69.思惑にまみれたニャンニャンフォー!号
『●新聞報道部/掲示板ジャック第224号●
【恐怖…!黒モジャ星より宇宙人襲来!!】
〜学園に忍び寄る、小さくてモジャモジャした地球外生命体〜
〜ヤツの狙いは我学園が誇るイケメン達?!〜
〜一方その頃、ひっそり紡がれていた癒しの旋律〜
十八の諸君、大変な事が起こった…!!
今朝、人里離れた我等が楽園に、前触れ無く宇宙からの敵襲在り!!
一体誰がこの様な事態を想定出来ただろうか?
有り得ない。
実に有り得ない。
宇宙からやって来た割に、敵の文化水準や他種族間交流能力は非常に貧しいものだと断言出来る。
次の写真(A)を見てくれ。
一応人間の高校生男子を想定し、作り上げたルックスの様だが、どこをどうしてこうなった…?
もしや敵の偵察隊は、我が国でも比類無きテンションの高さを誇る街、秋葉原を参考にしたのだろうか。
何故、学園内を僅かにでも参考にしなかったのだろうか。
大いに疑問を持つ。
生まれてこの方、1度も櫛を通した事のない様な、奇妙なボリュームを要する髪。
そんなに視力悪いならレーシック受ければ?有能な眼科ぐらいググって探せば?って言いたくなる、分厚いレンズの眼鏡。
重苦しいべったりとした前髪と相まって、全く表情が分からないのが不気味だ。
これぞ生徒模範なのだろうが、我が学園の制服はこれ程野暮ったいものだっただろうか…失望まっしぐらの真面目過ぎる制服の着こなし方(規律命の風紀委員の皆様の方が比べるもなく遥かに素敵よ!)
写真からにじみ出ているアイタタタ!なファッションセンス、どんなにカジュアルなパーティーでも絶対に呼びたくないよね!
社交界で知り合いと想われた日には、一生消えないトラウマになっちゃうよね!
こう見えて意外に話し易く気さくな人物…と、良い意味でのギャップを演出しているならばまだ良かった。
やっぱり人として付き合うなら、ルックスも大事だけど性格良い方が楽しいじゃん?
ところがどっこい、この間違えまくった人間モドキ、性格設定にも難有りとキタ―――!!
キーキーがなりたてながら、一方的に世界は自分中心トークを辺り構わず暴投。
ルックスを裏切らない、礼儀を弁えない振る舞いの数々で、学園内を早くも騒がせている。
まさに宇宙人、文化の違いは言わずもがな、最早言語能力さえ壊滅状態だ。
ばかりか、宇宙人の大好物はイケメン!
自身のルックスを棚に上げて、学園内でも非常に人気の高い、親衛隊持ちの生徒ばかりとコンタクトするとは何事か。
その毒牙にかかった犠牲者は、次の写真(B)(C)(D)(E)を見てお分かりの通りだ。
美山樹(15)、無門宗佑(15)、音成大介(15)、天谷悠(15)と、いずれもそうそうたるメンバーである。
襲来早々、1年生コンプリートは時間の問題!
黒モジャ・ハーレムに巻き込まれたくなければ、2年生、3年生はくれぐれも御用心!
採集されちゃった暁には、奴の故郷の惑星で生き餌にされちゃうかもよ?!
以下、新聞報道部の総力を挙げて調べ上げた、黒モジャ宇宙人こと、九穂(15)の対学園向け略歴ご紹介。
・・・・・・・・・
さて、少し明るいニュースを諸君に伝えよう。
先月、現風紀副委員長・渡久山凌氏(16)との破局が判明した、前生徒会長・宮成朝広氏(17)だが、傷心を癒すべく、我等がお母さんこと前陽大氏(15)と急接近している模様。
宮成氏のテリトリー内において、弁当シフト該当日外で時折昼食を共にし、談笑している光景が幾度か目撃されている。
相手がお母さんだけに、宮成氏も何かと相談し易いのだろう。
生徒会任期中は「獅子」と恐れられた暴君も、さしものお母さんの前では素直にならざるを得ないのか。
写真の通り、実に微笑ましい一面を見せている。
お母さんは件の渡久山氏とも交流がある様だ。
これを機に、気まずい別離を迎えた2人がお母さんの介入で和解する事を切に願う。
我々新聞報道部は、今後もこの新しい三角関係を見守り続ける一存だ。』
「………下らない真似しやがるネェ………」
ぐしゃりと、凄まじい勢いで握り潰される、刷り上がったばかりの号外。
色の薄い手の甲に浮かび上がる血管が、力の程を知らせる。
繊細な造りの手は、殊更に一部分を握り潰していた。
ちいさく取り上げられた記事、屈託なく微笑う少年の写真を、強く強く。
光の宿らない瞳に、常より一層暗く浮かび上がる翳り。
ユルサナイ。
クダラナイ。
くり返し紡がれ続ける、薄い唇の動き。
「表現の自由、か……笑わせやがる…」
くくくっと喉の奥で嘲笑し、閑散とした廊下、急にまっすぐ前を向いて歩き始めた。
無論。
まだ、始まったばかり。
そうだ、最初から全てこちらの想い通りになったら、全然面白くないからネ…?
既に予期しない所で、様々なものが動き始めている。
人間が人間たる、汚い感情や思惑が、表面に浮かび上がり始めているではないか。
そう、ゆっくりで良い。
「ネ、『お母サン』…?」
ゆっくり、息の根を止めてあげる。
誰も気づかない内に、ゆっくり、ゆっくり、じわじわと。
そして、誰もが気づいた時には………
「The end.」
歩きながら細かく裂いた号外が、ヒラリヒラリと、廊下を舞っていた。
2011-06-01 23:59筆[ 324/761 ][*prev] [next#]
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