20.さて、お母さんの相方はお約束の…


 ふたがみさんに見送っていただきながら、乗りこんだエレベーター。
 なんとびっくり、ガラス張り…!!
 俺はガラスにぴったりと張りついたまま、外の景色に釘付けとなった。
 こうやって上昇して行くと、この学校内の敷地がどれだけ広大なものかよくわかる。
 今朝までの俺がまるで想像もできなかった、広い世界だ。
 眼下に広がっているのは、街。
 これは街と言っても、過言じゃないだろう。

 どう見たって、街だ。
 それも外国の、雑誌でしか見たことないからよく知らないけれど、パリとかニューヨークとか、そんな雰囲気の街角を切り取って来た、そんな瀟洒な街。 
 副会長さまと歩いて来た景色が、遥か彼方に窺える。
 青々とした森の木々、今が盛りの桜並木、そんな自然に守られながら存在する街を走る道は、石畳で舗装され、これまたレトロな雰囲気を醸し出す街灯と、プラタナスや銀杏、マロニエなどの街路樹が行儀よく並んでいる。

 その景観に違和感なく溶けこんでいる、このデザイナーズホテルみたいな寮と、向かいには同じ建物、こちらが三年生さんの寮なのだろうか。
 お洒落な車が走っていたり、老舗のブティックや上等のレストラン、カフェなどが門を構え、そこを訪れるセレブ達、ペットを散歩中の老夫婦が存在していても、一切疑問は感じないだろう。
 俺は今、ほんとうに日本にいるんだろうか…!
 あぁ、お散歩したい。
 あちらこちらを散策して回りたい。

 朝はどんな色に変わる?
 昼は、夜は?
 曇りの日は?
 雨の日は?
 夏は、秋は、冬は?
 ここで流れる、すべての時間を知りたい。

 早く知りたい、けれどそれは、これからゆっくりわかっていくこと。
 急がば回れ、焦ってはいけません。
 あぁ、楽しみだ〜… 
 ぼんやり眺めている内に、エレベーターは四階に着いていた。
 四階からの眺めで、これだけ楽しめるんだから。
 屋上とかあったら、行ってみたいなぁ。

 と言いますか、この学校内ぜーんぶを見渡せる場所はないのだろうか。
 俺だったら、展望台を作ってしまうかも知れない。
 ふわふわと夢見心地で、荷物を持ち、エレベーターを降りた。
 「えーっと…四五九号室ね…四五九、四五九…」
 上品な藍色の絨毯で敷き詰められた廊下を、きょろきょろと歩く。
 しかし、ほんとうにホテルみたいだ。

 天井は白く塗られたコンクリート。
 壁紙は、草木をモチーフにした紋章のような模様が、茶系のグラデーションで描かれた、どこかレトロな雰囲気のオートミール色。
 照明は白熱灯、ところどころにアーティスティックな間接照明が、さり気なく季節の花と置かれていて、その棚はアンティークのようだった。
 壁に示してある、部屋番号の案内の札は、流れるようなうつくしいデザインの英数字で描かれてある。

 それぞれ個性的なものなのに、うまく調和している。
 くぅ〜〜〜…インテリア好きの血が騒ぐ〜…!
 ふたがみさんの仰っておられた通り、生徒さんたちは帰省中でまだ戻って来られていないのだろう、廊下もどの部屋の扉も、しんと静まり返っていた。
 だから、遠慮なく辺りをきょろきょろできた。
 きょろきょろしている内に、「四五九号室」にたどり着いた。

 チョコレート色の、ほんとうに板チョコレートみたいな扉。
 金色の把手が付いている、その横に最新機器、カードリーダーの存在。
 目線の高さには、これも瀟洒なプレートが取り付けられており、「459/Miki Miyama/Haruto Susume」という英文字が刻まれていた。
 細部まで凝っていらっしゃる。
 今日からここが、俺のパラダイス…!
 感動しながら、荷物を傍らに置き、念のためノック。

 ふたがみさんは、同室者さまは帰省中だと仰っておられたけれど、念のためにね。
 すこし待っても、やはり扉の内から返って来る音はなく、俺は早速カードを取り出した。
 じゃじゃーん!
 多少の後ろめたさはある。
 帰省しておられる同室者さまを差し置き、いきなり新人の俺が入室していていいものか…
 でも、早く巣作りしたいし!!
 中がどうなっているのか、知りたいし!!

 いいよね、同級生だし、これから一緒に暮らしていくのだし。
 帰って来られたら、ちゃんとご挨拶しよう。
 そう思いながら、ドキドキと子供みたいに胸を高鳴らせつつ、初!カード使用。
 怖々と磁気面を滑らせると、あっさり、ピピっと音が鳴り、かちゃりと鍵が空く音が聞こえた。
 すごい…!!
 心の中で感動しつつ、でも、もう一度カードを滑らせた。

 今度は、ピピっの音の後、がちゃんと鍵が閉まる音。
 すごい…!!
 調子に乗って何回も開け閉めしたいところ、なんとか堪えて、今度こそ鍵を開けた。
 いざ、出陣…!!
 前陽大、参ります!!

 金色の把手に手をかけ、扉を開けた…

 その瞬間、不穏な風と鋭い空気を感じ、何を考える間もなくとっさに、手にした荷物を顔の前に掲げていた。



 2010-04-14 10:32筆


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