんなかった。

 「ふう…」
 しっかし、予想はしてたけどさー。
 ガッコもガッコなら、案の定、寮もすっげームダなカネかかってるってカンジ。
 いちいち白馬の上を行ってる。
 あんな立派なキッチンとか、誰も料理なんかしねーだろ?!
 絶対に要らないだろっつーの!!
 バカっ広いリビング、バカっ広い個室、そしてこのバスルーム!!
 ここは日本だろ?!
 しかも山の中じゃん!!

 こんな、どこもかしこもパリ顔負けみたいな…なんつーか寧ろ街?!1個の街ってカンジ…高校生には分不相応だろっつーの!!
 そんなご立派なご身分、家柄の御子息ばっかじゃねーだろ…山の中のガッコのクセに。
 あーあ、こーゆーフツーの感覚、はるとならわかってくれそーだな。
 結局、午前中教室で会ったっきり、ずーっと会えなかったけど。
 「お母さん」とか呼ばれるぐらいマジメそーに見えて、意外とチャラいのかな。
 それとも、はるとはアイドル?!らしいから、午後はなんか忙しかったのかな。
 食堂でも、昼も夜も全然見かけなかった。
 転校して来たばっかのこのオレが、わざわざ気にかけてあげてるのに…
 明日は、もっとはるとと会えるかな。
 もっと話すんだ!!

 つか、はるとの部屋はどこだ?!
 ケータイも知らないし、明日はいろいろ聞き出そうっと!!
 はるとの事を考えてると、なんか元気になって来て、鼻歌混じりでオレはどんどん「いつものオレ」へ戻って行った。
 眼鏡を外して。
 ズラを取って。
 わざとちゃんと着てる制服を着崩せば、いつものオレ、こんにちは!!
 ん、今はこんばんはか。
 ま、どーでもいーや。
 鏡に映った、見慣れたオレの姿にほっと一安心。

 母方の血縁上、オレはクォーターになる。
 染めてない薄い金髪、一見すると薄い茶色に見える、青みがかった瞳。
 ホントは、もーちょっと男らしー顔が良かったけどさっ。
 仕方ねーよな、オレはオレだ、この顔で生きてくしかない。
 『穂は可愛い、そこらの女の子よりも余程可愛いから』
 『気をつけなさいね…?老若男女問わず、警戒心を忘れちゃダメよ』
 パパとママに、子供の頃から言われ続けた言葉。
 『本当に気を付けるんだよ…穂は自分で思ってる以上に特別に可愛いんだから』
 ずっとずっと、言い聞かせられて来た。

 中学に上がった頃から、用心の為にって昼間は変装生活だ。
 パパとママには内緒だけど、オレはケンカが強いってわかってから、夜だけ素で動いてる。
 何でオレだけって、最初の頃は不満だったけど、流石にもう慣れた。
 確かに変なカッコしてる方が、周りの人間の本質が見えてわかり易いっつか。
 見た目で判断して来る性格悪い人間とは、オレ、付き合えないし。
 変装生活はつまり、人生勉強ってヤツだ。
 将来の為になるし、自分の身を守る為にもなるし、ハッキリ言って面倒だけどメリットのが大きい。
 オレが自由になれんのは、夜の世界と、風呂の中と、1人になる時だけなんだよなー。
 さーて、ちゃっちゃと風呂入っちゃおっと。

 ミキ、泊まってくよな。
 じゃー、風呂上がりにまた変装しないとな。
 そんな事を思いながら、鼻歌混じりに服を脱ぎ始めていたら。
 「穂、お前、着替えとかタオルとか、」
 急に、バスルームの扉が開いて。
 ミキが、目を丸くした。


 「お前………誰だ…?」



 2011-07-02 23:31筆


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