75.強くなりたい
目を開けたら、見慣れない白い天井が広がっていて、安心した。
覚えていないけれど、手触りのよくない夢を見ていたようだ。
暖かく守られた部屋にいることで、嫌な汗は引いた。
俺は一体どうしたんだっけ…?
起き上がると、モノトーンでまとめられたシンプルな寝室だと確認できた。
無機質な色合いに、よく知っている香りの気配。
きょろきょろと辺りを見渡すと、俺の部屋ぐらいの広さがあるようだった。
寝る以外にない部屋、寝ることだけが目的の部屋。
そっとベッドを整え「お邪魔しました」と呟き、ぽつんと存在している扉へ近寄ったら、かすかに話し声のような物音が聞こえた。
恐る恐る扉を開くと、ここはどこ?という疑念がますます広がった。
20畳ぐらいありそうな空間は、大半がリビングで構成されているみたいだ。
天井は白、壁はアイボリー、床はフローリングだけど、寝室と同じくモノトーン主体で構成されたインテリア。
ところどころ、ビビッドな赤や青、シルバーを差し色に、基本色のナチュラルさを覆い隠すように、個性的な家具が置かれてある。
無造作に積まれたCD、洋服、適当に転がっているブーツ。
おおきなガラステーブルに、オブジェのように散らばった、アクセや…煙草の吸い殻?!酒類の空き瓶?!
これはもう、間違いありませんね。
この部屋の主を確信したところで、窓際に人影があるのが見えた。
1人は電話をして、1人は…?!
「そ〜だから〜当分は動かせねぇってカンジ〜あ?ちょっと待て仁、吸うなっつーの。はるるに俺まで怒られんじゃん。吸うなら外出るか換気扇の下で蛍やってろ」
「いーじゃん。はると疲れてっから、まだ起きねーよ」
「ま、ね〜けど、怒られんならてめぇだけ怒られろ。俺に匂い移したらマジ埋めてやる」
「っふ…一成よ、俺とお前は『金銀』の対だぜ…?一蓮托生だ、移してやる!!」
「てめ…マジウゼェ!!こっから突き落とすぞ、ゴラ」
「ひっひっひ…どう足掻いても、てめぇに付いたヤニの匂いは消えねぇよ」
「仁………あぁ?!今、取り込み中だ、黙ってろ!!話は明日だ、明日」
楽しそうに盛り上がっているお2人さんに近寄るのは、実に簡単でした。
「仁さん………?一成さん………?」
後ろから静かに声をかける。
その途端、跳ね上がった肩。
目に見えて怯える、屈強な背中2人分。
「は、はるる…?起きたんだ〜?」
「い、意外と目ぇ覚めんの早かったんだな?」
「うん、お陰さまで。………ねぇ?どうして揃って後ろを向いたままなのかな?俺、2人の目を見て話したいこと、確認したいことが、い〜………っぱいあるんだけどな〜」
「「…ハハハー」」
沈みゆく夕陽に照らされた、金色と銀色が眩しくて、いつもながらきれいだなあと想った。
「仁さん…?その指に持たれている、細長くて奇妙な煙を発してる物体X、今にも灰が落ちそうだけど?一成さん…?その手に持たれている携帯電話、チカチカ光ったまんまだけど?」
再び、跳ね上がった肩。
かと想ったら、ものすごい勢いで物事が展開した。
手近にあった灰皿に煙草が押し付けられ、携帯電話は「また明日」の言葉と共に切られた。
後ろめたい、沈痛な表情をした2人が、そろりとこちらを振り返って。
「「…ごめんなさいでした…」」
ばっと頭を下げる2人に、苦笑がもれた。
時間をたっぷりかけて、ゆっくり上げられた顔。
今度は、俺が頭を下げた。
「迷惑かけて、心配かけて、ごめんね」
「はるる…」
「はると…」
「助けてくれてありがとう。俺、いつの間にか寝ちゃってたね…運んでくれてありがとう。寝たらスッキリした!」
笑うと、両サイドから頭を撫でられた。
やさしく、気遣うように、軽く。
「はるる〜…俺らの前で無理なんかしなくていーからね?」
「んな他人行儀に遠慮すんな。いつも言ってるだろ、俺らはやりたい様にやってるだけだから」
「うん…ありがとう」
大丈夫だよ。
俺は大丈夫。
男なんだから、もっと強くならなきゃ。
2人はもちろん、皆さんに頼ってもらえるぐらい、皆さんに恩返しできるように、強くなりたい。
俺も守りたいものを守れるように。
強く、ならなくちゃ。
「さあて!お礼に、おいしいごはん作っちゃうぞー!」
「「わーい!手伝っちゃうぞー!」」
「あ、そうそう」
「「何?何?」」
「今日のところは大いに俺に非があり、反省中の身上ですから黙してお邪魔させて頂きます。しかし!喫煙と飲酒に関してはまた改めて、ね…?まったく…トップの2人がこうも自堕落なのだから、武士道メンバー全員で膝を突き合わせてお話する必要がありますな…後日お呼び出し致しますので、如何な予定があろうとも全員出席でよろしくお願い致します」
「「……はぁい…お手柔らかにお願いします…」」
「それは今後の2人次第です」
「はるる、はるる、ここ俺の部屋だけど〜いっつも吸ってんのは仁だけだよ!俺、はるるに会ってから吸ってないもん〜」
「てめ、一成…!つーか、つーか!お前はその分、酒量がパネェだろうがよ!!」
「はいはい、静かに!仲間を裏切らない!足の引っかけ合いの方が見ていて辛いんだから…」
「「…ごめんなさいでした…」」
いつも通りの空気に、心から安心しながら、とにかくごはん優先だとキッチンへ向かった。
2011-06-16 23:32筆[ 330/761 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
- 戻る -
- 表紙へ戻る -