71.宮成朝広の一進一退(4)


 来てくれなくて、当然だ。
 俺は凌にそれだけ酷い事をした。
 自分を偽ったばかりか、凌を傷付ける言葉を吐き、別れてそのまま…スクープされた後も何のフォローもしていない。
 今更どの面下げて、という想いがあった事は否めない。
 ただ時間が過ぎて行くのを待っていた。
 どれだけ愚かな人間なんだ。
 自身の甘さを、こういう最悪の事態に陥ってやっと、想い知らされるとは。

 こんな俺に、どんな未来が在ると言うのだ。
 宮成の家をどう守って行けると言うのだ。

 「温室」で待ちながら、後悔は尽きなかった。
 そもそもあんな別れを望んでいた訳じゃないと、手放した筈の身勝手な想いまで浮かび上がって来て、首を振ってやり過ごした。
 違う。
 他人や、家や、環境の所為にするのはもう止めたいんだ。
 全て自分の責任。
 全て、俺が招いた事。
 望んだ、望んでいない、そんな温い言い訳は通用しない。
 俺の行動や言動で、この結果が生まれた。
 
 人を1人、傷付けた。
 それも、心から大切に想っていた人を。
 今の俺に出来る事は何だ。
 真っ直ぐ歩いて行く為に、何が出来る?
 言ってしまった事も、やってしまった事も、時間は決して戻らない。
 過ぎた事を悔いてもそれは自業自得なだけで、幾らでも幾年月でも懸けて負って行けば良い。
 それよりも今、俺に何が出来るのか、先ず何を為すべきなのか。
 
 思考を切り替えられる様になったのは、俺の力じゃない。
 柾や前から直接何かを言われた訳じゃない、けど、ヤツらの姿勢から言葉に出来ない大切な事を教わった。
 年下から学ぶとか、ちょっと前の俺だったら我慢ならなかっただろう。
 脈々と受け継がれ、柾達が新たに築いて行った「3大勢力」の本願を、表向きは賛同しておきながら、微塵も理解していなかったのだから。
 変化は、怖い。
 未知の領域に足を踏み込むに当たり、情けないぐらい、俺には勇気と度胸が欠けている。

 わかっていない自分、ろくでもない自分、本当は弱い自分を、認める事はとても虚しい。
 まだガキながら、これまでそれなりに精一杯歩んで来た人生を、自分で否定するに等しいから。
 でも、俺は変わらなければならない。
 家を守ると決めたからには、大人に成って強くならなければならない。
 それが俺の選んだ道。
 だから、誠心誠意、出来る事をする。
 何もかも有耶無耶にして逃げたままじゃ、形式上は卒業出来ても、全て止まったままになる。

 エゴだ。
 こんなのは、本当に勝手な振る舞いなのだろう。
 ただどうしようもなく、居ても立っても居られなかった。
 気づいたら、柾に話をつけ、受信拒否されていてもおかしくない馴染みのアドレスへ、メールを送っていた。
 返事はなかったが、メールが無事届いた事に安堵した。

 夕陽が室内に入り込んでいる。
 直に暗くなるだろう。
 来て欲しい。
 いや、来ないでくれ。
 相反する想いと葛藤の中、ずっと、心の真ん中に根を下ろしているのはひとつ。
 許してくれとは言わない、恨んでくれて当然だ、どんな罵りも受ける覚悟はある、これ以後無視されようと俺にどんな文句もない。
 

 ただ………会いたい。


 「―――とも、……宮成先輩……」


 解錠の音が聞こえ、まさかと振り向き、ソファーから立ち上がった。
 勝手な想いが為せる幻覚かと、自嘲し、目を疑った。
 
 「……しの、……渡久山……」
 中学以来の懐かしい呼び方に、幻覚なんかじゃない、紛れもなく本物の凌が苦笑の様に微笑った。



 2011-06-08 22:15筆


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