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 「…よし…!」

 ちいさく気合いを入れて、いざ参る!! 
 音を立てないように忍び足ダッシュ!
 あらゆる戦い(タイムセール)で鍛えられた陽大奥義のひとつ、学校内でも役立つ時が来るとは…感無量です。
 たどり着いたおおきな自販機の前、感激しながらも前後左右を警戒しつつ、素早くカード認証!
 ピピっというお馴染みの電子音に、どなたさまかが反応して扉を開けないかと用心しつつ、目的のドリンクを3本買い!
 ついでに目についた、「酸素水」「天然炭酸水」「とろけるココア」もゲット!

 さすが特別寮さん、取り出し口にはクッションがついていて(すごい配慮!)、ドリンクが出て来ても盛大な音が響かなかったのが幸いです。
 無事にお買い上げできた喜びに、浸るのはまだ早い。
 俺は一成の部屋へ戻り、2人にしっかりドリンクを手渡すまで、微塵も安心してはならないのです。
 6本のドリンクを抱えての帰路こそ、最も用心が必要!
 辺りに視線を巡らせながら、さぁ、忍び足ダーッシュ!!
 最大の難関、エレベーター前を通過せんとしたその時、俺の耳は先程まで無音だった空間から発せられた物音をキャッチ。
 危ない、危ない!!
 慌てて壁にへばりつき、気配を押し殺して、ドリンクを抱きしめたのでありました。
 
 エレベーターが動く音は聞こえなかった。
 ということは、どなたかが外へ出て来られたということだろうか。
 その行き先が問題であります。
 エレベーターを使うなら良し。
 こちらの自販機にご用があるのならば、陽大絶体絶命の大ピンチ。
 っく…俺に天井にへばりつける技能があれば…!
 あわあわしつつ、耳を澄ませ続けていたら。
 人が動く気配と、話し声…1人じゃない、携帯電話を使っている様子じゃないから…まさか2人以上いる?!
 ますますピンチ!!
 
 最終手段のとっておきの切り札、「何かあったらすぐワンギリ」と約束して来た、携帯を手にした。
 早々に迎えに来てもらったほうがいいかも知れない。
 いや、しかし、待てよ。
 もし、隠れ家さんにいらっしゃったメンバーさん方だったら、こんなに動揺することはないのでは…?
 俺が気まずいといいますか、なんとご挨拶と謝罪を申し上げたらいいものやら、心の準備ができていないだけで。
 果たしてどなたさまがいらっしゃるのか、拝見してから判断していいかも知れません。
 勇気を振りしぼって、そろりそろりと、壁と同化しながらロビーを覗いた。

 それにしても、どこもかしこも立派な造りですなぁ…
 高級ホテルってこんな感じなんだろうな、雑誌で見たことしかないのだけれど。
 エレベーター前なのに、待合室のように応接セットとか、観葉植物とか…
 素敵な男前スーツを着こなした、日々お仕事と戦うビジネスマンさんがいらっしゃいそうな、あるいはシックに着飾ったご婦人方が談笑していそうな、リッチな空間だ。
 うっかり周りの設えに見惚れてから。
 その中央に違和感なく存在している、御2方の姿を見つけて、息を呑んだ。
 御2方とも、ひっそりと笑顔で話されている、やわらかい表情の横顔が見える。


 柾先輩と、渡久山先輩、だ。


 帰って来られたばかりなのか、まだ制服姿の御2方。
 自然に伸ばされた柾先輩の手が、渡久山先輩の頭に触れて、からかうように、でもいつまでも優しく撫でておられて。
 渡久山先輩は、苦笑のように微笑っていらっしゃる。
 整えられた空間に馴染んだ、御2方の姿に、これじゃただの覗き見みたいだと自己嫌悪しつつ、俺はなぜか目が離せないで立ち尽くしていた。



 2011-06-27 23:47筆


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