68.白薔薇さまのため息(2)


 「嗚呼呼〜…呪われし黒き悪魔よ…!!我等の庭園に美しく咲き誇る薔薇を次々と下品に手折る悪魔…!どうしてくれよう…!嗚呼っ、目眩が…!」
 「「「「「きゃあ、白バラ様っ!」」」」」
 「「「「「お気を確かに!」」」」」
 白バラ様専用のどっしりしたアンティークのソファーに倒れ込みながら。
 まったく何て厄介な事になったんだと、俯いたついでに舌打ちした。

 「大丈夫ですか、白バラ様…」
 これまた大仰に駆け寄って来た心太の手を借りながら、息も絶え絶えといった演出で弱々しく起き上がり、ソファーに背を預ける。
 ザクロだかイチジクだかビワだかリンゴだか柿だか知らないけど?
 何て面倒くさい…黒いチビもじゃ宇宙人め!
 この俺の貴重なリラックスタイム(昼休み)を奪い取るとは、実に良い度胸じゃないか!
 年季の入った荘厳な造りのホワイトボードに、デカデカと引き延ばされた隠し撮り写真数枚…もじゃもじゃが美山や音成や無門と天谷とチャラチャラしてるザマ…を見て、想いっきり遠慮なく眉を顰めた。

 「あっちへ退けてくれる、紅バラ」
 「仰せのままに」
 心太だって見たくなかったのだろう、ホワイトボードは部屋の隅へ背面を向けて置かれた。
 厳かに引きずられていったホワイトボードには、モジャモジャ写真だけではない。
 それより更に厄介な数枚が視界に入り、大きくため息を吐きそうになった。
 前君と美山が教室で対立している写真。
 前君と宮成が一緒に居る写真。

 厄介だ。

 ただならぬ事態に、騒然としている親衛隊幹部を一通り見渡した。
 沈痛な面持ちの音成、無門、天谷の隊。
 その他の隊も、いつ自分の信奉している人間がモジャモジャの毒牙に掛かるやら…と不安と動揺を隠せない様子。
 いきり立っているのは、美山と宮成の隊。
 元々、美山も宮成も自身の隊に適当な態度で接している上、学園での立場がそれ程強いものではない。
 規模としても中堅、然程の勢力も影響力も有していない隊だったのだが…
 それ故、予期せぬトラブルにはことごとく反応する。

 まさしく、弱いチワワがうるさく吠えまくる状態だ。
 飼い主様に可愛がって貰えていないのに、何の忠義だか…いや、これが(かりそめの一時的)恋愛感情の恐ろしさというやつなのかな。
 「黒き悪魔め…身分不相応にも高雅な薔薇を欲しがる貪欲さ…絶対に許せない…!引き続き監視を…忌まわしき毒虫をこれ以上皆様に近付けてはなりません!!」
 「「「「「はい!」」」」」
 モジャ・モジャーオよ、厄介な存在ながら利用させて貰うよ。
 君は悪目立ちすぎる、それはつまり隠れ蓑に相応だ。

 「白バラ様…!前陽大はどう為さいます?」
 「まさか放置、ですか…?」
 「お馬鹿さんだね、君達は…それこそ黒き悪魔の毒に冒されて、真実が見えなくなっているのでは…?あんな只のお母さんが、宮成様にどんな懸想を抱くと言うの?美山様と対立したからどうだと言うの?幾度も重ねた我等のお茶会で、あれ程人畜無害な存在は無いと判明した筈。それより今、最も重大な命題は悪魔の処遇でしょう。悪魔に惑わされてはならない、我々の大事な御方が魔の国へ連れ攫われない様に私達は存在するのですよ。使命を違えてはなりません」
 「「はい…」」
 
 っち…
 納得してないってツラだ。
 つか、既に奴らの下っ端共が動いている可能性がある。
 まったくもって非っ常〜に!非っ常〜に!面倒だが、こいつらの可哀想な親衛隊の動向に注意しておかなくてはなるまいて。
 統制の取れていない隊はこれだから困るのだよ、宮成、美山め…頼んでないのに勝手に作られて勝手に大きくなっちゃった親衛隊だから、ボク達知りまちぇん!認めてまちぇん!無関係でちゅ!…っていう、てめぇ勝手な道理なんかね、この学園では通用しねえんだよ?

 要らないもんは要らないって、最初の段階できちんと言っておくべきなんだ。
 目立ちたくねえっつーなら、隅っこで大人しく真面目に学生しておくべきなんだ。
 責任は負わねえわ、放置しておくわ、都合の良い時だけセフレ利用するわ、お前らマジで何様?
 まだチャラチャラ手ぇ出しまくってる天谷のが可愛気あるっつーの、慕われてるっつーの。
 覚えておくからな、宮成、美山。
 この白バラ様に対して、この貸しは大きいぜ。

 ま、ね。

 俺が手を下さずとも、世界は因果応報で成り立ってる。

 お前らは遅かれ早かれ、自省して行動や思想を改めない限り、必ず痛い目に遭うだろう。
 俺は俺の為すべき事を全うするだけ。

 
 俺は、昴を護り、昴の意向に従うだけ。 


 ちらっと心太に流し目をくれてやったら流石に心得ている、目だけで同意された。
 新歓が明後日に迫っている中、為すべき事が急に山積みだ。
 モジャ・モジャーオへ対する呪詛を呟きながら、頭の中はフル稼働で今後の予定を組み立てていた。
 しっかし心春、マジで前君を友達だと想ってるんだな。
 表向きはあくまで生徒会長親衛隊所属の体を装っているが…
 前君の話題になってから、心配そうな暗さをかもし出したり、安堵の表情を浮かべたりと、微弱な変化を見せている。
 なかなか可愛い所があるじゃないか。



 


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